いらっしゃいませ!
名前変更所
私はあれから、おじいちゃんの遺体を寺田に任せてアレスへと向かっていた。
ヤケに静かな町が私を出迎え、少しずつ不安にさせる。
急がねば、桐生たちが危ない。
静かな町に転がっていた暴徒達は、恐らく桐生たちを狙った奴らだろう。
いつもより容赦なくやられている暴徒達の傷を見て、桐生が焦っていることを間接的に感じ取ることが出来た。
「あー・・・疲れた」
桐生は由美さんのことを想っている。
だって、神宮の話を聞いたときにショックそうだったからな。
私は由美さんのことを知っていながらも、由美さんが言うこの“時”のために、由美さんを危険に晒しつづけた。
だから、今度こそは守ってやらなくちゃいけないんだ。
モヤモヤってするけど、しょうがない。
お似合いの二人なんだから。
「まだ・・・大丈夫みてぇだな」
エレベーターが指定の階に到着し、扉が開く。
良かった。どうやらまだ無事なようだ。
綺麗なままのアレスを見て、私はホッと胸を撫で下ろす。
そして、扉から見えた光景にそっと足を止めた。
「・・・・お似合い、だなぁ・・・」
扉から見えた、三人の抱き合う姿。
まるで、愛し合う家族そのもの。
私はそれを邪魔しないよう、静かにその場から見守り続けた。
いつか来るであろう敵に備えて、強く拳を握りしめる。
この三人の幸せを、壊させないように。
「ん・・・?」
しばらく様子を窺っていると、外からヘリコプターの音が聞こえ始めたのに気が付いた。
ここはこのビルの最上階。つまり、敵のお出ましだってことだ。
「もう少し様子を見るか・・・」
私はすぐに出向くのを止め、三人の様子を窺い続けた。
外の扉の裏側に隠れ、ヘリコプターから降りてくる男たちを睨み付ける。
「久しぶりだなぁ・・・由美。それに遥」
「お前が・・・神宮・・・!」
外の様子に気づいた三人が、外に出てきて神宮達の前に立ちはだかった。
神宮は桐生を睨み付け、馬鹿にするかのように鼻で笑う。
話を聞いてていい気分のする奴じゃなかったけど、ここまで人を見下した目で見るやつは初めて見た。
欲望と野望で染まった瞳を、私は遠くから冷たく見つめる。
「こうして会うのは初めてだね・・・桐生一馬君」
「・・・・」
「初めまして、というべきか。さようなら、というべきか。君には苦労させられたよ・・・本当に」
「100億を取り返しにきたのね!」
由美さんの鋭い声に、少しだけ神宮の瞳が揺らいだ。
やっぱり、由美さんは桐生のことが好きだったんだな。
真正面から神宮を見据え、戦いを覚悟している綺麗な目。
桐生の隣にいるだけで、あんなに、生き生きしてる。
「あぁ、当然の話さ。そのお金は元々、私のだからねぇ。それに、色々処分しにきたのさ」
その一言で、私は咄嗟にその場から駆け出していた。
「処分しに来た」という言葉と共に動いた、神宮の瞳の先へ。
そう、奴の最初の狙いは遥だ。
突然飛び出してきた私に驚く三人を無視し、私は遥を自分の腕の中に庇った。
直後聞こえてきた銃声は、鋭い痛みと共に私を襲う。
痛い。
焼けるように、痛い。
右の、脇腹が。
「が、はっ・・・!?」
飛びかけた意識を、唇を噛むことによって何とか引き戻す。
「お姉ちゃん!?」
「あけ!お前・・・!」
「言っただろ・・・ちゃんと追いつくって・・・」
倒れかけた私の身体を支える桐生に、私はペチッとデコピンを食らわせた。
そのまま桐生の腕から離れ、後ろに居た由美さんに挨拶をする。
由美さんは私を嬉しそうに抱きしめ、優しく微笑んだ。
「お久しぶりね、あけちゃん」
「お前・・・由美と、知り合いだったのか?」
「私が遥の捜索をお願いした時、花屋さんって人にあけちゃんのことを教えてもらったの。それから出会ったのは偶然だったけど・・・ほんと、あけちゃんって良い人ね」
はぐらかして、くれたのか?
私が前から由美さんの連絡先を調べ、掴んでいた。ということを知ったら、桐生が問い詰めてくることを避けられないと思ったのだろう。
状況が状況なだけに、由美さんの優しさに救われたことを感謝する。
私は由美さんに言われた“時”を、この時を待ち続けた。
やっと由美さんの言う“時”が来たんだな。
「・・・そろそろ、良いかね?」
あ、忘れてた。
背後から聞こえてきた神宮の苛立った声に、腹部を押さえながら振り返る。
「君は馬鹿な女だ。まぁ、ヤクザなんてそんなものか」
「・・・自分の子供を撃つ屑野郎より、私はマトモだぜ?」
「仕方のないことだ。その子供は邪魔でしかない。今の私に、いや、これからの国の未来にね・・・」
「自分の愛した女と出来た子を・・・。どうして、そんなに簡単に・・・」
「一馬、あけちゃん。この人に何を言っても無駄よ。この人の頭の中には、そんな感情はないの」
あぁ、確かにそうだ。
瞳を見ていれば分かる。
何もかもを見下すような瞳。
あの瞳には、見覚えがあった。
私の両親と・・・そっくりだ。
自分の出世しか考えてない。自分の利益のために娘を傷つける。そんな奴の瞳に。
由美さんの言葉が気に食わなかったのか、神宮の表情が苛立ちに染まる。
「フンッ・・・。何を分かったようなことを言ってるんだ。私に捨てられた女に、何が分かると言うんだ?知ったような口をきくな!」
「私には分かるわ。どうして世良さんがあなたを裏切ったか・・・。貴方は国のため、政治のためと言ってすべてを切り捨てて生きている。でもね・・・それは全部、言い訳」
神宮の銃口が、由美さんを捉えた。
それでも由美さんは恐れることなく、話しを続ける。
私は話を聞きながら、既に破れていたシャツの袖口を破り、腹部に巻きつけた。
片方の袖口はさっきおじいちゃんに使ったから、もうシャツはボロボロだ。
「結局は、自分が伸し上がるための理由でしかないじゃない。そんな信念、すぐに嘘だと分かってしまうわ」
「ふざけるな!・・・お前や世良ごときに、私の何が分かると言うのだ」
怒声と共に銃声が響き、空気がピンと張り付いた。
心配する私たちをあざ笑うかのように、放たれた銃弾は由美さんを避けて壁に当たる。
下手なわけじゃないだろう。
わざと外したのか。由美さんの言葉に動揺したのか。
「貴方には何を言っても無駄ね。自分が恥ずかしくないの?」
「ククっ・・・。あっはっは!随分な言いようじゃないか。・・・でも、もうそんなことはどうでも良い。ここでお前らは、終わりなんだからなぁ!」
神宮だけでなく、部下たちも一斉に銃を構える。
やばい。さすがに喧嘩慣れしてるって言っても、この状況は不利だ。
人数、状況、全てが私たちの敵・・・
「そうかなぁ・・・。まだ、終わってへんのちゃうか?」
「寺田!」
・・・・でも無かったようだ。
声がした方向を見れば、寺田が部下を連れて立っている。
ほんと、いいとこ取りしやがって。
軽く手を振ると、私に気づいた寺田が何かを投げてきた。
落とさないように慌てて受け取り、投げつけられた袋の中身を確認する。
「これで力は五分五分や。風間の兄貴の意思は、まだ生きとるんやで」
袋の中身は拳銃だった。
弾もそれなりに、かなりの量が入れられている。
なるほど?
確かにこれで、力は五分五分だ。
怪我をしているこの状態でも、武器さえあれば話は別。
「フッ・・・はっはっは!これだから頭の無い極道は困る!・・・やれ!」
「ッ!?寺田っ!後ろ・・・!」
「なっ・・・ど、どういうことや、お前等・・・!!」
異変に気づいて叫んだ時には、もう既に寺田は自分が部下だと思っていた男たちに取り押さえられていた。
そういうことか。
寺田は近江連合の人間。そしてその部下が寺田を裏切った。
つまり、寺田の部下は・・・近江連合は、既にアイツのものということだ。
それを裏付けるかのように、神宮が勝ち誇った笑みを浮かべている。
「私は東城会から近江連合に鞍替えしたんだ。バックの組織をな・・・」
「なんだと・・・?」
「私は着々と進めていたんだ。東城会を捨てて、近江連合と協力関係を築く計画をねぇ・・・。私は世良が裏切ることは分かっていた。彼は融通の利かない男だったからね。結局は現実の前にくじけた」
「・・・現実だと?」
「あぁ、そうだ。君等に政治の話をしても分からないだろうが、国を動かすためには“金”と“力”が必要なのだよ」
その力というのが、前までは世良さんだったってことだ。
でも世良さんは思いとどまり、人間として正しい道へと引き換えした。
だから神宮は、世良さんを、東城会を、捨てるつもりだったのだろう。
自分の力とならなければ捨てる。この男の考えそうなことだ。
「じゃあ、この100億は・・・!」
「そうだ。近江連合へ捧げるよ。私としては東城会も潰れてくれて、まさに一石二鳥というわけだ!」
この話だと、錦山はただこいつに踊らされていたということになる。
権力に魅せられて動いていた錦山は、ただこいつの餌に騙されていただけってことだ。
話を聞く限り、錦山は権力に対して異様に執着心を見せていたしな。
10年前の事件と重なって権力を餌にされれば―――――人が変わるのも頷ける。
「神宮ゥ・・・貴様ァ!」
「悔しいだろう?だが・・・もう遅い!私が、私が理想を作り上げ、この国のトップに立つのだ!!」
その言葉を聞いて、由美さんが1歩ずつ動き出した。
銃を突きつけられて「動くな」と言われても、由美さんは止まろうとしない。
「トップに立つ。そんなこと・・・貴方にはさせないわ」
「お前・・・なにを・・・っ!?」
立ち止まって振り返った由美さんが持っていた物。
それは紛れもなく、爆弾だった。
強力なものがいくつもケースの中に積まれ、端末が怪しく輝いている。
静かなる、脅し。
これで神宮は由美さんを撃つことが出来ない。
「これであなたは私を撃てない。爆発したら、店の中にある100億も、消えてなくなるわ。私はあなたに・・・100億を渡さない」
覚悟を決めた由美さんの行動は、神宮を大きく動揺させた。
手出しが出来なくなった由美さんに遥を預け、店の中に避難していてもらう。
ここまで由美さんが覚悟を決めたのなら、ここから先は私たちの仕事。
「桐生ー。さっさとやろうぜー」
「・・・お前・・・・」
「いや、あのさ、空気読んでも良いんだけど・・・」
大事なところってのは分かってるんだけど、と。
そこまで言いかけて、私はそっと自分の腹部に目を落とした。
止血のために巻いたシャツの布が、止まらない血で真っ赤に染まっている。
凄い出血でやばいです桐生さん。
このまま話してると私、死んでしまいます。
「ハッ。唯一の戦力の女もそのザマか。ここですべてが終われば・・・東城会は終わったようなも・・・・」
パァン―――――――。
一発の銃声が響き渡り、神宮の言葉を遮った。
撃ったのは私。銃弾は大きく逸れてヘリコプターの翼を直撃する。
「東城会が、なんだって?」
「・・・」
「つぶれるわけねぇだろ?だって、桐生がいるんだからよ」
そう言って桐生にアイコンタクトを飛ばすと、桐生が懐から遺言状を取り出した。
中に書かれていることは、大体分かる。
世良さんが残した遺言状なんだ。
中に書かれているのはたぶん、錦山達が求め続けた、本物の東城会4代目の名前。
「お前たちはこの遺言状を餌にして錦たちを躍らせ、内部分裂を狙ったんだろうが・・・本当にあったんだよ、遺言状はな」
「おじいちゃんと世良さんが守り抜いた、本物の遺言状だぜ」
「世良めぇ・・・この場に及んで、余計なことを!!!そんなもの、今となっては紙切れにすぎ・・・」
「俺が死ねば、なぁ・・・」
ああ、そうか。
その桐生の一言で、私は全てを悟った。
遺言状に書かれていた4代目それは。
「俺は、東城会4代目・・・!」
桐生一馬なんだ、と。
さぁ、4代目。共に行こうか
(圧倒的不利?彼と一緒なら上等だ)
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