いらっしゃいませ!
名前変更所
風間組と嶋野組の戦いは、血みどろの戦いだった。
でも必ず決着は着く。極道の戦いに引き分けなんてものは存在しない。
「これまでだ、嶋野」
「くっ・・・!」
周りの雑魚を片してる内に、いつの間にか桐生と嶋野の決着が着いていた。
予想していた通り、嶋野が地面に膝を着いている。
だが、桐生の負った傷も結構深いようだ。
足を引きずるようにして歩いていることに気づいた私は、慌てて桐生に駆け寄った。
そのまま素早く肩を貸し、ふらつく桐生の身体を支える。
「無茶しやがって」
「・・・お前もだろう」
「私は平気だっての」
桐生の視線の先にある、私が負った傷の数々。
少しでも風間組の加勢になるようにと、張り切りまくった結果がこれだ。
でもほら、傷なんてすぐ治るだろ?
それより今ここで、負けてしまうことの方が私は嫌だった。
遥も、おじいちゃんも、皆も。守るって決めたから。
「おじいちゃん!」
「一馬は元から強かったが・・・あけ、おめぇもかなり強くなったんだな」
「そ、そう?」
おじいちゃんに褒められるのは照れくさくて、思わず顔を逸らした。
その直後に聞こえた、背後からの叫び声。
咄嗟に振り向いた私の目に飛び込んできたのは、船の上でイヤというほど投げつけられたあの物体だった。
「親っさん!遥!あけ!」
飛んでくる、手榴弾。
狙いは遥とおじいちゃんと・・・私。
離れている桐生は大丈夫だろう。でも、遥とおじいちゃんがこのままだと危ない。
こうなったら、私が盾になってでも二人を守るしかねぇ!
「くそっ・・・!」
痛みを、死を覚悟で、二人を守るように手を広げる。
二人を守るためなら構わない、と。
覚悟を決めていた私の目の前が、爆発する直前にぐるりと切り替わった。
「ッ・・・!?」
ドォォォォン―――――。
爆発する音。衝撃。痛み。
その最中聞こえてきた銃声。
嶋野の絶命する声。
一瞬で目まぐるしいほどの事が起き、私はしばらく目を開けられないで居た。
今の爆発で怪我を負ったのか、手榴弾側に向けていた左手が生温い感触で覆われている。
「親っさん!」
桐生の叫び声で、ハッと霞んでいた意識が戻った。
状況を把握できないまま生温い感触のする左腕を見て・・・言葉を、失う。
血が流れていた。
真っ赤な、助からないだろうなって思えるぐらいの血が。
でもそれは、私のじゃない。
いや、私のだったらどんなに良かっただろうか。
私の左腕に抱かれるようにして倒れている、おじいちゃんの身体。
私を守ったの?どうして!どうして!?
「風間のおじさん!」
「おじいちゃん・・・!」
「遥は・・・あけは・・・無事だぜ、一馬・・・」
「おじいちゃん何してんだよっ!?なんで私まで守った!あのままだったら、遥とおじいちゃんはまだ軽傷で済んだはずだ!!」
「あけ・・・さすがに俺だって、女に守られるほど、老いぼれちゃいねぇ・・・」
どうすればいいのか分からなくて、私はただただおじいちゃんを見つめていた。
血止めの薬はもう無い。今は救急車を呼ぶことしかできない。
そんな中、おじいちゃんはゆっくりと100億の話の続きを話そうとしていた。
苦しそうな息の中、桐生に伝えようと必死に口を開ける。
「一馬・・・100億の、話を・・・。100億を、盗んだのは・・・由美と、俺と、世良なんだ・・・」
「・・・!」
「100億は神宮の金だ。奴は東城会を使って、闇の金を洗っていた・・・」
「マネーロンダリング・・・」
「俺たちはその金で、神宮を失脚させようとしていた・・・。由美はその計画に、自ら志願したんだ・・・」
「由美が・・・!?」
「一馬・・・由美の所へ行ってくれ。由美は、アレスに居る。由美が・・・危ない・・・!」
話の最中でも構わず、私は必死に自分のシャツを破いておじいちゃんの傷を止血していた。
話なんて聞かなくても、後で聞ければそれで良いから。
だけど血は止まってくれない。
諦めろと私に言うように、シャツの布を赤く染めていく。
「一馬・・・それから、これを・・・」
「これは・・・?」
「三代目の、遺言状だ・・・。東城会の、未来が、ここに・・・ある・・・」
聞こえない。
聞きたくない。
ねぇ、まるで最後みたいだぜおじいちゃん。
お願い。私の最初で最後の大切な人。
お願いだ・・・死なないでくれ。
「ッ・・・ふっ、ぅ・・・」
「泣くな、あけ・・・。そうだ、お前にも渡すものがあったんだったな・・・」
「これ・・・は・・・」
「俺の戸籍、だ。本当は結構前に入れてたんだがな・・・・こんなゴタゴタがあったから、言えずにいた」
「・・・風間、あけ・・・」
おじいちゃんから手渡されたそれは、戸籍表だった。
娘の欄に、風間あけとしっかり書かれている。
虐待を受けていた私には、親から与えられた苗字というものがなかった。
何度かそれを、おじいちゃんに冗談で言ったことは覚えてる。
名前だけじゃ寂しいな、とか。
おじいちゃんの苗字かっこいいな、とか。
でも。
「本当に、ほんと、に、私を・・・こんな私を、良かったのかよ・・・っ?」
「あけ。お前は本当に強くてまっすぐな可愛い“俺”の娘だ。そのままで居てほしい・・・だから、これを、貰ってくれるな?」
「うん・・・うん・・・!ありがとう・・・!」
「そうか・・・」
それからはもう、一瞬だった。
おじいちゃんが最後に桐生の名前を呼んで、泣きそうな顔をして。
桐生に最後の謝罪を告げる。
「許してくれ、一馬・・・」
「親っさん・・・?」
「お前の親を、殺したのは・・・俺なんだ・・・」
「・・・!」
「ヒマ、ワリは・・・俺が、肉親を殺した、子供のための・・・施設」
「良いんだ、親っさん・・・!俺にとっては、親っさんが本物の・・・!」
「・・・」
「本物の、親父でした・・・!!!」
桐生が泣いていた。
見たことのない表情だった。
押し殺すように泣き、親っさんを抱きしめている。
どうしてだろう。
涙が、出てこない。
まるで信じないと身体が拒絶しているかのように、涙を流すのを拒んでいた。
ぐったりとしたおじいちゃんの身体。
それを見てもまだ、生きてると信じる身体の本能。
目を見開いたまま、私はその場に座り込む。
「・・・・」
残された戸籍表に書かれた、私の名前。
もっと早く言ってくれてたら、お父さんって呼べたのに。
でもこの歳の差で、お父さんっておかしいかな?
戸籍表とおじいちゃんの眠る姿を見比べ、クスリと笑う。
「おと・・・さ・・・ん」
「あけ・・・」
「おとう・・・さん。お父さん・・・」
「お姉ちゃん・・・」
子供のころからずっと、ずっと一緒にいた存在。
それが今、目の前で消えてなくなった。
そっと手を伸ばし、おじいちゃんの頬を撫でる。
まだ温かいけど、ピクリとも動いてくれない。
「・・・・あけ」
「ごめん。先に、行ってて・・・くれねぇか・・・」
「お前をここに置き去りにしていけっていうのか?そんな状態のお前を?」
「でも・・・由美さん、危ないんだろ?早くアレスに行ってやってくれ・・・」
一人になりたかった。
ずっと傍で支えてくれていたおじいちゃんに、色んなことを伝えるために。
桐生は私の状態を見て置いていくのを渋っていたが、動きそうにない私を見て、諦めたように立ち上がった。
それから私の頭を撫で、そっと耳元で囁く。
「あの時の約束、覚えてるよな」
「・・・死ぬなってやつか?分かってるよ。必ず、後を追いかけるから」
「あぁ。・・・じゃあ、先に行ってるぜ」
「じゃあね、お姉ちゃん。また後で」
「おう。気をつけろよ」
昔の私なら、確実に死んでいただろう。
おじいちゃんが居なくなった今、私の成長を見てくれる人は誰もいない。
両親を超えてやるという目標を知っている人も、いない―――――はずだった。
でも今は、おじいちゃんのおかげで桐生という存在に出会えた。
桐生ならきっと、私を見守ってくれる。
それに、おじいちゃんが守ろうとした存在だ。
私も最後まで、アイツに協力したい。
「おじいちゃん。この苗字・・・大事にしていくね?」
風間あけ。
私は大事にその戸籍表をポケットに仕舞い、受け継いだ名前に“ある誓い”を立てた。
私は誓う。この名前と、この涙にかけて。
(おじいちゃんが守ってきたものを守り、悪しきものに染まらないと)
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