Erdbeere ~苺~ 10章(2) さようなら 忍者ブログ
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2012年02月10日 (Fri)
10章2部/ヒロイン視点

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何が起きたのか、理解出来なかった。

銃声と共に崩れ落ちたのは、麗奈さんの身体。
咲き誇ったのは、麗奈さんの血の花。


それらを理解し切ってから、ようやく私は麗奈さんを撃った人を見ることが出来た。


麗奈さんは肩と心臓部分を撃ち抜かれており、反応はない。
私は静かに麗奈さんの瞼を閉じさせると、ゆっくりと立ち上がって目の前を睨みつけた。


「見覚えのある、顔だな・・・なぁ、荒瀬・・・」
「あん?なんだよ、あけじゃねぇか」


荒瀬は私が、情報を売っていた男の一人だ。
彼が殺したいと思う人間の情報を売り、彼はそれを買う。

それだけの関わりでも、私は十分この男に色々な情報を売ってきた。
なのに、それなのに。


「どうして、殺した・・・」
「あ?」
「どうしてこの女を撃ったって聞いてんだ・・・!」
「本当ならお前を撃つつもりだったんだがよ、女が前に出てきて撃たれたがってたから、撃ってやったんだよ。悪いのか?」


ああ、狂ってる。
情も何もねぇんだな。

・・・今更、気づいたって遅いんだろうけどさ。


「・・・・」


私は、守れるはずだった人を目の前で失った。

しかも自分のせいだ。自分が気を付けていれば回避できたかもしれない死だ。

でも私は、それを避けることが出来なかった。
守るはずだった麗奈さんに逆に守られ、私が助かった。


こんなの、おかしい。
一つの命を目の前で失った私は、撃たれた右肩も、限界で戦ってきた体力も、全て忘れて荒瀬の胸ぐらを掴んだ。


「てめぇ・・・っ。ふざけんじゃねぇぞ!」
「何そんなに怒ってんだよ。この世界じゃ殺されるも殺されないも自己責任だろ」
「関係ねぇ!今お前が撃ったのは、カタギだぞ・・・!」
「カタギだろうが何だろうが、この世界に踏み入ってたのは事実だろ?だからこんな騒ぎになってんだ」
「・・・・っ」


どうすればこの悲しみが晴れるのか、悔しさが消えるのか。

成す術など無いことを知っているからこそ、私は荒瀬に怒りをぶつけた。
持っていた猛毒の小瓶を取り出し、荒瀬の口元に近づける。


「・・・おいおい。こんなので俺を殺して、何になるんだ?」
「・・・荒瀬ぇ・・・!」
「へっ・・・」


荒瀬に鼻で笑われ、私は小瓶ごと地面に突き飛ばされた。
背中を強く打ちつけたせいか、呼吸が詰まり、ぜぇぜぇと掠れた息しか出なくなる。
そんな私を見て、荒瀬はただただ笑みを浮かべて立っているだけだった。

ここで殺されないのは、もう私が戦闘能力を失ったとみられたからだろう。
彼らの元々の目的は私じゃない。

錦山を弾こうとしたシンジと麗奈さんを殺す。それが目的。
そしてそれを阻止するのが、私の目的。


「・・・うっ・・・ぅ・・・」


もう叶わなくなってしまった、私の、目的。

シンジはどうなったのだろうか?生きているだろうか?
確かめたくても、全身を襲う悔しさと悲しみから抜け出せないまま。


「チッ・・・つまんねぇなぁ。お前がもうちょっと戦えそうだったら、本気で遊んでやろうと思ってたのに・・・」
「・・・・」
「・・・。お前も所詮、ガキだな」
「・・・・ッ」


言い返すことができず、そのまま麗奈さんをずるずる引き摺っていく荒瀬を、私は止めようともしなかった。
止められないと、どこかで分かっていたからだ。


「・・・うっ・・・ぁあぁ・・・!」


力が出ない。
身体が、動こうともしない。
無気力な自分の頬を伝う、涙の温もりさえ感じとることが出来ない。

出る声は、狂ったように泣く声だけで。
自分自身でも、耳障りなものにしか聞こえなかった。


「ひっ・・・あぁぁ・・・うぁぁぁぁ・・・っ!」


悲しくて泣きたいのか、悔しくて泣きたいのか。
もう、何もかも分からない。

どうでもいい。
とにかく私は、役立たずだってことだ。
それだけだ。分かるのは。


「わたし、は・・・っ」


零れていく涙は止まらずに流れ続け、地面に染みを作り続ける。


「き、りゅ・・・う・・・!」


今1番会いたい人の名前を、呼ぶ。
会いたいけど、会いたくない―――――彼の名を。

助けられなかった私を、怒鳴り倒してほしい。
こんな、こんな悔しさを背負ったままになるぐらいなら、桐生に気が済むまで殴られた方がマシだ。

逃げたいんだ、私は。

守れなかったという事実から。

彼から咎められることによって、ボロボロに傷ついて。
現実から、逃げてしまいたいんだ。


「ぁ・・・」


泣きながら身体を抱きしめると、小さく震えているのが分かった。
怖いんだな。ボロボロに嫌われて、このことから逃げようとしているのは私なのに。

何よりも、桐生に嫌われるのが怖いんだ。
せっかく信頼することが出来た人に、惹かれた人に、役立たずだと言われてしまうのが。


どうすれば、いいんだろう?

ぼーっとした頭で自分の腰元に目を落とした私は、ヒビの入った猛毒の瓶を見つけた。
荒瀬に突き飛ばされた影響で、傷ついてしまったのだろう。


「・・・・・」


そっと手に取った瓶の中身が、たぷんと怪しく揺れて、私の顔を映し出した。
なんて、酷い表情なんだろうか。
目は虚ろ色に染まり、何一つとして光を映しだとうとしていない。


桐生に殴られ、役立たずだと貶され、彼から離れることでこの罪から逃れようとしている自分。

それとは逆に、その貶されるということを恐れて震えている自分。


今まで一人で過ごしてきた時とは違い、整理のつかない自分の感情に恐怖を覚えた。
同時に芽生える、感情から逃げようとする弱い自分の心。


「・・・割れちゃいそうだな・・・これ」


ぽつん、と。
一言だけ呟いて、私は思いっきり割れかけた瓶を握り潰した。

流れ出る猛毒の液体が、私の身体をじんわりと侵していく。
皮膚から吸い上げる毒は、思ったよりも早く身体を回り始め、神経を鈍らせた。
震える手から、握っていた瓶が滑り落ちる。


「っ・・・は・・・」


死に近づいていく感覚と同期して、麻痺していく身体の神経。
でも何故か、怖く無かった。

私にとっては、あの感情を抱え続けることの方が怖かったからだ。


「かはっ・・・!」


咳き込んだ口から流れる、真っ赤な血。
ああ、死ぬんだな。このまま。
自分が作った薬で、こんな無残な死に様で。

吐いた血を拭うこともせず、私は冷たい地面に横たわった。

冷たくて、気持ち良い。
今ならこのまま、眠るように――――――。


あけッ!」
「・・・ぁ・・・」
あけッ!おいあけッ!大丈夫か!」
「・・・き、りゅう」


霞む視界に入り込んできた桐生は、私を見るなり肩を掴んで揺さぶってきた。
揺さぶられたせいで、這い上がってきていた吐き気が強くなる。


「うっ・・・げほっ・・・!」
「お、お前・・・自分の毒を触ったのか!?解毒剤はどこだ!」
「・・・・ん、だ・・・きりゅ・・・」
あけ・・・?」
「良いんだよ、桐生。私、なんか、これで」


桐生の表情が、分からない。
霞んでいく視界が邪魔だ。

邪魔だけど、この方が良い。
怒ってるのかも悲しんでるのかも、何も、分からないから。


「おい・・・あけ!お前自分で毒を触ったのか?何をしてるんだ!」
「お前だって、私が・・・死んだ方が、嬉しいだろ?」
「・・・どういう、意味だ」
「だって、私・・・は、知ってたんだぜ?麗奈さ、んが、裏切り者・・・だって」
「何・・・?」
「知ってたから・・・知ってたからっ!だから、だから、麗奈さんを説得しようと、思って、私はあの時、アジトで降りたんだッ!なのに・・・なのに・・・!」


吐き出される息のすべてを言葉にして、私は桐生に吐き出した。
何かも。怒鳴り散らすように。


「私が強ければっ・・・!上手くやってれば!麗奈さんを、シンジを、助けれたんだっ・・・!」
「・・・・」
「私が、私が殺したんだ!私が役立たずだからっ!私が生き残って、助けるはずの人が死んだ・・・それが、それが事実なんだよッ!」
あけ
「私は、役立たずなんだ。お前に、嫌われても、貶されても、しょうがない奴なんだ。だから、ここで・・・死んでしまっても、いいんだ・・・・もう」
あけ。・・・歯、食いしばれ」


バチンッという冷たい音が響き、視界がぐらぐらと揺れるのが分かった。
頬があり得ないぐらい痛い。殴られたのか?

それを理解するよりも早く、桐生の怒鳴り声が私に追い打ちをかけた。
毒に侵された意識が飛びそうになるのを、その声が繋ぎ止める。


「俺はお前を、役に立つだから連れて行ってるわけじゃねぇ」
「・・・?」
「役に立つとか立たないとか関係ねぇ。お前が生きてるだけでも、俺は十分だ。・・・こいつらの命も大事だが、お前もこいつらと同じ命なんだからな」
「でも、あいつらは、お前の・・・」
「だから、なんだ?お前の命を犠牲に助かったところで、俺は嬉しくねぇ」


なんで。どうして。
どうして桐生はそうやって、優しさをくれるんだ?
私なんかに、どうして。

幼馴染という存在は、誰にだって大切なはずだ。
最近知り合ったばかりの、私みたいな存在よりも。

納得出来ずに呆然とする私を、桐生が強めに撫でまわす。


「き、りゅ・・・?」
「お前は何でも自分を犠牲にしようとするな」
「・・・」
「俺にとって、お前も大事な存在だ」
「・・・あ、は・・・」


ほんと、バカだよなこいつ。
極道者とは思えないぐらい真っ直ぐで、本物の馬鹿だ。

私はふと笑って、静かに桐生の手に触れた。
遅かったかな?毒のせいか、舌すら動かない。


あけ・・・?」
「・・・・」
あけっ!おい・・・!しっかりしろ!解毒剤はどれだ!」
「・・・・・」
「くそっ・・・!」


桐生の手が私のシャツに触れ、薬の入っているポケットをひっくり返した。
様々な薬が転げ落ち、私の足元を転がっていく。
その中から桐生は、とある1本の薬を見つけて手に取った。

それは他の薬の瓶とは違う、白い瓶。


「これか・・・!?」


もう、遅いんだよ桐生。
頷くことも出来ないし、何かを飲むために口を開けることすら出来ない。

だけど、嬉しかった。

桐生が恨んでないってことが分かって、凄くホッとした。
大事な存在だと言われて、心の底から嬉しかった。

安心感と共に、全身の力が抜け落ちる。


「おい、あけ!」
「・・・ぁ・・・、・・・・」


崩れ落ちかける私の身体を支えた桐生は、持っていた瓶を自らの口元に近づけ、一気に中身を口に移した。

そして、顔を近づけてきて。

・・・・え?


「悪いな・・・我慢しろよ」
「ッ・・・!!」


気づいた時には、じんわりと視界が鮮やかになっていくのが分かった。
動かなくなっていた身体が、動くようになっていく。

感じるのは温もりと、そして自らの唇を奪われている感覚。

唇が、温かい。
私の口の中を、我が物顔で桐生の舌が這い回る。


「ッん!んぐー!」
「・・・」
「んんん!」


ちょ、ちょっと待て!
解毒剤が利いたことを伝えるために桐生の身体を叩くが、それでも唇は離れなかった。

この野郎!こっちはファーストキスなんだ!ファースト!
命が助かったことには感謝するが、こんな好き勝手されたらたまったもんじゃない。
咄嗟に拳を握り、がら空きになった桐生の腹に叩き込む。


「っぐ・・・!?」
「て、てんめぇ!調子のんなよ!?」
「自分を粗末にした罰だとでも思っておけ」
「っ・・・だ、だからって・・・!」
「助かったんだから良いだろう。・・・初めてだったのか?」
「ッ!!」


若干のふらつきが残る中、桐生の言葉に赤くなっていくのが分かった。
くそ、こいつ、ここまで来てからかうつもりか!?

苛立ち紛れに睨み付ければ、桐生が優しい笑みを浮かべて私の頬を撫でる。


「フッ・・・そうやって馬鹿正直な方が、お前らしいぜ」
「ば、ばか正直ってお前・・・!」
「俺が言ったこと、覚えてるな?あれは約束だ。二度とこんなマネ、するな」
「・・・・」
「分かったな?」
「・・・わかった」


ここで冗談でも嫌だとか言ったら、放り投げられそうなので止めておいた。
差し伸べられた桐生の手につかまり、ゆっくりと立ち上がる。

解毒剤のおかげで助かったけど、影響は残ってるみたいだ。
まだ、身体にピリピリとした痛みが残っている。
そのせいか、おぼつか無い足取りになる私を、桐生は黙って抱きかかえた。


「え、あ・・・!」
「文句は言わせねぇぞ」
「う・・・」


俗に言う、お姫様抱っこ。
これをされるのは二度目だが、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。

だがまぁ、ここで抵抗しても、説教されるだけに決まっている。
仕方なく私は静かに身体を預け、桐生の温もりに少しだけ涙を浮かべた。


























私は、彼の傍にいられるんだ。これからも、ずっと
(それだけで私は、今まで以上の幸せを手に入れたような気がした)
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