Erdbeere ~苺~ マイナー系 (龍が/如く) 忍者ブログ
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いらっしゃいませ!
名前変更所
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2021年05月29日 (Sat)

関係が進展するのにそう長くはかからなかった。
どれだけ優しくと思っても、所詮は極道。湧き上がる支配欲や独占欲は抑え込めるはずもなくまだ慣れない彼女を自分のモノにしたのもつい最近のこと。

最近では少し慣れてきたのか、そういうことが終わったあとでも起きて話せるようになった。
荒い息を吐き、未だ震える体で俺にすり寄ってくるあけをゆっくりと抱き寄せる。


「・・・・ふ、気持ちよかったですか?」
「うるさいよ・・・・」
「そんなに恥ずかしがることないでしょう?」
「・・・・・」


余裕がなさそうなあけを見て少し安心する。
なぜなら俺も、同じぐらいに余裕がなかったからだ。

行為なんて、慣れてるつもりだった。
経験だけならそれなりにある。一夜限りなんて、金で女を買えるようになってから何度も味わってきた。そのはずなのに、彼女との行為はどの一夜限りとは比べ物にならないほど興奮した。

彼女の一つ一つの言動に理性が揺らがされ、壊れそうになる。
あけの声が可愛らしくて、強がるのを壊したくて、泣かせてしまいそうになるのを我慢して。
何も考えられないぐらいに快感を与えて、求めるまで溶かし尽くして。
そんなことに興奮を覚えるなんて思ってもみなかった。行為なんて、ただただ快楽を得るもの。快楽を得るために繋がる。ただそれだけだと思っていたのに。

自分が快楽を得るよりも、相手が自分の与える快楽に支配されるのが、こんなに心地よいとは思わなかった。余韻に浸る体を優しく撫でれば、あけがくすぐったそうに身を捩る。


「ん、ちょっと・・・」
「熱いですね」
「そりゃ、そうでしょ・・・何回やったとおもってるの・・・・」
「何回でしょうね?」
「体力おばけめ・・・・」
「仕方ないでしょう?・・・貴方が悪いんですよ」


求めても求めても、足りない。


「あんなに可愛らしい声をあげられては、我慢できないでしょう?」
「っ~~~、うっせー!」


俺の発言にあけが顔を真っ赤に染めて背を向けた。
その背中を抱きしめれば、距離が縮まりお互いの肌が優しく触れ合う。


「この体勢だと貴方をすっぽり包めますね」
「・・・・小さくて悪かったな」
「いいじゃないですか。私は好きですよ、可愛らしくて」
「お前がでかいだけだけどな!私は平均だ!」
「ふっ・・・そうですね。私からすれば、ですね」
「あ・・・!?ちょ、ちょっと!どこさわって・・・!」


小さく柔らかいその胸を手に包み込めば、驚いたあけが俺から離れようと暴れだした。それでもこの体勢で俺に抱きしめられていれば逃げることなど出来るわけもない。


「っ、も、ばか・・・・!」
「すみません。抱きしめていたら触れたくなってしまって」
「さっきしたばっかでしょ・・・!?」
「足りませんよ」
「んん・・・」
「それに言ってるでしょう?嫌ならきちんと、嫌といえばやめますよ?」


そう囁やけばあけがぴたりと抵抗をやめた。
そしてちらりと俺の方を向き、まったく力のない怒りの表情を見せる。


「・・・・・」
「嫌じゃないんです?」
「わかってて言ってるだろ」
「何がですか?」
「・・・・嫌じゃないって、わかっていってるだろ」
「それはどうでしょうね?」


そう言いながら再び肌に手を滑らせれば、甘い声が響いた。


「っ、ぁ・・・てめ、元気すぎだろ・・・・」
「なぜでしょうね。貴方が相手だと尽きる気がしません」
「そう、かよ・・・」
「貴方はどうなんです?」
「はっ?いや・・・そりゃ、嫌じゃないっていってるんだからわかるだろ」
「貴方の言葉で聞きたいですね?」


彼女はあまり直接的な愛の言葉は言わない。
わかっているとしても、たまには聞きたくなるものだ。
煽るように撫でながら耳を甘噛みすれば、耐えられなくなったあけから小さな声で愛が紡がれる。


「ぁ、や、好き、だから・・・ほしいに決まってる、だろ」


不器用だが、それで十分だ。
俺を煽るには――――本当に、十分すぎる。


「我慢できなくなった」
「する気なかったくせに」
「煽るのが悪いんだろ?」
「・・・・じゃあ、責任とる」
「そういうのが煽ってるんだ」


余裕がなくなって乱暴に組み敷けばあけは抵抗もなく俺を見つめる。


「じゃあ、何しても煽ることになるじゃんか」
「・・・・ようやく気づいたのか?」
「むかつく・・・・」
あけ
「ん・・・・」


止まることを知らない、初めて味わったその愛に俺は溺れ続けることになるだろう。
この先ずっと。約束したからな――――死ぬまで、離さない。


「愛してる、あけ
「・・・わたしも」



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2021年05月29日 (Sat)


あけ、おはよう」
「あ、あぁ、おはよ」


最近、あけの様子がおかしい。
前までは元気よく挨拶をしてくれて、目を真っ直ぐ見て話してくれていたのに最近はやたら目を逸らされるし夜の飲みにも付き合ってくれない。

ここ最近でなにかしてしまったかと考えるが、特に何も思い当たらない。
ただいつもどおり仕事をして、たまに飲みに行って。

だが男として惚れさせてみろと言われている中だ。それなりのアプローチはかなり仕掛けてきた。だがどれも空を掴む感じで、特に好感触なものがあったわけではない。逆にいえば嫌われるようなことをした覚えもない。無理やり襲ったこともないし、触れてもいないからだ。

そこでふとした不安が浮かんだ。
最近あけは余裕がでて東城会本部にも行き来するようになっていた。まさかそこでなにかあったのか?誰かと親しくなって、まさかそいつと――――?

見えないライバルに苛立ちを感じて思わずペンを折る。
ぴしりと聞き慣れない音が響き、あけが大慌てで俺の方に駆け寄ってきた。


「おおおおい!?考え事してるからってペン折るなよ馬鹿力!!」
「あ、あぁ・・・すみません」
「まだ体調悪いの戻ってないのか?」
「いえ、そんなことは・・・・」


椅子から立ち上がり、あけの方に近づく。
すると今まで普通に話していたはずなのにまたすぐ俺から視線を逸らして距離をとってしまう。


「(・・・・・これは、もしかして)」


最悪のパターンから一転。
俺はその様子から見えないライバルではなく別の可能性に切り替えた。

金の力とはいえ、それなりに女との付き合いはあった。そのおかげで悪意のある好意や純粋に自分を気になって近づいてくれる女の好意に気づくことは出来る。そして俺がもう一つの可能性として考えたのは、今までの俺の努力が実り始めたという可能性だった。


「どうしたんです?」
「え?いや、なんでもねぇよ」
「・・・・少し、顔が赤いようだが」
「えっ!?い、いや、化粧だろ、チークしてるし・・・・」
「そうなんですか?珍しいですね、貴方はいつもあまり朱色のチークは使わな・・・・」
「っ~~~~!!!!」


そう言って顔を覗き込もうとした瞬間、あけは謎の叫び声をあげて部屋から飛び出していった。

・・・これは、困った。
近づけなくなるのもまた経験にない。
こんなにウブな反応はそれこそ小説や漫画で見るような話だろう。

見たことのない反応を楽しみつつも、逃げる相手をどうやって捕まえるか悩んでいると開かれたままの扉から大吾さんが入ってきた。突然の訪問に取り乱した俺は慌てて服に乱れがないかなどを確認して大吾さんの前に頭を下げる。


「こ、これは、お迎えもなしに・・・・大変申し訳ございません」
「いや、あけとお前の様子見にきたんだが・・・ちょっと、いいか?」


そういう大吾さんはなにかに気づいたようにニヤニヤとしていた。そんな楽しそうで無邪気な大吾さんの表情を初めてみた俺は、扉をしめて大吾さんを椅子に座らせ話を促す。


「それで、どういたしました?」
「・・・お前、あけとなにかあったのか?」
「・・・・それは」
「いやほら、俺は昔からあけと付き合いがあるんだ。だからわかるんだよ、その・・・あー、間違っていたらすまないが、もしかして峯・・・あけと付き合ってたりするのか?」
「いえ、付き合っているわけでは・・・・」
「なるほどな、その様子だとお前があけを好きなのか」


すばりと言い当てる大吾さんは本当にあけや俺を良く見てくれていたのだろう。
否定する必要もないため、俺は静かにうなずく。


「なるほどなぁ・・・へぇ、それで・・・」
「ど、どうされましたか?」
「いや、あけは最近東城会の本部にも顔を出してるんだが、峯の話をするとやたら落ち着かなくなっててな・・・もしかしたらって思って覗きにきたんだよ」


いたずらが成功したような表情で笑う大吾さんに、いろんな意味でため息が出る。


「さっきすごい顔で飛び出していったしな」
「逃げられてしまいまして」
「あいつはそういう経験ないだろうからな。ま、経験豊富なお前からすれば大変かもな」
「豊富なわけでは・・・」
「冗談だ。それで、本題はここからだ」


声色が変わった。
突然真剣な声色を見せた大吾さんに思わず息をのむ。


「お前も、あけから過去は聞いたんだろう?」
「・・・・はい」
あけを幸せにしてやってくれよ。・・・・・わかるだろ、あいつがどれだけ真っ直ぐで、馬鹿で、危ないやつか」
「えぇ・・・それは、身を持って、知っています」


下手すれば自分も死ぬかもしれない中、俺の手を引いて彼女は俺の命を救った。
それだけじゃない。危険の中、本部に出入りを続けて俺の復帰を手伝ってくれた。復帰する場所を作ってくれ、俺の護衛まで全てやってくれた。その間にいくら自分が傷つこうとも、何も言わず。

俺は知っている。きっとそれが俺じゃなくても、彼女はそうしたはずだ。
それでも嬉しかった。その真っ直ぐな心の中に俺が入れていることに。
そして、だからこそ惚れたのだ。誰にでもその純粋さを向けれる彼女に。


あけを幸せにして、お前も幸せになれ。それを約束すれば良いことを教えてやる」
「・・・必ず、幸せにします」
「お前も幸せになるんだ」
「・・・・・・」
「峯」
「・・・わかり、ました」
「あぁ、それでいい。ならいいこと教えてやる!」


真剣な声から一転、どこか楽しそうに言い放った大吾さんの言葉を聞いて、俺はすぐに行動へと移すことになった。


















神室町から少し離れた場所にある、小さなカフェのその裏側。
誰も来ないような小さな公園のベンチに座って、あけはずっと地面を見つめていた。
遠くからそれを見かけた時にはどうしようかと考えたが、俺は音を立てず逃げられないように公園の入り口にたった。

そこは、大吾さんに教えてもらったあけの逃げ場。
喧嘩したりなにか考え込むときは必ずこの場所に逃げ込むのだと、大吾さんに教えてもらった。


「・・・・どうしたら、いいんだ」
「何がです?」
「ッ!?」


飛び上がるような反応と共に無意識にでも拳を構える彼女はさすがというべきか。
だが今回は好都合だった。反射的に放たれた拳を受け止めた俺はそのまま彼女の腕を力強く掴んだ。


「これで、逃げられませんね」


さすがに彼女の力に負けるほど俺の力は弱くない。それもあけは十分わかっているのだろう。早々に抵抗するのを諦めたあけは、俺をちらりと見てすぐに目を逸らした。


あけ、どうして私の方を見てくれないのですか?」
「いや・・・その、なんか・・・・」
あけ


ずるいとは思ったが促すように空いている方の手で顎を優しく掴んだ。
無理やり俺の方を向かせ、逃げ場をなくせば無理にでも目を泳がせようとするあけの必死さに思わず吹き出してしまう。


「ふっ・・・そこまで必死にならなくてもいいでしょう」
「い、いやだって、その、なんか・・・」
「なんです?」
「・・・・苦しいんだ、最近。お前と、いると・・・その、むず痒くて」
「その言葉は、うぬぼれても良いと?」
「っ・・・・たぶん」


戸惑いが残るその反応に俺は今すぐにでも彼女を食ってしまいたくなった。
そんな衝動をどうにか押さえ、冷静にあけの頬を撫でる。


あけ
「・・・・」
「好きですよ」
「っ、あ、あぁ」
「返事を」
「・・・・っ」
「・・・・あけ
「わ、わたしも、好きだ」


本当にズルい人だ。
こういうときだけ、真っ直ぐ俺の方を向くなんて。


「・・・・あの」
「う、うん?」
「我慢できそうにないので、一応聞いておきます。キスしてもいいですか?」
「え?あ・・・い、いや、待って、私そういうのしたことない・・・・!」
「・・・・キスも、ないんですか?」
「悪いかよっ!?」
「いえ、全然。むしろ貴方の最初で最後になれることを最高に思いますよ」


俺の余裕が気に食わないのか、その発言を聞いたあけは拗ねたように俺から顔をそらそうとした。もちろん、そんなことは許さない。もう待つこともできそうになかった。

声を上げるあけを無視して、抗議の言葉すら全て飲み込んで。
触れるだけの口づけを送った私は少し離してあけを見つめた。そしてもう一度、次は深く、遠慮なく貪るように口づけた。

甘い。――――口づけとは、こんなに気持ちのいいものだったか?
そういえば今までの女との関係で口づけをしたことはほとんどない気がした。求める必要もあまり感じたことがなかったのだ。欲を発散するだけの恋愛であれば、体の関係だけで口づけなんてそんな甘ったらしいものなどいらない。煩わしいだけだ。

それがどうだ。
俺は自分の理性が一瞬で切れそうになるのを感じて思わず口づけを止めた。

甘い香り。あけの聞いたことのない声。表情。

あぁ、こんなにも、恋とは気持ちがいいものなのか。


「な、なんだよ」
「いえ・・・さすがに外で止まらなくなるのはまずいでしょう?」
「ッ~~~そういうこと平気で言うなよな!」
「そんなに怒らないでください。あけが悪いんですよ、ここまで焦らすんですから」
「・・・ごめん、だって、なんて言ったらいいか分からなかったんだ。私もお前が好きだって気づいて、でも、やっぱりお前には・・・その、もっといい女がいると思ったから・・・」
「私は、貴方が良いんですよ」


どんなにキレイな女性よりも、貴方が。


「・・・へんなやつ」
「それは、お互い様でしょう」
「んだよ・・・峯はモテるから別にお互い様じゃないだろ」
「嫉妬ですか?」
「・・・・そうだっていったら?」


やられっぱなしが気に食わなかったのか、本心なのか、拗ねた表情のままあけが俺を見上げてそう言い放つ。まったく、この人は・・・本当に最高だ。


「心配ならGPSでも何でも持たせても構いません。私の全てを管理していただいて問題ありませんよ」
「そっ、そこまでしねーよばか!!」
「そうですか?貴方の信頼を得れるなら何でもしますが」
「ばか、そうじゃない。・・・・過去に、嫉妬してんだよ」
「ッ、貴方は・・・・」


そんなに可愛らしいことを言われて、我慢など出来るはずがない。
優しくするはずだったのにと呟いて俺は理性を切れる音を聞きながら彼女に再度口づけを落とした。彼女が泣いても暴れてもやめないぐらいに、深く。




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2021年05月28日 (Fri)

ぱちん!と、俺が死のうとした時以来の大きく心地よい音が響いた。
俺は叩かれた頬を押さえ、何が起こったのか分からないままベッドの上にいる。


「あれだけ!やすめって言っただろうがバカ!!!私が気づかなかったらどうするつもりだったんだ!!?」


俺の頬を叩いたあけは涙を浮かべながら体温計を俺に差し出す。
あぁ、そういえば。今日は少し体調が悪かった。心配されたが今日は明日の会議に向けて資料作りが必要で、俺はパソコンに向かって作業をしていて――――それで。


「お前のことだから絶対作業してるだろうなと思って覗きにくればこれだ!」


そこからの記憶がないということは、俺は倒れたのだろう。
怒りながらもテキパキと俺の肌をふき、サイドテーブルに飲み物やお粥を運んでくるあけに俺はただすまないと謝った。


「それで、明日のテリベスカンパニーとの会議は・・・・」
「それは片瀬と連携して体調不良で延期することと、延期後の日程、あと資料もお前がチェックしていた概要だけを先出しにして後ほど送り直すってことで手を打ってある。心配すんな」
「そうか・・・・」


仕事ができる補佐と秘書を持つというのは本当にありがたいことだ。あけの報告を聞いた俺は胸を撫で下ろし、サイドテーブルに置かれたペットボトルに口をつけた。


「んで?私の説教はまだ終わってねぇんだけど?」


サイドテーブル横で仁王立ちになって腕を組んでいるあけは、今までに見たことのない表情で俺を睨みつけていた。思わず、水を飲むのをやめる。


「あれだけ昨日やすめっていったよな?」
「・・・ですが、資料が・・・」
「倒れてからじゃおせぇよな?私に頼んだり片瀬に頼んだり、出来たよな?」
「ですが貴方も別な仕事があるでしょう」
「私は!・・・なんで私に頼らなかったって言ってんだよ。私が無理そうでも、言ってくれたっていいだろ・・・・」


あけへの思いを自覚してから、日に日に彼女への思いは大きくなる。
こんなに真剣に怒られたのはいつぶりだろうか。頼ってくれと泣かれるなんて、思ってもみなかった。


「すまなかった」
「・・・・本当に反省してんの?」
「あぁ。どうすれば、許してくますか?」
「うーん、健康になって、私のセレナ飲みに付き合ってくれる・・・なら?」
「そんなことでいいのですか?お安い御用ですよ」
「奢らせるからな、てめぇ」
「それもお安い御用です」


怒りながらもどこか優しいあけに思わず顔が緩んでしまう。
だがそれを見られれば怒られそうだったのもあり、俺は用意されたお粥に手を付けた。・・・とても温かい。作りたてのようだ。気づいて大きく顔をあげれば、事務所についてるキッチン側からネギのいい香りがする。


「・・・作って、くれたのですか?」


俺の言葉にあけがどこか悩んだ表情を見せた。


「あー、うん、まぁ、そう。まずかったらごめんな」


手作りは嫌がると思われたのだろうか?そんなことを気遣おうとすることすらも微笑ましく思いながらもお粥を口に運ぶ。外食とは違う、素朴な味。だがきちんと出汁がきいていて、家庭的な味だ。


「美味しいです」
「おっ?まじ?よかった~!」
「意外ですね、料理ができるなんて」
「そりゃ薬とかも扱うから大体薬品と同・・・あ、それで思い出した。風邪薬作ってきたんだよ」


作ってきた?
買ってきた、などではなく?

そういえばあけの経歴を聞いた時、薬剤師としての知識があるため薬品を扱えるときいたことがある。それこそブラックな調合なども可能で毒薬を作り出して戦ったことがあるというのも大吾さんから聞いたことがある。
だからというわけではないが、俺は少しだけ嫌な予感がして首を横にふった。


「いえ、普通の風邪薬で治ると思いますから」
「そんなこというなよ、な?成分はほとんど風邪薬と同じだよ、市販の」
「ほとんどってなんですか」
「いやちょっとだけ栄養剤的なのも入れてるだけで全然大丈夫だって、な?」
「私を実験材料にするおつもりで?」
「・・・・・・そんなことないって!」
「貴方は嘘を吐くことを学んだほうがいいですよ」
「あ~~!!!」


渡されかけていた薬を奪い取り、放り投げる。
手作りの薬とはいえきちんとした袋には入っていたため、特にベッドルームに問題を起こすことなくその薬は俺たちの手から離れた。


「ちぇっ。じゃあ市販薬」
「まったく・・・・」


お粥を食べ終わったあと、俺は渡された薬を飲んだ。
お腹が満たされ、体が温まると自然と眠気が襲ってくる。その様子を見たあけが俺を寝かせようとベッドサイドから離れようとする気配を感じた。無意識に手を伸ばし、あけの手を掴む。


「っ・・・?」
「・・・・いかないでくれ」


あけはなにか言おうと数秒悩んだ様子を見せたが、何も言わず俺をまたいでベッドに入り込んだ。


「じゃ、私もねよー!」
「それはどうかと思うんですがね・・・・」
「えぇ?んだよ、だってただぼーっと見られてもつらいだろ?なら一緒に寝るほうがいいじゃねぇか、な?」
「・・・・・」
「お前が健康だったら絶対やらないんだから、ラッキーぐらいに思っとけよ。ま、今のお前なら襲われても殴り飛ばせるからな」


確かに俺の体では、彼女を襲うことは無理そうだった。
男と二人で寝るというのがどういうことか教えるよりも先に、眠気と気だるさで目が閉じていく。


「おやすみ、峯」


こんなにも、眠るのが心地よいと思ったのはいつぶりだろう。
そっと遠慮がちに頭を撫でていくぬくもりを感じながら俺は静かに目を閉じた。


















夢かと、思った。
目を開けずに耳を澄ませていた俺は、隣から少し涙声になってつぶやかれるあけの声を聞いた。


「ごめんな、峯。お前を・・・・止めれなくて」


あれからもう数ヶ月も経っているというのに。
彼女はまだ、自分のことのようにその罪を懺悔し続けている。俺よりも深く。


「私が傍にいたのに。だからこそ、今度こそ・・・頼むから、無理はしないでくれよ」


その声に、愛しさが膨らむのを感じながら、俺は再度夢の中へと微睡んだ。




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2021年05月28日 (Fri)

退院してすぐ、俺はスムーズに白峯会へと戻った。
前とあまり変わらず会長としての業務を行えているのは、これまでに色々と処理や反乱分子を押さえ込んでくれていたあけや大吾さんのおかげだろう。

だが、全部が全部前と同じようにとはいかない。
あれだけの騒ぎを起こしたのだ。直系からは外され、地位としては少し下がった。それも反乱分子を増やした理由の一つだ。それでも俺は構わなかった。またやり直せれば、もとに戻ることなど簡単なことだと知っていたからだ。

復帰してからというもの、俺は更に大吾さんの力になるために尽くした。
そして同時に、気づいてしまったあけへの感情をどうにか精算するために、彼女をなんとかプライベートな時間へ誘おうとしているのだが――――中々、うまくいかない。


あけ
「うん?」
「今日はいかがです?夕食は。貴方が良ければ六本木の・・・」
「あ?あー・・・いや、レストランとかならパス・・・・」


というもの、今までの女性は高級なレストランに誘えばついてきてくれた。何も考えずとも俺に気を使って笑ってくれて話をしてくれて、そして部屋に誘えばついてくる。ホテルをとっているといえば特に断ることなく俺に体を委ねてくれた。

そう、いままで考える必要などなかった。困ることなどなかったのだ。

しかし今回の相手はそうもいかない。
情報を整理し事務所に立ち寄ってくれたあけに何度目かになるレストランへの誘いを投げた俺は、バレないようにため息を吐いた。


「何がそんなに気に食わないのです?」
「気に食わないとかじゃなくて、かたっ苦しいところがいやなのー!」
「・・・ではどこなら良いのです?」
「あれ?レストランじゃなくていいの?それならいくぜ、そうだなー・・・あー、峯はどういうのが好きなんだ?かたっ苦しいの以外」
「私は別に何でも構いませんよ。好き嫌いは特にありません」
「意外。なら適当なつまみと酒とかでもいい?」
「えぇ」
「ならセレナ行こうぜ。今から行ける?」
「はい。もう今日の仕事は終わっていますので」
「よし!じゃあ決まり!」


セレナのことは知っている。小綺麗なバーだ。
正直食事など理由に過ぎなかった俺は、セレナへの誘いをすぐにOKした。
そして車を出そうと準備しだした俺にあけが声を上げて止める。


「車はだめ」
「・・・・?なぜです」
「んなもん、二人で飲むからにきまってんだろ。ここの事務所からなら歩けるんだから一緒に歩こうぜ」


そう言いながら俺の手を引いて事務所を出ていこうとする彼女は、無意識か。
これはタチが悪いと目眩を感じながら、俺は大人しく手を引かれて歩き出した。

神室町を歩くのはあまりしない。現地に足を運んで何かをすることというのは、あまり俺の仕事としては来ないからだ。俺はもっぱら今でも会長として金を稼ぐ役割のほうが大きい。それに俺たちの組ではみかじめを取りに行くといったこともあまりしないため、見慣れた神室町の町が何故かとてつもなく新鮮に見えた。

騒がしい町並み。
日が落ち始めてにぎやかになるこの夜の街で、キャッチやきれいなキャバ嬢がお店の中に入っていく。そんな光景を見ながらふと目に止まったブランドショップを見て、あけに声をかける。


「そういえば、ブランド品に興味はないんですか?」
「それは何、遠回しにおしゃれしろってこと?」
「いえ、今新作の販売がちょうど見えたもので。話題として言ってみただけですよ」


確かにあけがブランド物を身に着けてる姿は想像出来ない。
しかし、似合わないということはない。彼女のショートヘアから覗く可愛らしい耳に、ショーケースの中で輝く小さな宝石のアクセサリーはとても似合いそうに見えた。

思わず足を止め、赤い宝石があしらわれたイヤリングを見つめる。


「なに?おきにのキャバ嬢にでも渡すのか?」
「そんなわけがないでしょう。・・・・貴方に、とても似合いそうだ」
「へっ?いや・・・もらっても壊すだけだよ。それにお前・・・こ、これ、超高ぇ~~!!」


ゼロの数を数えていたあけが悲鳴を上げて俺から離れた。
高い?とはいえブランドの中では安めの百万未満のアクセサリーだ。


「こんなもの、貴方がキャバ嬢のときはいくらでも貰うでしょう?」
「いや・・・貰うわけねーだろ・・・いらねぇし・・・どうすんだよ?そんな高価なものもらって、高価なものあげたんだからって付きまとわれたら?私が目的とするのは情報だ。そいつにそんな入れ込まれても何も嬉しくねぇよ」
「・・・・もらえるならもらっておけばいいじゃないですか?それだけ強ければ付きまとわれても自分自身でどうにか出来るでしょう。いらなくても、売れば金になる」
「もらったものをそんな簡単に売れねーだろ?なんか悪いし・・・・」


情報を抜いて売りさばいたり脅してるくせに、そういうところは律儀なのか。
思わず笑えばあけが目を細めて俺に近づいてくる。


「バカにしてんだろその顔」
「ふっ・・・いいえ?」
「とにかく!そういうのはいらねぇの!」
「私が貴方に差し上げたいと言っても、ですか?」
「いらないよ別に。報酬は別にもらってんだから」
「・・・・」


興味なさそうに歩き出したあけに、ただ着いていく。

こういった場合、どうすればいいのか俺は知らない。
ブランド品に高級レストラン。女が好きそうなものに興味がないとなれば何で興味を引けばいい?そのままの金か?いや、それも彼女は受け取らないだろう。

となれば、なんだ?
そういえば俺はあけのことを、仕事以外ではあまり知らない。


「まま、やっほー!」
「あら、あけちゃんいらっしゃい。お待ちしておりました、峯さん。今から貸し切りにしておきますのでお好きに申し付けてくださいね」
「・・・・ありがとうございます」


セレナについて扉をくぐるとあけが連絡していたのかママが優しく微笑んで貸し切りにしてくれた。いつものお礼だと軽々しく先程のアクセサリーと同じぐらいの金額をママに提示し、ママが全力で断っている。それでも収めさせるのは、ここを桐生さんや他の裏社会の人間がしょっちゅう使って台無しにしているからだという。

ある程度押し問答してお金を押し付けたあけは、カウンターに座るよう促した。
その促し通りにカウンターへ座り、お酒を頼む。まずは軽くハイボールでも飲もうか。あけは意外にもお酒に弱いのか甘めのカクテルで適当なの!と可愛らしい注文をしていた。


「ここには結構来られてるんですか?」
「ん?あぁ、まぁな。桐生たちを手伝うときは大体ここで集合だったし・・・・」
「そういえば貴方は桐生さんをお手伝いしていたのですね。・・・なぜ、貴方は情報屋になったのですか?」
「・・・珍しいな、私の過去が気になるのか?」
「貴方だけが知っているというのは何とも不公平ではありませんか?」


自分の前に置かれたお酒を持ち上げ、乾杯する。
あけは俺の言葉に複雑な表情を浮かべたあと、俺のコップに軽くコップを打ち付けて乾杯しながら嫌そうな顔をした。


「んだよ、知ってたのかよ」
「いえ?ですが貴方ぐらいの腕です。私の過去ぐらい知っていて当然でしょう」
「・・・まーな。全部知ってるよ、お前の出身も、全部」


それを聞いて安堵した。
嫌な感じは、しなかった。

俺の本当の姿も、歩んできた道すらも知っていて俺をまっすぐ見てくれるなら、彼女は本物だろう。それこそ、今抱いている感情を加速させる材料の一つにしかならない。聞かれた彼女自身は俺の過去を一方的に知っていることを不満に思われていると思っているのか、渋い顔をしながら俺のほうを窺っていた。


「んー、まぁ、たしかに、一方的ってのはまぁ・・・仲間なのに、うん、あれかな?」
「そう思うのでしたら教えてくれても良いんじゃないですか?」
「はいはい、わーったよ。悪用禁止な?」


冗談めいて笑う彼女に、また心がざわつく。

そこから俺は彼女から彼女の過去を聞いた。
幼いころから汚い情報屋として活動していた両親に虐待を受けていたこと。その両親の情報を自ら東城会に売り、風間さんに殺させたこと。そして孤児になり、情報屋として風間さんの元で伝説とも言われるほどに活躍していたこと。

俺が思っていたより何倍も、彼女の過去は重たかった。
酒で流すには苦すぎる。涙で流すには、浅はかすぎる。

でも彼女は俺のように曲がらなかった。俺とは違う道を進み、俺とは違う側に立っていた。
眩しすぎるぐらいに彼女は強い。


「(この人は、本当に純粋だ)」


生まれる場所が違えば、普通の女性として素敵な人生を歩んでいただろう。
誰もが彼女の真っ直ぐな瞳に惚れ、結婚して、子供を生んで――――。


「貴方は、今の人生を後悔していますか?」
「まったく?」
「・・・貴方は素敵な人だ。極道に関わる人間として生まれていなければ、平凡な幸せを手に入れていたでしょう」
「おいおい。平凡な幸せイコールその人の幸せじゃないだろ?峯だってこれだけ金持ちで、一般的に言えばすげー幸せだと思うけど、今・・・幸せ?」


そう聞いてきたあけはどこか切なげに、俺がまだそう思っていないということをわかっているかのように首をかしげた。


「・・・まだわかりませんが、少なくとも“生まれ変わった“気分です」
「そっか。もう二度と、本当に生まれ変わるなんてことするなよ。・・・私は今のお前と、生まれ変わった未来を見たいんだからさ」


なぜ、そんなに悲しげな顔をするんです?
させているのは自分だと言うのに、聞いてしまいそうになって口を閉ざした。


「貴方は随分と・・・優しいんですね」


お酒が、回る。悲しみと共に。


「貴方のような人と、大吾さんと、桐生さんと、早く出会いたかった」
「遅くねぇだろ」
「・・・・あのようなことをしたというのに、遅くないと?」
「あぁもちろん。むしろ今からだよ。・・・な?」


俺はやってはいけないことをした。
あのときは自分の信念に従ったとしても、俺はアサガオの子どもたちを危険に晒した。



<ふざけんな!!こんな計画ッ!!絶対ゆるさねぇぞ!!>
<許す?私の計画に貴方の許可が必要とでも?>
<違う。・・・この計画をすればお前が壊れていく。やめろ、峯・・・!>
<命令するのであれば止めればどうです?>
<あぁ、止めるよ。力づくでもな!!!>



その計画を知って止めに入ったあけすらも怪我を負わせたというのに、彼女はあの時ことに対して何も言わない。何も、責めない。むしろ止めきれなかった自分の責任だと、彼女は俺に頭を下げた。泣いてくれた。


「・・・・まいったな」


酒のせいで涙腺が弱くなったのか、じんわりと目頭が熱くなるのを感じて頭をふった。


「なんだー?ふふっ、私の優しさに惚れたか?」


お酒によって少し頬を赤らめたあけに、俺は真っ直ぐ言い返した。


「そうだと、言ったら」


あまりにも真剣な声が響いた。ママは空気を読んで俺たちに背を向けている。そして言われた本人であるあけはまさかそんな答えが返ってくるとは思わなかったのか見たことのない間抜けな顔をしてお酒をカウンターに戻した。


「・・・い、いや、わりぃ、からかいすぎた・・・・?」
「本気ですよ」
「あー、お酒の、せいか?」
「私がこれだけで酔うとでも?」
「あぁたしかにお前すげー酒強い・・・・って、いや、ならなんで・・・」
「そのままの意味です。貴方を手に入れるには何をすればよいですか?貴方は何がほしいんです?何を渡せば・・・貴方は」


渡すものはいくらでもある。お金?宝石?マンション?
あぁ、知ってる。彼女はそれに首を横にふるのだ。


「いらねーよ、んなもん」
「・・・・」
「お前が本気で私が好きだっていうなら、一つ言えることは私みたいなダメ女やめておけってことだけど・・・それでもマジだっていうなら、普通に落としにきてくれよ?」


照れくさそうにそう笑うあけは、なぁママ?とカウンターでお酒を作るママに話をふった。このママもあけと同じで真っ直ぐで嘘をつかない目をしている。


「え?えぇ、そうね。確かにプレゼントは嬉しいけれど、あけちゃんは特にそういうのを欲しがるタイプじゃないわよね・・・」
「あんま恋愛ってわからねーからさ、でも私・・・峯のこと嫌いじゃない。だから普通に落としてほしいんだよ」
「・・・・意外と、大胆なことを、言うんですね」
「そりゃそうだろ。分からないイコール無理なもんでもないし、経験してみなきゃわからねぇしな。でも今の私は別にお前のことを好きってわけでもねぇし、だから・・・・くさいセリフでいえば、私を惚れさせてみなってやつだよ」


なるほど、これがお金で買えないものなのか。
いくら金があろうと、権力があろうと、思い通りに動かすことの出来ないもの。


「本当に、まいったな」


俺が落とすよりも先に俺が落ちて戻れなくなりそうだ。
そう苦笑しながらもその挑発に乗ることにした俺は新しいお酒をあけに向けてかざした。


「では、貴方とのこの時間に、乾杯を」
「うわっ、ベタなセリフ・・・・まぁ、乾杯!」


少し朱色に染まった頬は、脈アリの兆しか、それとも――――。

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2021年05月28日 (Fri)



「生まれ変わったら・・・俺もそっちにいれるかな?​」


出会うのが、遅すぎた。

気づくのが、遅すぎた。

俺は流れに身を任せ、せめてもとこの男を巻き添えに。
暴れる男を羽交い締めにして目を瞑る。そして――――。

生まれ変わったら桐生さん、あんたのように俺も。
その願いは突然の銃声にかき消され、俺は思わず目を見開いた。
同時に足へ強い痛みが走り、俺は思わずバランスを崩してしまう。


「ッ」


それを待ってましたとばかりに一緒に戦っていたあけが俺の腕を掴み、全体重を掛けて俺を屋上側へと引き戻した。一緒に飛び降りようと羽交い締めにしていた男が暴れるのを見てあけは見向きもせず銃口だけをその男に構え、放った。後ろを見なくてもわかる。俺はあけを押し倒すように屋上へと倒れ込み、そして男はおそらく銃弾をくらい落ちただろう。

この女とは、変な縁があった。
もとは桐生さんの助け人で、最近では大吾さん専属の情報屋をやっていた女だ。
何かあったときに補佐をしてくれと大吾さんに頼まれたらしく、最近では共に仕事をすることも多かった。・・・・ただ、それだけ。

一緒にいる時間は確かに長かった。

だが長かっただけで俺はこの女にお金も、権力も、時間すらも与えていない。

なのにあけは、俺の下で号泣しながら俺の頬を容赦なく叩いた。
ぱちりと心地よい音が響き、桐生さんや大吾さんが息を呑むのが聞こえる。


「ふっっざけんな!!!生まれ変わったら!?んなもん信じてる暇があったら生きて償えよ!私はまだアサガオの件だって許してねぇ!!私の補佐を無視してこんなことになりやがったのもな!!」


なんでこいつは泣いているんだ?


「私はお前の補佐をしてきた!!だから・・・アサガオの件や、今回の件、情報屋だってのに気づけず止めれなかった私にも責任がある」


なんで、お前が。


「お前は絶対に死なせねぇ!・・・・もう一度、やり直してもらうからな。“こっち側“で!」


あけの瞳から涙がぼろぼろと溢れる。
それを無意識に優しく手の甲ですくった俺は、体中に走る痛みに蝕まれて意識を落とした。













「んで、調子はどうよ?」
「・・・まぁまぁ、です」
「よかったよかった」


俺が微妙な表情をしていることにすら気づかないのか、もしくは気づいていても気にしていないのか。あけはあれから入院する俺のもとへ毎日足を運んだ。
たまに桐生さんも来てくれ、大吾さんの様子や東城会の様子も教えてくれた。

白峯会は俺が招いた混乱のせいで色々と荒れているらしい。
今の状態になって俺を狙うもの、忠誠を誓って残ってくれているもの、立て直そうと躍起になって空回りしているもの。いずれにせよ、俺が退院出来る頃にはある程度戻れるように目処をつけると語るあけはどこか自信ありげだ。


「・・・なぜ、そこまで私にするのです」


何度考えても、この女が俺にそこまでする意味が分からなかった。

出会ったのは大吾さんとの紹介。金を払えばどんな情報でもとってくる凄腕の情報屋としても、喧嘩強い補佐としても、俺の護衛もかねて発展途上中の
白峯会を支える立場としてよく俺の仕事の手伝いをしてくれた。

秘書とは違い、どちらかといえば汚い仕事を共にする仲。
ただそれ以上でもそれ以下でもない。だからこそ俺は大吾さんからの紹介者として敬意はある程度払えど、彼女になにか利益になるようなことはしたことがない。

有効なビジネスパートナーならまだしも。
彼女は結局、俺から金を受け取ることなく仕事をしていたのだから。

でもそんな俺の疑問に、彼女は毎回同じ答えを返す。


「仲間だからだ」


それが理解できないから、聞いているというのに。
そう文句を言おうとした俺は、お茶を準備しようとしているあけの腕が珍しく汚れている事に気がついた。よく見ればそれは血のようで、シャツの内側には適当に巻いたであろう包帯が見えている。


あけ、こちらへ来ていただけますか」
「ん?はいはい、どうした?なんか足りないのがあったか?」


準備したお茶が差し出される。俺はそれを受け取って簡易テーブルへ置き、そのまま何も言わずあけの左腕を掴んだ。


「っ・・・・」
「・・・この怪我・・・一体、どうしたんです」


言えば強がって隠すだろうとわかっていた俺は、無理矢理に左腕の袖をまくりあげた。
一緒に包帯もまくりあげられ、出てきた傷は思ったよりも深く―――痕が残りそうな状態だった。ふさがっていないところを見ると、つい最近ついたものだろう。傷口を見る限り日常生活でつくような怪我じゃない。これは・・・・。


「ナイフかなにかで傷つけられたような傷に見えますね」
「あー、うんまぁ・・・大丈夫だ、すぐ治る」
「どこでこれを?」
「どこでって、そりゃ私の仕事上こんなの日常茶飯事だろ~?」
「・・・・そんなはずないでしょう。貴方の強さはよく知っている。そんな簡単にこんな傷を負わせる相手に遅れをとるわけないでしょう」
「・・・へぇ、意外と信頼してくれてんだな?」


からかうように笑うあけに苛立ちながらも無言で睨みつければ、観念したようにあけが両手を上げて話始めた。


「そんな怖い顔すんなよ。・・・
白峯会絡みでちょっとな」
「・・・やはりですか」


想像は出来る。全てが俺に従順についてくる奴らばかりじゃない、それが極道だ。
大吾さんのような信頼関係のもとに成り立つ関係もあれば、俺と神田のような利益を貪るためだけの関係もある。俺の組に入った奴らも、純粋に俺についてきている奴らもいれば恐怖に支配された者、もちろん金や権力だけが目的だったもの、そんな有象無象がいるからこそ起きる俺の立場を奪おうとするものや俺自信へ恨みをぶつける反乱。

桐生さんの話を聞く限り、それらの作業は大吾さんから指示を仰ぎあけが一人で行っているという。下手すれば命が、いや――――女ならもっと悲惨な結末もありえるというのに、なぜここまでやるのかが俺には理解出来なかった。


「・・・・貴方がこんなに傷つく価値などないでしょう。今の私が、貴方になんの価値があるのですか?」
「ないよ」


はっきり、そう言われた。
思わずきょとんとすれば意地悪く笑うあけがずいと傷口と包帯を俺に押し付けた。
やれと言われてるのを理解した俺は、優しくあけの腕に包帯を巻いていく。


「価値がなくてもどうでもいいよ。返してもらおうとも思わない。ただお前はまた―――私と一緒に大吾を支えられるように戻ってきてくれれば、それで」
「それは・・・私でなくても、よいでしょう」
「悪いが私はお前と仕事をして、その立場には峯しかいないと思っていってる。・・・お前がなんと言おうと、そこは譲らない。お前じゃないと、ダメなんだ」


貴方は、なんでそう。
自然に嘘をついていないキレイな瞳でそんなことが言えるのですか?

大吾さんや桐生さんと同じだ。
この女には利益や金といったものを抜きにして魅力が溢れている。
苦しいぐらいに、真っ直ぐだ。
極道という世界が完全に絆だけの世界じゃないと、それでも本当の絆もあるものだと、知ったからこそ苦しく感じる。俺はそこに居て良いのかと。そんな俺の考えを見抜いたかのように俺のベッドに腰掛けたあけが顔をぐいと近づけた。


「言っただろ、お前にはこっち側に来てもらうってな。・・・信じさせてやるよ、お前が求めてる絆ってやつをな。逃げられると思うなよ?大吾も私も桐生も・・・逃がすつもりはねぇからな」


そう言い放って無邪気に笑う彼女を見て、俺はふと気がついた。

心地が良い。
あけと一緒にいるというこの空間がとても楽しく感じている。
自分はなぜ生きているのだろうかと疑問に思うことから、あけが来てくれることをどこか楽しく思う自分が芽生えている。

それはただ、彼女が俺を仲間だと認めてくれているからだと思っていた。
だが、違う。そのことに気づいたのはたった一瞬。彼女が俺に近づいてにっこりと普段見せない笑顔を見せたときだった。

女性の笑顔は何度も見てきた。
淫らな姿も、甘えた声も。
神室町トップとも言われる女の全ても、俺は見てきた。

それなのに優越感よりも満たすものが、あけにはあった。気づけば最後。包帯を巻く手がおぼつかなくなり、更に気持ちが加速する。


「(俺は・・・・)」


あぁ、俺は。
俺のために真剣に泣いて、考えて、戦って、傍にいてくれようとするこいつが。


「(好き、だったのか)」


包帯を巻き終わって俺のベッドから離れるあけに、寂しさを感じた。
思わずあとを追うように手を掴んでしまう。そんな俺の行動に驚いた表情を見せたあけは、少し考え込んだあと「あぁ!」と声を上げた。


「もしかしてタバコ?」
「は?」
「いや、タバコほしいのかなって・・・だめだぞ。まだお前は重症なんだから!そんな甘え方しても買いません!」
「い、いえ・・・違いますよ」
「あれ?そうなの?大吾はわりとタバコ吸いたいってうるさかったからなー。さすが、峯はちゃんと心得てるね」


気づいてしまえば厄介なものだ。
彼女から発せられる大吾さんや桐生さんの名前が邪魔に感じてしまう。


「(こんな気持ちになったのは、初めてだな)」


まるで初恋みたいだな。子供のようだ。
自分の苦笑にしながらああけの腕を離すと、あけは再度俺のベッドに座り直した。


「せっかくだし、もう少し喋るか」
「・・・いいんですか?忙しいのでしょう?」
「お前は退屈なんだろ?私を引き止めたいってぐらいにはさ」
「・・・・」
「じょーだんだよ。でも、お前もずっとこんなところじゃ退屈だろ?早く回復してもらわなきゃ困るんだから、私が一肌脱いでやるよ」


純粋に笑う彼女に、今この芽生えた気持ちは隠して。


「・・・フッ。それでは、甘えることにしましょうか」


俺は今日、本当の恋を覚えた。



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