いらっしゃいませ!
名前変更所
彼女が俺から離れていく。
その姿を見て俺は、突然彼女を手に入れたい衝動に駆られた。
そしてその衝動を、抑えこむことが出来ず。
俺は背後からあけを引っ張ると、そのままベッドまで引きずり込んで押し倒した。
突然のことに、あけは目を見開く。
「峯?」
あけは俺に持っていないものを持っていた。
それと同時に、俺に知らないことを教えてくれた。
見返りを求めない絆。
俺を恐れず、媚を売ることもせず、いつもただ俺の周りにいる。
最初はうるさかった。
俺に干渉するのが、気に食わなかった。
なのにそれがいつか、皆と同じように消えてしまうと思うと。
―――耐えられない。今すぐにでも、閉じ込めておきたい。
「・・・・」
「峯・・・・」
この衝動の正体が掴めないまま、俺はあけの両手をベッドに押さえつけた。
あけの手が小さく震えている。
それでもあけはそれを見せないように、俺のことを真っ直ぐ見つめた。
「どうしたんだ?そんなに、私がいなくなるのが不安だった?」
冗談めいた言い方。
でもそれが今の俺の心の中の、真実だった。
「・・・・あぁ」
失いたくない。
いつもは怒りを募らせるだけだった”裏切り”も、今ではただの恐怖。
失いたくない。
この心地よさを、永遠のものにしたい。
「俺はお前を」
――――失いたくない。
「っ・・・・!?」
あけの驚きの声は、声にならなかった。
ジタバタともがくあけを無視して、俺はその行為を続ける。
何度も、何度も。
貪るように口付ける。
相手の心を聞かずに塞いだ唇は、抵抗することなく震えていた。
「ん、んん・・・・」
こんなにも、誰かをほしいと思ったのは、初めてだ。
恥ずかしそうにもがくあけを、奪い尽くしたいと理性が揺れる。
「・・・・はっ、て、てめ・・・!」
「随分初々しい反応だな」
「な、慣れてないんだよっ!!つうかな、勝手にこんな・・・・!!」
真っ赤な顔で俺に文句を言おうとする口を、また塞いだ。
ただ欲望を満たすためにしか口づけを交わしたことのない俺は、欲望ではない何かが満たされていく口づけに夢中になった。
何が満たされているのか分からない。
でも止められない。俺の下で翻弄されるあけの姿を見るたび、ゾクリと身体が震える。
「っは、ぁ・・・も、たんま、峯・・・・」
「・・・好きだ」
「・・・・え?」
「好きだ」
つぶやくように、俺の口から漏れでた言葉。
それは俺すらも予想のしていない言葉で。
発した瞬間に、俺が壊れていくのを感じた。
そう、愛しているんだ。
彼女のことが、欲しくて欲しくてたまらない。
「あの、み、峯・・・嬉しいんだけど、その、私、恋愛にはあんまり・・・・んっ」
耳に入れたくない言葉を無理やり塞ぐ。
文句を言いながらも俺に翻弄されていく姿は、俺になかったものを満たしていく。
「峯っ・・・・」
「・・・・あけ」
「まって、峯。私は・・・!」
聞きたくない。
ただお前は俺の傍にいればいい。
絶対に失わないように。
絶対に、俺から離れないように。
――――そうだ。
俺が愛した女は、金も権力も必要としない女だった。
それ故に、俺は彼女をつなぎとめる方法を、知らなかった。
今までの奴らは皆、見返りだけを求めて俺についてきたのだから。
誰一人として、彼女のように純粋な気持ちで俺の傍に居た奴は居ない。
だからこそ、どうやって彼女をつなぎとめていればいいのか。
離れていこうとしたら、どうやって止めればいい?
金も、権力も、何にも揺らぐことのない彼女を。
―――なら。
止めることが、必要にならないようにすればいい。
俺は自分の愛情が歪んでいることに、気付いていた。
気付いていても、止められなかった。
「峯・・・も、う・・・・」
彼女の手につながる、鎖。
足の自由を奪う枷。
晒される素肌。
俺がつけた、独占欲の痕。
「峯・・・頼む、信じて・・・私は、絶対にいなくならないから・・・・」
永遠に繋いでおけば、逃げられることはない。
歪んでいると気付いているのに、俺は彼女を離さなかった。
まるでペットのように繋がれているあけは、潤んだ目で俺を見つめる。
「峯・・・・」
こんなことを、しているのに。
まだあけは、俺を真っ直ぐ見つめていた。
それが心地よくて。
軽い口づけであけを黙らせ、そのまま晒されたままの肌に手を這わせた。
「ぁ・・・っ」
傷だらけの、決して女性らしくはない肌。
脇腹に見える鷹の刺繍。
ただその反応は、金をつんで買ったどんな女よりも可愛らしい。
彼女が、こういうことに対して初めてなのは知っている。
なぜなら俺が、初めてを奪った本人だから。
俺はどれだけ彼女に恨まれているだろう。
どれだけ、殺意を抱かれているのだろう。
そう考えるだけでも、身体がゾクリと震える。
恐怖ではなく、歪んだ何かが満たされていく感情で。
「・・・もっと、触って欲しいですか?」
滅多に使わない敬語で問えば、あけが恥ずかしそうに目を瞑る。
行為の時にしか使わない声色と言葉で、俺はあけの反応を楽しんだ。
こんな反応ができるようにしたのは、俺だ。
そしてこの反応が見ることが出来るのも、俺だけ。
「う、峯・・・はずして・・・・」
じゃらじゃらと揺れる鎖の音。
俺はあけの望みを叶えることなく、肌に強く口づけた。
「っぁ・・・峯、おねがい・・・・」
聞こえない。
聞きたく、ない。
「黙って・・・抱かれててください」
「・・・・・っ」
また今日も、狂った愛で彼女を汚す。
わかっていても止められない、衝動のままに。
彼女をペットのように閉じ込めてから、数ヶ月。
ついに彼女は、俺の前から姿を消した。
わかっていた、こんな愛し方が正しくないということは。
それでも、俺は繋ぎとめ方を知らなかったから。
こうするしか、なかったんだ。
でも彼女は昨日、心配して探していた大吾さんによって解放された。
大吾さんは特に俺を怒ることもせず、むしろ心配してくれた。
その優しさに、俺は泣きそうになった。
だが、泣く権利などない。
ボロボロになった彼女は、俺を恨んでいるだろう。
もう二度と、戻らない。
どれだけ金を出せば手に入るんだろうか。
見返りを必要としない、純粋な、心地良いあの愛は。
あけ以外の女に、あれを持つ女はいるんだろうか。
「・・・・・」
何もやる気が起きず、俺は昨日まで彼女がいたベッドに寝そべっていた。
携帯が何度も何度も鳴り響くが、見向きもせず無視する。
ぽっかりと、心に穴が開いてしまったような感覚。
もう一度寝ようと目を閉じれば、遠くから聞きたかった声が聞こえた。
「おーい、峯~」
そう、俺の名前を呼ぶ彼女の声。
俺はついに、幻聴まで聞くようになったのか。
「こらー、どこいんだー?片瀬が困ってるぞー」
そんな風に起こしに来てくれるなら、俺はいつだって起きてやる。
もう一度触れたい。
ずっとそばに居て欲しい。
それだけで良かった。
・・・なのに俺は、どうしてこんなことしか出来ないんだ。
「おーい」
虚しい。
ただ、虚しい。
「おーい、いんだろー」
声だけでも満たされていく俺の心は、どれだけ小さくなってしまったんだろう。
「おい」
このまま、夢の中で彼女に会えたら。
そんなことまで思ってしまう。
「おいこら!居るんじゃねぇか返事しろはげ!!!」
「っ!?」
バシン、と。
ありえない衝撃を腹に受け、俺は思わず目を見開いた。
幻聴だと思っていた声が真上で聞こえる。
ついに幻覚か・・・なんて呟けば、不機嫌な顔したあけが拳を固めた。
「OK・・・夢だと思うならもう1発だな」
拳を固めたあけの手首に見える、鎖の痕。
ゆっくりと身体を起こしながらあけの姿を見ると、あけは不思議そうに首をかしげた。
「ん?どうした?」
―――いや、そうじゃない。
何故?何故だ。
「どうした、じゃないでしょう。何故あなたがここにいるんです」
出来る限り平然を装うように、俺は敬語であけに聞いた。
昨日、大吾さんに助けられて俺の部屋から逃げ出したあけ。
その彼女が目の前に居る。
だが、分かっているはずだ。
戻ってくればもう一度、同じことをされる可能性があることぐらい。
そんなことぐらい、あけが分からないはずがない。
なのに、どうして。
「何故って・・・約束したし?」
「・・・は?」
「は?って酷いな!約束しただろ!離れないって」
さも当然とばかりに言うあけを、俺は抱きしめることもできなかった。
「ま、色々された分はのちのちたっぷり返させてもらうとして・・・」
ニヤリと悪い笑みを浮かべながら、あけが俺の上にまたがる。
思わず身を引けば、キスが出来そうな位置まであけの顔が近づけられた。
「順序はおかしくなっちまったけど、私も・・・すきだよ」
”だから、お前が普通に愛せるようになるまで付き合ってやるよ。”
まるで子供を扱うような言葉で。
俺の耳元で囁かれる。
「あけ・・・」
「ま、さすがに鎖はやめてくれよなー。痛いんだからあれ。一種のプレイとして今回のは許してやるよ・・・・峯だからな」
キスも何もせず、俺はただ目の前にいるあけを抱きしめた。
帰ってくるなんて思わなかった。こうやって触れられると思わなかった。
もう二度と、会えないと。
「・・・泣くなよ、峯」
「・・・・」
「こういうの得意じゃないけど、私でよければ・・・傍にいさせてくれ」
気づけば俺の頬には、大粒の涙が伝っていた。
無表情のまま涙を流す俺に、あけが優しい笑みをこぼす。
「半年補佐やったけど、峯の色んなところが好きだぜ。ちょっと意地悪なのがむかつくけどなー」
「・・・・意地悪、か」
「あぁ。でも、ま、それも含めて好きだぜ。意地悪なところも、ちゃんと私の事見てくれてたことも」
あけの小さな手が、俺の涙を拭った。
その手に俺の手を合わせれば、感じた温もりにまた涙が零れる。
温かい。
この温もりを離したくない、でも。
もうあんなふうに繋ぎ止めるのは止めよう。
俺も信じるんだ。あけを。
鎖ではなく、愛で繋ぎ止めるために。
「・・・・愛してる」
呟いた愛の言葉は、あけの笑顔に変わって。
(今度は愛という鎖で、彼女を繋ごう)
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「行くな」
立ち上がろうとしたあけの手を、俺は即座に掴んだ。
今俺の目の前から居なくなったら、もう二度と戻ってこないような気がした。
ただの気のせいだ。飲み物を取ってくるだけ。
分かっていたのに俺の身体は勝手に動き、あけの手を掴み続けていた。
俺が信じた者は、皆偽りだった。
金や権力に動かされ、惑わされ、俺に着いてきた奴らだけ。
そして皆、俺の前から・・・いつかは居なくなった。
せっかく見つけたんだ。
大吾さんと同じように、信じられるかもしれない人を。
失いたくない。
この心地よさを、手放したくない。
「・・・・峯・・・?」
「離れないでくれ」
「どうしたんだよ・・・」
「お前も、俺から離れていってしまうのか?・・・・補佐という仕事が終われば、俺から」
一度曝け出してしまった心は、水のように溢れだして。
「俺が信じた奴は皆、いなくなっちまった・・・お前も、いなくなるのか?」
「大げさだな。飲み物取りに行くだけなのに・・・・」
「・・・・・・」
「・・・んー。補佐、ね。確かに最初はただの補佐だったんだけど、さ」
私にも女っぽいところはあるんだ、と。
あけは恥ずかしそうにしながら、俺から目を逸らした。
その言葉の意味を理解できなかった俺は、言葉の意味を聞き返す。
「では、今はただの補佐じゃないと?」
「っ・・・そういう言い方すんなよ。あんまりこういうのは、得意じゃねぇんだ・・・その、恋愛、とかは・・・・」
赤く染まった頬に、”恋愛”という単語。
さすがの俺でも意味が分かり、そして分かるのと同時に心が満たされるのを感じた。
―――愛しい。
これが、この心地よさが愛だというのなら。
俺は目をそらしたままのあけの頬に手を添え、ゆっくりとこちら側を向かせた。
「・・・・っ」
「お前のそんな表情は・・・珍しいな」
「か、からかうつもりかっ!性格悪いぜ・・・こっちは叶わない恋だと分かってしてる純粋な乙女だってのによ」
自傷気味な笑み。
俺はそんなあけを、そっと撫でた。
「・・・叶わない、か?」
「私はお前の言う女みたいに、媚びうるのも苦手だ。どっちかってとお前は私のことが苦手なんじゃねぇのか?でも私は、お前と話してる時間が・・・その」
頬に添えていた手を、唇に持っていく。
言葉を遮るように唇をなぞれば、あけはカッと頬を染めた。
ここから先は、俺が言うべきだ。
「あけ」
普段、あまりあけを名前で呼んだことがない。
そのせいか、名前を呼ばれたあけは恥ずかしさより驚きを露わにする。
「み、ね?」
「あけ。・・・・どこにも、行かないでくれ」
「・・・・聞いてた?だから私は・・・」
「俺もお前を手放したくない。だから俺の傍にいてくれ」
あけの表情は本当にコロコロ変わるな。
俺の言葉を聞いて意味を理解したのか、真っ赤だった頬が更に赤く染まった。
「え、や、あの」
「・・・どうした?お前から言ったことだ」
「あ、う、うん・・・でも、なんかその、そういうの、想像できねぇなって・・・・」
「・・・・確かに、そうだな」
今までいがみ合ってた関係。
それが急に変わるのだ。戸惑わないわけがない。
俺はそれなりに金で女を買って来た。
だがあけの表情や言葉を見る限り、俺よりももっと恋愛に疎いようだ。
・・・加虐心が、煽られる。
自分の理性を何とか保ちながら、掴んでいたあけの手を引っ張り、寝ていたベッドへと引き込んだ。
「なっ・・・!?ま、まてっ!たんま!!!」
「暴れるな。・・・・お前が想像出来ないというから」
”教えてあげようとしてるんですよ?”
意地悪く笑い、耳元で囁やけば彼女の身体がびくんと跳ねた。
少しの間暴れていたが、俺の力に観念して段々と大人しくなる。
その隙をついて、俺はあけの唇を塞いだ。
「っ!」
欲を吐き出すための口づけじゃなく、満たすための口づけ。
買った女とする口づけや行為とは何かが違う。同じ、女なのに。
口づけを深めれば、くぐもったあけの声が響く。
それを全て飲み込むように唇を貪ると、あけが抵抗の意味を込めてか俺の胸を叩いた。
そんなことをされても、逃しはしない。
もっと欲しい。もっとあけが俺に翻弄される姿を見たい。
俺のものに。
もっと、もっと。
「んっ、んん・・・・っ!!!」
じたばたと暴れ始めたあけを見て、俺はようやく唇を離した。
といっても、少しだけ。
またすぐにキス出来る位置で、あけを見下ろす。
「初々しい反応だな」
「っせ・・・わるいかよ・・・ほとんど、初めてなんだからよ・・・・」
余裕のない表情。
純粋に理性を壊す、言葉。
「・・・・あまり、煽るようなことを言わないでくれ」
俺の理性が、消し飛びそうになる。
「・・・っみ、峯もそんな、余裕のない表情するんだな。可愛いじゃん?」
俺の表情を見て少し余裕を取り戻したのか、あけがからかうように笑った。
理性を保つことで精一杯だった俺は、その言葉に牙を向く。
「どうやら、手加減は必要ないみたいだ」
「え?あ、や、ちょっ・・・・!」
唇から少し下へ。
頬に口付け、次に首筋。
そこからもっと下って、鎖骨。
一つ一つわざとらしく音を立てて口付ければ、あけが涙目で俺を睨む。
「っ・・・ば、か。初めてっていってんだから、手加減しろ・・・・」
「これでも十分手加減してるんですがね」
「け、敬語やめろ・・・!!余裕見せられてるみたいで腹立つ・・・・っ」
「そうですか?なら敬語にしましょうか」
「て、てめ・・・っ」
この会話が、心地良い。
馬鹿みたいな言い合いが楽しいと感じる。
意味のないものに時間をかける価値などないと思っていた俺は、どこへいったのだろうか。
「・・・・貴方のそういうところが好きですよ」
「う・・・ど、どういう、ところだよ・・・わかんないぜ?」
「全部、といえばいいですか?その馬鹿みたいなところも、全部」
「・・・・腹立つ。私もそういう、峯のところ・・・好き、だけど・・・」
ああ、本当に。
「・・・・そんなに俺の、余裕の無い所がみたいのですか?」
「へ?な、なんで・・・・」
「じゃあ、無意識ですか。その煽り方は・・・だいぶ危険だ」
愛しい。
俺に押し倒されたまま、ギャアギャア騒ぐあけの唇をもう一度塞いだ。
頑なに閉じようとしている唇をこじ開け、あけを味わうように舌を絡ませる。
「っは、も、峯・・・っ」
「まだだ」
・・・足りない。
まだ。まだ。
「待って、頼むっ、し、死ぬ・・・・!」
その夜、あけが俺の傍から離れることは許されなかった。
なぜなら俺が、逃さなかったから。
何度逃げようとしても。
「待ちませんよ」
「み、ね・・・・・」
捕まえる。
「逃げられるとでも?」
満たされるまで、ずっと。
あれからあけは、補佐としての仕事を終えた。
だがその期間を終えても、あけはずっと俺の傍に居た。
普段の会話はあまり変わらない。
お互いに気持ちを伝える前と、ほぼ同じ。
それでも俺は構わなかった。
俺の愛情を受け入れるときのあけは、違うと知っているから。
「・・・・あぁ、それじゃ」
部屋のソファで電話をしていたあけが、電話を切って机の上においた。
俺はそれを見計らい、静かにあけの後ろ側に立つ。
「電話は誰からだったんだ?」
「うおわ!?てめ、いきなり後ろに立つなよな!忍者か!!」
「・・・・あけが不用心なのがいけないんじゃないのか?」
「私が?なんで峯の部屋でそんな気張らなきゃいけねぇんだよ・・・・」
あけがふてくされたように俺の方を見上げた。
自然となる上目遣い。
ちらりと見える胸元。
かわいい唇。
目に入る全てが、仕事中にも関わらず俺を欲情させる。
「それで?」
「え?あ、あぁ・・・桐生だよ。なんか沖縄でゴタゴタがあったらしく、情報が欲しいって」
「・・・・」
「・・・?峯?」
いつの間に俺は、こんなに独占欲の強い人間になったのだろうか。
あけの口から紡がれた、他の男の名前が許せなかった。
どくり、と。心の奥から嫉妬心が溢れだす。
俺はそれを隠すこと無くあけの頬に手を添え、そのまま額に口付けた。
「んあ!?」
「・・・もっと可愛いらしい声は出せないのか、お前は」
「う、うるさいな・・・・突然するから・・・」
ずっと見上げていては首が痛いだろうと、俺はあけの隣に移動して腰掛けた。
ギシッとソファが軋むのを聞いて、何故か身体が熱を持つのを感じる。
はぁ、本当に、参ったな。
俺の方をじっと見つめるあけに、口づけを落とす。
「んっ・・・」
突然のこと。
そう怒る割には、抵抗など一切してこない。
「・・・ん、は・・・ばか。だから、突然すんな」
「なら、抵抗したらどうだ?お前なら抵抗出来るだろう?」
「・・・・させてくれないくせに」
俺から目を逸し、恥ずかしそうにぼそっと呟く。
そんな表情をされたら、俺は。
「お前が四代目と話してるのが悪い」
「ふぅーん?嫉妬?」
「・・・・だとしたら?」
「冗談だって。仕事上連絡とるなって言われたら難しいけど・・・あんまりしないようにするから、な?」
あけは良い女だ。
決して本人には言えないが、彼女を常に傍に置いていないと俺は落ち着かなくなっていた。
それほど、彼女が奪われるのが怖いのだ。
あけは自分を、ただの情報屋だという。
でも俺にとってあけは、不器用な俺を努力して受け入れようとしてくれる健気な女だった。
俺が理不尽な嫉妬をしても、こんな風に優しく返す。
俺はまたそれに甘えてしまう。
「・・・・あけ」
「峯」
「・・・・・」
「う、ばか、仕事中だぞ・・・」
手であけの腰元をなぞれば、それに気付いたあけが優しく俺の手を握った。
そんな力じゃ、俺を止められないと分かっているはずなのに。
「・・・・もうお昼だ。休憩時間、だろう?」
「いつもお昼なんかちゃんと取らないくせに!」
「そうだったか?」
「とぼけんな変態!」
「・・・・変態だというのなら、変態らしくした方がいいな」
あけの毒づきに反撃を加え、俺はその場にあけを押し倒した。
変態と言われてしまったからには仕方がない。
意地悪い笑みを浮かべてそう囁やけば、あけの身体がぴくりと跳ねた。
「せ、せめて、ベッドで・・・」
誰よりも男らしく、常に前線に居続ける女の、か弱い姿。
俺にしか見せないであろうその姿に、理性が切れかかるのを感じた。
「・・・・無理だ」
「っ・・・」
あけの身体がこわばっていく。
もう何度愛しあっただろうか。
なのに彼女はこの行為自体に慣れること無く、いつも表情を緊張の色に染める。
まぁ、無理もないか。
彼女自身、行為は本当に”俺が初めての相手”だった。
そのため、まだきちんと交わったことはない。
痛みに耐える彼女より、快楽に溺れる姿を見たいと。
俺は無理やりすることなく、いつも彼女だけを喜ばせていた。
「な、ぁ」
俺の手の動きに震えながら、あけが俺の手を握る。
「・・・そ、の・・・」
「なんだ?」
「無理・・・してない?あの、確かにその、痛いけど・・・毎回峯が、我慢するのも・・・なんか・・・・」
「痛いんだろう?・・・無理はさせたくない」
「で、でも・・・・」
やめてくれ、これ以上。
これ以上言われたら、俺は我慢できない。
「・・・・それ以上俺を煽るのはやめておけ。泣いてもやめれなくなる」
「・・・・」
少し、怯えた表情。
静かになったあけに満足した俺は、手の動きを再開しようとして―――
「いい、ぜ」
甘い声に、思考を奪われた。
驚いて手を止めれば、今まで以上に顔を真っ赤にしたあけが、俺の手を胸に導く。
「いい、から、峯も・・・気持ちよくなって、欲しい」
俺は無言で手を振り払い、驚くあけを抱きかかえた。
そのまま、事務所の隣にある自室へあけを運ぶ。
煽ったのはあけだ。
忠告もきかず、俺の理性を揺さぶったのも。
・・・本当に俺は、変わってしまったもんだな。
こんな一人の女に理性を、余裕を、削られてしまうなんて。
「覚悟は・・・できてるか?」
「う・・・」
「まぁ、もうあんなことを言った時点で逃す気はない。・・・・黙って抱かれてろ」
強い俺の言葉に、あけは震えながら笑みを返した。
怖いはずなのに、そうやって俺を受け入れてくれる貴方が。俺の全てを見てくれる貴方が
(「大好きですよ」)
サイト紹介
※転載禁止
公式とは無関係
晒し迷惑行為等あり次第閉鎖
検索避け済
◆管理人 きつつき ◆サイト傾向 ギャグ甘 裏系グロ系は注意書放置 ◆取り扱い 夢小説 ・龍如(桐生・峯・オール) ・海賊(ゾロ) ・DB(ベジータ・ピッコロ) ・テイルズ ・気まぐれ ◆Thanks! 見に来てくださってありがとうございます。拍手、コメント読ませていただいております。現在お熱なジャンルに関しては、リクエスト等あれば優先的に反映することが多いのでよろしければ拍手コメント等いただけるとやる気出ます。(龍如/オール・海賊/剣豪)
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