Erdbeere ~苺~ チェシャ猫の笑み 1話 忍者ブログ
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2022年05月30日 (Mon)

剣豪寄り/ギャグ甘/ヒロイン麦わら加入時の話

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運命は必然だ。

起こった出来事にいちいち恨んだり愚痴ったりするなんて、面倒なだけ。


「海賊狩り、ロロノア・ゾロ・・・・」


必然の歯車が回り始める。

海賊狩りである彼が海賊になったのは運命か、必然か。
そんな彼を見つけたのは運命か、必然か。

楽しそうに笑う少女は、獲物を見つけたとばかりに目を細めた。


チェシャ猫の笑み





麦わらの一味がローグタウンについたのは、予定よりも少し遅れた夜のことだった。

色々な調達が必要だった彼らにとってこの時間帯の町ではやれることがない。
船で一夜を過ごすのも味気ないと、ナミの提案で港近くの大きな飲み屋に立ち寄る事になった一味は、色んな輩が集まる飲み屋でひとまずの腹ごしらえをすることになった。


「言っとくけどアンタ達、奢らないからね?倍返しよ、分かってるわね!?」


お金を持っていないくせにバクバクと飲み食いを始めるルフィとゾロを見て、ナミが叫ぶ。
そんなしっかり者の彼女にメロメロなサンジは、目をハートにしてナミを見つめていた。

厳つい男たちが飲み食いしている場所に慣れないウソップは、食べ物も胃を通らないのかビビリながらちみちみと肉をつまんでいる。

夜の飲み屋にはよくある光景。
その光景の中に少し浮いた存在感を放つ長い黒髪の少女が、ゾロの隣に腰掛けた。
カウンター席に座っていたゾロは少女に気づくと少しサンジの方に寄り――――それから、その少女の腰に目をやった。


黒く長い髪。
丈の短い黒のドレス。
特別目を引くほど美人なわけでもないが、何故か気になってしまう不思議な雰囲気。

その理由に気づいたゾロは、体ごと少女の方に向けた。


「(この女、帯刀してんのか)」


違和感の理由はそのドレスに不釣り合いな刀だった。

少女は何もなければ夜遊びをしにきた可憐な女性といった感じだったが、その腰に下がっている禍々しい雰囲気を放つ短刀がその少女の評価を台無しにしていた。

何も分からない人間が見れば、護身用に持っているとしか思わないだろう。

だが、ゾロから見てその刀はただの刀とは思えないものだった。
ごくりと喉を鳴らしてその刀を見つめ続ければ、その視線に気づいた少女にその視線を遮られた。


「さっきからどーしたの?お兄さん。もしかしてナンパ?」
「っあ?いや、ちげェ・・・」


気まずくなって目を逸したゾロに、少女がくすくすと笑う。
それに気づいたサンジがゾロの隣から立ち上がり、ゾロに対して食って掛かった。


「あ!?てめぇクソマリモ!なーに美しいレディとイチャイチャしてやがんだ!そこどけ!」
「馬鹿かエロコック!急に立ち上がるんじゃ・・・・!」


―――――パシャリ。

急に立ち上がったサンジのせいで、ゾロの持っていたお酒が大きく揺れた。
溢れた中身が隣にいた少女の頭に思いっきりかかるのを見届けて、更に二人の言い争いが強まる。


「てめぇ!!レディになんてことしやがる!?」
「いやどう考えてもてめぇのせいだろうが!?」


頭からお酒をかぶった少女は、二人の言い争いをただ見つめていた。
そんなことより謝りなさいよ!?とナミに殴られたゾロが少女に対して謝罪を口にする。


「わりぃ、大丈夫か?」


ゾロの謝罪に肩を揺らして笑い出した少女が顔を上げた。


「あはは・・・!まさかこんなかっこいい剣士さんにお酒を奢ってもらえるなんて・・・・今日は遊びに来て正解だったかも」


頭から流れ落ちるお酒をぺろりと舐め、からかうように目を細めた少女は、狼狽えるゾロを見て更に笑みを深める。


「随分強いお酒だね、奢られるにはちょっと強すぎるかも」
「こいつにはレディの扱い方ってのが分かんないんですよ。素敵なお嬢さん、ここは俺がお酒を・・・・」
「アンタ金無いでしょ!・・・・ほんとごめんなさいね。でもその・・・私達、お金なくて、貴方のそのドレスを弁償するのは・・・・」


この騒ぎの中でナミだけが唯一、お酒に汚れたドレスの価値に気づいていた。
両手を合わせて謝り倒すナミを見て、少女は濡れた自分のドレスを見下ろす。

お酒に濡れた黒のドレス。

高級な生地を台無しにする、強いお酒の香りとシミ。


「なんならゾロ貸し出すわ!お詫びとして好きにしていいから!」
「はァ!?てめェ勝手なこと言ってんじゃ・・・・」
「ゾロっていうんだ。・・・・私の名前はくろねこ。じゃあお詫びにゾロの時間、少しだけ貰っていい?」
「どうぞどうぞ!!」
「てめぇこのクソアマ!勝手に・・・・ッ!!」
「イヤなの?」
「い、いや、そういう・・・わけじゃ・・・・」


ゾロの表情がガチガチに強ばる。

いかにも女慣れしてないといった表情。
修行ばかりで色恋に現を抜かすことのなかった剣士の反応は、予想通りで思わず笑いそうになってしまう。


「そんなにガチガチにならなくてもなんにもしないよ。剣士同士、少し話しよってだけ」


ゾロを安心させるため、くろねこは自分の腰に下がる刀をぐいと持ち上げた。
その刀を目にしたゾロの表情が一瞬で変わり、剣士の顔になったのをくろねこは見逃さない。


「ただの刀じゃねェな、それ」
「あはは!それが分かるってことは結構凄腕の剣士だね、ゾロって」
「・・・・おめーもな」


濡れた髪をかき分けたくろねこは、頬に垂れてきたお酒を舐めながらマスターに追加のお酒を注文した。自然な流れで取り出したベリーをカウンターに置くくろねこを見て、ゾロは思わず首を傾げる。


「・・・・おいおい、俺がお前にぶちまけたのにお前が奢ってくれんのか?」
「奢られた酒にお礼しないほど、野暮な人間じゃないよ私は」


どうやら、ぶちまけたお酒はゾロからの奢りということになっているようだ。

置かれたお酒をお互いに手に取り、軽くコップを打ち鳴らす。
こんな不思議な出会いに何を乾杯することがあるのだろうかと思いながらも、ゾロは一気にそのお酒を飲み干した。


「お酒、好きなの?」
「あァ」
「・・・・傷、あんまり治ってないみたいだから、お酒は控えたほうが良さそうだけど」


くろねこが指さした先にはミホークに斬られた傷があった。

綺麗に斜めについたその傷は、左上の部分だけが服からはみ出しているため見えてしまう。


「ハッ、こんなのもう治りかけだ」
「そーなの?それならいいけど。お酒奢ったせいで治りが悪くなったなんて言われたら、夢見が悪くなっちゃうし」
「・・・・俺がそんな馬鹿みたいな因縁つけるやつに見えるか?」
「見えないけど・・・君、海賊でしょ?」


あそこの人、知ってる。

そう言いながらくろねこが指さしたのは、ゾロの船長であるルフィだった。

ルフィは話題になっているとも知らず本気の顔で食べ物を食い荒らしている。
その後ろで様子を見ているナミは今にもルフィをぶっ飛ばしそうだ。
傍から見ればあまり海賊には見えない彼らの雰囲気に、ゾロは苦笑しながら頷く。


「少なくとも、ゾロがそんないちゃもんつけるようなやつとは思えないからいいけどね」
「買い被りすぎだろ。会って数分だろうが」
「剣士の勘ってやつ」


嫌味なく笑うくろねこの笑顔に、ゾロは思わず喉を詰まらせた。
送り込まれていた酒がひっかからないように何とか飲み干し、改めてくろねこの方を見る。

何だろうか。
特別美人なわけでも、可愛いわけでもない。
ただ、何かを感じる。

普通の人とは違う――――例えるなら、ルフィのような人間タラシと同じ気配。


「良いお酒をありがと。あのお姉さんにこのお金渡しといて。いい出会いのお礼」
「お、おい!?こんなに・・・・っ!」


くろねこはひらひらと手を振ると、たんまりとベリーの入った袋をゾロの前に置いて店をでていった。


「ナミ、これお前にだってよ」
「え?・・・・えぇええ!?何この大金ッ!?アンタどんだけ気に入られたのよ!?」
「知らねぇよ。金持ちの気まぐれんじゃねーのか」
「かーーーっ!なんでこんなマリモがモテて俺がッ・・・・!」
「うるせぇな・・・・」


女に好かれても、興味はない。

目指すべきは大剣豪への道。
必要なのは力。
知るべきは女よりも刀。

未だぶつくさと文句を垂れるサンジを見下しながら酒を飲み干す。
それから先程まで彼女が座っていた席を見つめた。


「あいつ・・・・・」


只者じゃなかった。
ミホークと相まみえたときと同じ。不思議な気迫があった。

出来ることなら刀を交えたかった。
そう思いながら腰に手を伸ばしたゾロは、そこにあるはずものがないことに気づいて何度かその場に手を往復させた。


「・・・・あ?」


そんなわけ、ない。
今の今まであったはずだ。それに重みがなくなったことに気づかないわけが。


「刀が、ねぇ・・・!?」


腰にぶら下がっていたのは刀と同じ重さの石。

いつの間にすり替えられた!?
酒場に入った時は流石にあったのを覚えている。
それなら一体いつだ。

そんな思考と共に可能性として浮上する先程の猫のような笑みの女。
してやられたと急いで立ち上がれば、お腹を膨らませたルフィが不思議そうにゾロを見る。


「どうしたんだよ、ゾロ」
「ッ、さっきの女に刀を取られた」
「だははは!!何やってんだよ!にしてもすげぇなー!ゾロから刀盗むなんて!」
「クソ剣士が気づかないうちにって、こりゃまたすげぇな」


技術的な意味でも、度胸的な意味でも。
一味が感心する中、ゾロは慌てて店を飛び出した。
ちょうど頃合いだったと他のメンバーも会計を済ませ、ゾロを追いかけて外に出てくる。

月明かりが照らす港。
人影は、ない。


「どうするの?ローグタウンはかなり広いわよ?探すっていっても・・・」
「・・・・静かにしろ」


ナミの言葉にゾロが黙るよう促した。

海の音だけが聞こえる夜。
その風に運ばれて聞こえてくる、微かな声。


「・・・こっちだ」


ゾロの先導についていった先には、見慣れない海賊船――――とその麓に大量の人影があった。

一番影が目立つ男と、探し求めていた女の影が睨み合っているように見える。
もうちょっと近づこうぜ!とノリノリで手を伸ばそうとしたルフィを、こんなところで騒ぎになっては明日の買い出しが出来なくなるとナミが実力行使で引き止めた。

確かに買い物が出来なくなっては肉も食えない。
そんな単純な考えで大人しくなったルフィは、足音を立てないように建物の影から港の影に近づいた。近づけば近づくほど聞こえてくる、聞き覚えのある声。

そして、誰かが泣いている声。


「大丈夫?お嬢さん」
「あ、ありがとう、ございます」


先程飲み屋にいたくろねこと名乗った少女と、その背中に庇われて震える女性。

それを取り囲む、数十人の男たち。

直ぐ側の海賊船から続々と人が出てきて取り囲んでいるところを見ると、男たちは海賊で間違いないだろう。
この状況がどんな状況かなんて見るだけで分かる。おそらく泣いている女性を無理やり連れ込もうとしたのを、くろねこが助けた。そんなところだろうか。


「なんだァ?俺たちは海賊なんだぞ、分かってんのか?」
「分かってるよ。・・・・でも、泣いてる女の人を助けないわけにはいかないでしょ?」


まるでサンジのようなことを呟いたくろねこは、最後まで女の子を庇いながら町の方へと案内した。逃げる女の子を追おうとする男に対して道を塞ぐように手を伸ばし、にこりと笑う。


「代わりに私と遊ばない?」
「・・・・へぇ?そういうことならいいじゃねぇか。顔はさっきの女より微妙だが、体型は・・・・」


歩み寄った男の手がくろねこの胸に伸びた瞬間。


「やだやだ、遊ぶってそういう意味じゃないよ」


――――こういう、意味。

語尾にハートがつくような、ねっとりとしたわざとらしい甘い声。
その声には見合わない素早さで男の手をひねり上げたくろねこは、容赦なくその男の腕を折って地面に転がした。


「あぁあぁぁああ腕がッ!!!」
「てめぇ!!何しやがる!!!」
「・・・・・・おい、おめぇ俺たちが誰だか分かってんのか?」
「知ってる。旬花海賊団。アンタはその親玉で500万ベリー・・・・の、名前は、忘れた」
「アストラスだ!!!馬鹿にしやがって!!!おい!コイツを畳んじまえ!!動けなくしちまっても構わねぇ、その後楽しんでやろうぜ!」


ゲスい彼らの言葉に、さすがのルフィ達も反応を示す。


「さすがにあの人数じゃあのお嬢さんが・・・っ!」
「サンジくん!やるとしても静かに・・・!」


飛び出そうとするサンジとルフィ。
どこか、冷静に見つめるゾロ。

そんな彼らの前で、数十人いた男たちが一瞬で地面にひれ伏した。


「・・・・え?」


動いた気配もなかった。


「な、なにが、起こったんだ?」
「分からねェ、だが・・・・」


ゾロの額から流れ落ちる、嫌な汗。
強者から感じる気迫。これは、殺気か?

あのルフィですら、くろねこを目の前に固まっていた。

飛び出すことを忘れて彼女の動きに釘付けになっているようだ。
キラキラとした目で、すげー!猫みてぇだぞ!と子供のようにはしゃいでいる。

ルフィの言う通り、くろねこの動きはまるで猫のようだった。
かろうじて倒れなかった親玉とその側近相手に、くろねこが楽しそうに舞う。

遊んでいるのか刀すら抜かず、壁を這い、宙を舞い、男たちを翻弄するその姿は、美しくも―――――恐ろしい。


「てめぇ、戦う気があるのか!?」
「あの女の子がどんなに怖かったか、わかる?」
「アァ!?」
「こんな人数に、こんな暗い場所で、海賊に囲まれて・・・・ねぇ、分かる?」


冷たい声が、アストラスの耳元で響く。

慌てて振り返った時にはもうくろねこの姿はなかった。
気づけば側近の男たちがうめき声をあげて地面にひれ伏している。

立っているのは、アストラスだけだ。


「残りは、アンタだけ」


ここまで、たったの三分の出来事。

海賊船から出てきたばかりの大量の海賊員が、一瞬で地面の石と変わらない状態になってしまった。その事実を受け止めきれないアストラスは、ごくりと唾を呑みながら大きな斧を構える。


「教えてあげる、あの子の恐怖」


数十人の男たちに囲まれ、絶望し、それでも泣いて抵抗した女性の恐怖を。


「上等じゃねぇか・・・ぶっ潰してやる!!」


振り下ろされる斧を、くろねこは最低限の動きで躱していく。

当たればひとたまりもないであろう勢いの攻撃をあまりにもギリギリで避けるものだから、思わずナミがひっ!と声を上げてしまった。その声に反応したくろねこの目が、建物の裏に隠れるナミ達を見つけて捉える。


「おいおい、よそ見してんじゃねぇぞ!!」
「っ・・・・」


一瞬のよそ見が、ほんの少しだけくろねこの動きを遅くした。

ふわりと黒い髪が舞う。
飛んでいった髪の毛にウソップとナミが「首がもげたー!!」と再度悲鳴を上げるが、その他のメンバーは驚きに目を見開いていた。

舞った黒髪が地面に落ちる。

月夜に照らされた長い髪の内側は、先程とは違いまるで少年のようだった。


短い黒髪。
中性的な顔立ち。

左耳に光る、ゾロと似たようなピアス。


「・・・・くろねこ


その顔立ちと名前に覚えがあったゾロは、震える手でナミの肩を叩く。


「なぁ、ナミ。くろねこって名前とあの顔・・・・覚え、あるよな?」


冷静になったナミが月明かりに照らされるくろねこの顔を見る。
そしてハッとした表情をした後、ポケットから取り出したメモをぱらぱらと捲った。


くろねこ・・・くろねこ・・・あった!義賊、くろねこ・・・!」
「ミホークの娘、くろねこ
「懸賞金――――五億・・・!」


ルフィ以外の誰もが驚き、手を止める。


「な、なんで、てめぇが・・・・!こんなところにッ!!」


震える手で振り下ろした斧が、くろねこの右手に当たった瞬間砕けた。


「ちょっと友達の船で遊びに来たんだ。・・・まぁ、正体知った瞬間、海軍に引き渡そうとするから沈めちゃったけど・・・・」


こんな風にね、と。

目を細めて笑ったくろねこが、一瞬だけ刀を抜いて海賊船の方を向いた。
ワンテンポ置いてすぐ、ずるりと船の中腹が斜めにずれる。

ミホークのときと同じ。
船が、真っ二つに割れて沈んでいく。

驚きすら追いつかない。むしろ、驚きすらしない。


「ッ、・・・・」
「ようやく、その顔になったね。その恐怖がさっきの子の恐怖、分かる?」
「わ・・・・わか、った、分かった!わかったから頼む!命だけはっ!」
「どーしよっかなぁ?私は義賊だから、アンタ達みたいなクズからは何でも奪うって決めてるんだよねぇ・・・・」


刀はもう抜いていない。

それでもアストラスは恐怖に震えていた。

刀なんて必要ない。
殺される。
手を振りかざすだけで、虫けらのように命を奪われる。


「震えちゃって、かわいそーに」


先程の女性を助けた少女と同一人物とは思えないほど、冷たい声。


「助けてほしい?」
「あ、あぁ!なんなら俺たちの宝とか全部やる!!」
「え、宝あったの?船沈めちゃったけど・・・・」


ま、いっか。

満面の笑み。

あまりにも無邪気で可愛らしい笑みに恐怖すらどこか飛んでいきそうになったアストラスの目の前で、悪魔は絶望を杯に注いだ。


「アンタの首でお宝分ぐらい稼げるっしょ」




◆◆◆




寝静まった町の中、大量のベリーが入った袋を嬉しそうに抱えるナミと、それを愛おしそうに見つめるサンジ、そして五億ベリーの賞金首が歩いていた。


「付き合ってもらってごめんね」
「むしろお礼を言いたいぐらいだわ!分け前こんなに貰えるなんて・・・気前がいいのね~」


この組み合わせが町中を歩いているのには理由がある。

賞金首を捕まえたはいいが、突き出しにいくための変装道具――――ウィッグが斬られてしまったくろねこは、代わりに賞金首を突き出してもらう役として二人を連れてきていたのだ。

顔が割れていないナミとサンジを借りて賞金首を金に変えたくろねこは、その半分をお礼としてナミに渡していた。


「ここまでしてもらってお礼しないほど、私達も野暮じゃないわ。どう?船に来ない?」
「ナミすわぁ~ん!良い提案だ!!このサンジ・・・素敵な出会いに乾杯の音色をならすための料理、お作りしますよ?レディ?」


紳士的に右手を取り、手の甲にちゅっとキスを落とすサンジを見て、くろねこはナミの予想とは違う反応を見せる。


「あ、え、っと」


明らかに、慣れないといった顔。

自分も泣いている女性に同じようなことをしていたというのに、自分自身がされるのには慣れていないらしい。


「素敵なレディには最高のおもてなしがモットーですので」
「あ、あり、がと・・・?じゃあお邪魔しようかな、刀も返さないといけないし」
「あぁ、そういえばアイツから盗んだんだったわね。どうして?」


くろねこの腰に下がっている白い刀は、ゾロのものだ。


「私、刀に詳しくてね。これ、名刀なんだ」
「そうなの?」
「うん。それで、持ち主の顔も怖いし海賊狩りから海賊になったっていうもんだから悪者だと思って盗んでやったんだけど・・・・」


優しく柄を撫でたくろねこが、少しだけ刀を鞘から抜いた。

輝く刀身。
刀を使わないナミ達にとっては、なまくらとの違いも分からない一品。

しかし、刀に詳しいと口にするだけはあるらしいくろねこは、何かを感じ取るようにうっとりとした表情で刀を見つめた。


「刀が、あの主人を好きだっていうから、返さないと」
「声が聞こえるのかい?そんなロマンチストなくろねこちゃんも最高だぁ~~!!!」
「なんとなく分かるってだけだよ」
「じゃあ、アンタの刀も名刀ってやつ?」


ナミの質問にくろねこは苦笑する。


「残念、これは名刀じゃなくて妖刀」
「へぇ・・・・全部同じに見えるわね」
「ま、そんなもんだよねー」


けらけらと笑うくろねこは、五億円がついているとは思えないほどあどけない。

それから他愛無い会話をしながらGM号に戻ってきた三人を、きらきらと目を輝かせたルフィが出迎えた。


「ちゃんと来てくれたんだな!くろねこ!!」
「船員さん借りてバックレたりするほどやばいやつじゃないよ、私」
「ししししっ!んなことは分かってる!お前はそんな事するやつじゃねぇ!」
「・・・・い、一応義賊なんだけどな・・・・」
「にしてもおめぇ強いし身軽だしおもしれぇし良いやつだな!!!・・・・よっし!!」


仲間になれ!!!!


「―――――え?」


船に招き入れられて一歩。

刀を返せとくろねこに掴みかかろうとしていたゾロ。
お金の袋を抱えてほくほくしたままいつものことだとキッチンに消えていくナミ。
大歓迎だと叫ぶサンジ。
震えるウソップ。

それぞれの反応を一通り見てから、くろねこはもう一度口を開いた。


「―――――え?」


聞き返しても、ルフィの表情はそれはもう清々しいほどに満面の笑みのままで。


「仲間になれ!」
「い、いや・・・えっと?私、五億のお尋ね者だよ?」
「すげぇーなー!?何したらそんな金額になっちまうんだ!?」
「なりたくてなったわけでもないんだけど・・・・・」
「トータルバウンティーいきなり五億超えかァ!」
「あ、もう決定・・・・?ま、まぁ、行く宛なかったし助かるには助かる・・・?」


戸惑いがちにそう呟くくろねこに、ゾロが肩を叩く。


「厄介なやつに目をつけられたな。諦めろ」
「えぇ・・・?」
「ルフィだけじゃねぇ。俺にもだ」
「え?あ、あぁ、ごめん、これね?返す」


恐ろしい目で睨んでくるゾロにくろねこはすんなりと刀を返した。

義賊の稼ぎ口は“悪人“
海賊である自分が狙われるのはごもっともだと思っていたが、ここまですんなりと返してもらえると思っていなかったゾロは、呆けた顔でそれを受け取ることになった。


「刀にゾロは悪い人じゃないって言われちゃったよ。・・・・ごめんね」


更に、呆ける。


「・・・・・返すのか?」
「え、返さなくていいの?」
「いや、それは困るが・・・・」
「義賊のモットーは“悪い人“から盗むこと。刀がゾロを悪い人じゃないって言ってるんだから、盗めないよ」


素直に謝るくろねこの表情は嘘を吐いていなかった。

受け取った刀を静かに腰に差す。
あぁ、さすがは船長だ。あいつが目をつけるだけはある。強いだけじゃない、何か不思議な感覚になるこの少女に、ゾロはもう一度肩を叩いた。


「刀を返しても詫びがまだだろ?」


こいつを、逃してはいけない。

自分の目指す道を阻む剣豪の一人を。

本当は詫びなんてどうでもいい。
ただ理由として使うにはもってこいの言葉に、くろねこが頬を膨らませて抗議する。


「・・・・・お酒奢ったじゃん」
「そんなんで足りるか。俺と戦うために船に乗れ、拒否権はねぇぞ」
「そうだぞそうだぞー!船に乗れー!!!」
「タチわるすぎぃ・・・・」


ルフィとゾロに挟まれ、船に乗れ乗れと圧を掛けられたくろねこは、タチが悪いながらも海賊らしくない勧誘方法に耐えきれず吹き出した。


「あっはははは・・・!!!」


力付くではない。

だけど、無理やりレベルの勧誘。


「五億のお荷物を自ら船に入れるなんて物好きすぎて・・・・目的とか聞かないの?私がどうして旅してるのかとかさぁ・・・!」
「あ、それもそうだな。お前なんか夢あんのか?」


取ってつけたような質問に、更に笑みがこぼれだす。
ひとしきり笑って、それからくろねこはルフィに対して頭を下げた。


「改めて、私はくろねこ。世界一の義賊を目指して旅してる。よろしくね」
「おう、俺はルフィ!海賊王になる男だ!あと、ゴム人間!」


びよーんと頬を伸ばしながら自己紹介をするルフィにくろねこは大して驚かない。
怖がるどころかルフィに手を伸ばし、一緒に頬を伸ばし始めるくろねこは、さすが五億の首といったところか。


「それで、ゾロは?」
「あ?」
「自己紹介」
「今更必要か?・・・・ロロノア・ゾロだ」
「こいつは世界一の大剣豪を目指してんだぜ」


ルフィの言葉にくろねこがへぇ?と首を傾げる。


「なるほどね?・・・・だから勧誘したってわけ?」
「・・・・分かってんなら話は早ぇ。刀を揃えたら早速戦ってもらうぜ」
「私もミホークと同じぐらい強いから、挑むってんなら覚悟しなよ」
「・・・・・」


分かりたくないが、分かる言葉だった。

あの時。
一歩も動かず男たちを倒したあの時。
その実力差を目の前で感じた。

彼女に挑めば、あの時と同じことになる。


分かっているからこそ、ゾロはくろねこをこの船に引き込んだ。
大きな最終目標に近づくための糧とするために。

負けても“仲間“なら好きなときにその技を盗み、挑むことが出来る。


それにこいつは―――――ルフィと同じ匂いがする。


「ゾロがそこまで仲間に勧誘するなんて珍しいと思ったら、そういうことね。私はこの船の航海士、ナミよ」
「ナミね、よろしくー」
「お、俺は、ウソップだ。キャプテン・・・じゃなくて、狙撃手だ」
「・・・・そんなに怖がらなくても大丈夫だよ?」


震えながら手を伸ばしてくるウソップに笑えば、ウソップも緊張したように笑みを返した。


「素敵なレディ。歓迎用のおつまみをご用意いたしました・・・俺がこの船のコック、サンジです」
「よろしく、サンジ」
「よーーーし!!じゃあ改めてよろしくな!!くろねこ!!」


不思議な海賊と、不思議な義賊が出会い。
これは運命か、必然か。






チェシャ猫は笑う
(運命の神様なんて、いないと思ってる)
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 ・DB(ベジータ・ピッコロ)
 ・テイルズ
 ・気まぐれ

◆Thanks!
見に来てくださってありがとうございます。拍手、コメント読ませていただいております。
現在お熱なジャンルに関しては、リクエスト等あれば優先的に反映することが多いのでよろしければ拍手コメント等いただけるとやる気出ます。
(龍如/オール・海賊/剣豪)