いらっしゃいませ!
名前変更所
プライドの高い男が、敵とみなす男に対して頭を下げたその次の日。
ニ年後の麦わらの一味再結成に向けて修行に集中することを誓ったゾロは、朝早く迷子になりそうな城の中を歩いていた。
迷子にならないよう、くろねこがつけてくれた刀傷を追って廊下を進む。
たどり着いた先の扉を開けると、昨日と同じ席にミホークが座っていた。
剣を教わるとは言え、師匠だの何だのと言うような間柄じゃないと判断したゾロは無言で別の席に座る。すると奥から出てきたくろねこが、両腕いっぱいに料理を抱えて微笑んだ。
「おはよー!ふたりとも!朝ごはんできてるよ~!」
「おい!私の分もあるんだろうな!?」
「あ、ペローナもおはよう。ペローナは甘いもの好きなんだよね?フレンチトースト作ったけど、食べる?」
「なっ・・・気が利くじゃねぇか・・・食べる!!!」
賑やかな朝の幕開けに、ゾロは深い溜め息を吐いた。
1.お父さんは最強の剣豪
用意された朝ごはんを食べながら、ゾロは何度もくろねこに視線を向けていた。
彼女の通り名は“ミホークの娘“
その名の通り、くろねこはミホークの元で育ち、剣を鍛えてきた女剣豪だ。
つまりは師弟関係。そしてその関係はゾロとくろねこの仲よりも長い。
「ミホーク、紅茶でいい?」
「あぁ」
「あ、これ前菜」
「・・・・くろねこ」
「ん?あぁ、新聞ね」
―――――のは分かるが、なんだあれは?
「・・・・くろねこ」
「はい、どうぞ!」
「あぁ」
ミホークが名前を呼ぶだけで、くろねこはミホークが何を欲しているのかすぐ理解してそれをミホークの傍に持っていっていた。その異様な光景には、ゾロだけでなくペローナもフォークを止めてあんぐりと口を開けている。
「な、なぁ、お前」
「あ?」
「あいつら・・・なんであんなに・・・夫婦みたいなんだ?」
「ぶーーーーっ!!!」
「ぎゃーーー!!きたねぇなおめー!!!!」
真正面に座っていたペローナのとんでもない発言に、ゾロは口に含んでいた紅茶を吹き出した。
完全にとばっちりを食らったペローナが怒りに手を震わせて立ち上がるが、それよりも先にくろねこが近づいてきてタオルを渡す。
「もー、何してんの?ゾロ」
「っこ、こいつが変な事を言いやがるせいで・・・!」
「あ?別に変なことじゃないだろう。なーんでお前と、そこの男はそんなに夫婦みたいに仲が良いんだって聞いただけじゃねぇか!」
びしっ!と音を立ててペローナがくろねことミホークを指さした。
指をさされたくろねこは、笑いながらミホークの隣に腰掛ける。
「やだなぁ、ミホークはパパだよ」
「・・・・その言い方はやめろ」
「パパ・・・!?お、お前ら、親子だったのか?それにしてはくろねこは可愛いじゃねぇか・・・・全然あの可愛くないやつとは似てないぞ」
「当たり前だ。血は繋がっていない」
淡々と答えるミホーク。
けらけらと子供っぽく笑うくろねこ。
確かに、親子と言われる方がしっくりくるだろう。
「ま、夫婦って歳でもねぇだろ」
一人納得するようにそう呟いたゾロは、気を取り直しておにぎりを口の中に放り込んだ。
「・・・・そうだっけ。ミホークって何歳?」
「教える必要があるか?」
「いいじゃん。30歳ぐらい?でも私と会ったときからその顔だったよね」
「・・・・失礼なことを言っている自覚があるのか?」
「変わらず若いって言ってるんだよ、褒めてるの!・・・・で、何歳?」
よくあの難しい顔に、何度も何度も尋ねる勇気があるなと感心しながら二人のやり取りを眺める。
しつこくツンツンとミホークの頬をつついて聞き出そうとするくろねこの謎の勇気に、ミホークは大きなため息を吐いて新聞を投げ捨てた。
「うるさい」
「教えてくれないのが悪い」
「海賊なら情報も自分で聞き出せ」
「義賊なんですけどー!?まぁでも・・・・たまにはそういうのもありかも?」
―――――一瞬、だった。
ゾロとペローナには、彼らの動きが見えなかった。
気づけば二人共剣を抜いていた。
「・・・・甘い」
「く~~~!!!」
ミホークは胸元の短剣を、くろねこはポケットに忍ばせていた短剣を。お互いに同じ短剣であることに気づいたゾロは、再び芽生えたもやもやを押し殺すようにおにぎりを飲み込む。
その心のもやは、二人の仲の良さを感じたからだけではない。
あの二人の実力と、自分の差だ。それがこの一瞬で手にとるように分かった。早く、早く傷を治して修業に戻りたい。焦る気持ちが握るカップにヒビを入れる。
「ちぇっ、気づいてた?」
「当たり前だ。そんなにわかりやすく殺気を出しておいて隠したつもりか?」
「あはは!」
「ふん・・・まぁいい。どうせそこの男も怪我が治るまでじっとしておける質ではないだろう。この続きは後でやる。“見て“盗むというのも、良い修行だ」
ミホークの言葉はゾロに向けられたものだ。
その言葉に嫌味はない。純粋にその通りだと理解できるものだったが、それでも眉間の皺は緩まなかった。
「・・・・・チッ」
色々と、気に食わない。
くろねことミホークの距離感も。
見透かしたようなあの目も。
「・・・・なぁ、お前」
「あ?」
「スリラーバーグで思ってたんだが、くろねことお前は付き合ってんのか?」
「ぶーーーーーっ!!」
「てめぇーーー!!!またやりやがったなぁ――!!?」
再び噴射される、紅茶。
呆れ顔でタオルを差し出すくろねこは、ゾロの挙動不審さに首を傾げる。
「さっきからどうしたの?」
「さっきからこのゴースト女がうるせぇんだよ!」
「はぁ!?私はただ、おめぇとくろねこが付き合ってんのかって聞いただけだろうが!」
「え?なんだそんなこと?付き合ってるよ?」
「そうなんだな?なんてもったいない。くろねこみたいに可愛いやつが、こんな可愛くない剣士と付き合うなんて・・・」
「ほっとけ!!大体可愛くある必要がどこに・・・ッ」
ひやり、と。
肌を撫でる雰囲気が変わったことに気づいたゾロは、ハッとしてミホークを見た。だがミホークは表情一つ変えず紅茶を口にしているだけだ。
気のせいか?
今確実に、一瞬だけ殺気を感じたような――――。
「あ、パパには紹介しとかないとね」
「必要ない」
「えー?父親代わりに挨拶してもらおうかと思ったのに」
「・・・・・・・・・くろねこ」
ミホークの手がゆっくりと黒刀に伸びる。
「あ、待って、たんま」
「五秒だけ待ってやる」
さすがのミホークもくろねこの冗談に耐えかねたらしい。
それでも表情は崩さず、至って真面目に剣を掴んだミホークに、くろねこの表情が引き攣る。こうなったら止まらないと分かっているのだろう。くろねこも急いで刀に手を添えると、窓を開けて外に飛び出した。
きっかり五秒。
開け放たれた窓から全力で飛び出していくミホークを見届けたゾロとペローナは、外から激しい音が聞こえ始めたのをきっかけに同じように窓から外に飛び出した。
◆◆◆
目で追うことすら難しい速度でぶつかり合う刀。
それは、今まで見ていたものとは違う次元の戦い。
戦いに圧倒されたのは言うまでもないこと。
同時に、くろねこがここまで本気で戦っているのを初めて見るゾロは、ミホークと互角にやりあえているその実力に悔しさと楽しさを感じていた。
「ッう、あぶっ、な!!」
本気で殺しにきている剣が、くろねこの耳元を通り過ぎる。
髪の毛が数本舞ったのと同時に血が飛び散る。
女の顔がどうとか、そんな文句を言う暇はない。
くろねこも気にしておらず、その傷に見向きもせず体の向きを変えて斬撃を放った。
夜の剣に軽くいなされる斬撃。
お返しとばかりに数倍の斬撃を繰り出すミホークに、くろねこは真正面から対抗する。
「あああああんな小さな剣であんなでっかいの受けたら死んじまうんじゃねぇのか!?」
「うるせぇ、騒ぐな。集中できねぇだろうが」
あんなのでやられるわけがない。
予想通り、くろねこは手元の短刀で大地を切り裂くほどの斬撃を軽く受け止めた。しかもその反動を食らっている様子もなく、すぐ次の攻撃に切り替えられている。
見て、盗め。
くろねこはどうやってあんな攻撃をいなしてるんだ?
耳元で騒ぐペローナの言葉も無視して、ゾロは二人の戦いを睨みつけ続けた。
持つ獲物も、攻撃のスタイルも真逆の二人は、お互いの攻撃を綺麗に受け流しながらどちらも譲らない戦いを繰り広げている。
「ッ・・・・!」
「おかえし!!」
くろねこの斬撃が、ミホークの耳元を掠めた。
先ほどとは逆の展開だ。
その瞬間、表情を変えたミホークが今までとは違う剣の構えを取った。
嫌な予感を感じ取ったくろねこが慌てて距離を置こうと後ろに飛ぶが、それよりも早い剣の突きがくろねこの肩を捉えた。
「ぎゃー!!剣刺さってるぞ!!??い、いいのかぁ!?」
ペローナの悲鳴と共に防ぎきれなかった剣が肩をえぐり、雨のように血を飛ばす。
地面に落ちるくろねこの体。
静まる、森。
それを見届けてもなお剣を構えたままくろねこの方に歩み寄るミホークは、切っ先をくろねこの喉元に突きつける。
「終わりにするか?」
「・・・・・」
「終わりにするなら答えろ。答えないのであれば戦う意志があると見なす。・・・・そんな傷で、動けなくなるお前でもないだろう」
くろねこはミホークの言葉に少しだけ視線を動かすと、口元に不敵な笑みを浮かべた。
「よく、わかってるじゃん・・・・」
まだ、諦めていない笑み。
その笑みにミホークも楽しげに目を細める。
「諦めが悪いな」
「誰かさんの娘なんでね」
「・・・・別にお前を育てた覚えはない」
「でも世間一般的にはそういう風に見え」
冗談を切り裂く、本気の斬撃。
ペローナの悲鳴すらかき消される轟音と共に姿を消したくろねこは、右肩の傷が嘘のように大ぶりの構えを取ってミホークに斬撃をお見舞いする。
複数の斬撃と共に自身を間合いに滑りこませ、長刀であるミホークの夜を扱わせない作戦なのだろう。作戦通り懐に飛び込んだくろねこは、自身の短刀が得意とする間合いで剣を振り続けた。
「ぜってぇお返しするッ!!!!」
「・・・・だがスピードが落ちている。右肩を庇っているせいで攻撃も甘い。こんな攻撃で俺を捕らえられるか?」
「言われなくてもッ・・・!」
一手一手を捌かれても、くろねこの剣は真っ直ぐ前を向く。
攻撃が甘いと指摘を受けているが、あの血と怪我でこれだけ動けていれば十分ともいえる。だが、ミホーク相手では確かに不十分だろう。
それでも諦めていないくろねこは、何かを企んでいる。
ミホークでなくとも気づく展開にゾロはごくりと喉を鳴らした。
ここまで見透かされたような状況で、くろねこはどう動くつもりだ?
「―――――飲み込め、桜花大蛇!!!」
まさかの真っ向勝負。
白色の斬撃と舞う桜が、ミホークの体を蛇のように飲み込む。
キラキラと煌く美しいそれも、全てが斬撃だと思うとぞっとする光景だ。
普通の人間ならその中で刻まれていることだろうが、ミホークがあれにやられるとも思わない。くろねこも桜吹雪を前に目を閉じて集中していた。
この大技ですら、ミホークの行動を狭める一つにしかなっていないと理解しているのだろう。
「・・・・どこから、出てくる」
勝負の時は、一瞬。
「・・・・・」
微かな音。
気配。
全てに集中して感じ取る。
「・・・・そこだッ!!!」
桜吹雪が消え去った瞬間、くろねこが一点めがけて刀を振り下ろした。
視界が一気に開け、この勝負の行方が見えてくる。
「やはり、少し甘いな」
「ッ・・・う、くっ」
右肩に刺さる夜。
同じ傷口に刀を刺されたくろねこは、流石に力を失って地面に崩れ落ちた。
「っだ~~~~!!同じ場所狙うとかくそーー!!!!」
「フン」
「明日は絶対勝ってやるッ!!!」
血だらけだというのに元気にジタバタと暴れまわるくろねこにゾロが慌てて駆け寄る。
そんな背中にペローナが余計な一言を放った。
「あんなのがお父さんなんて、お前も可愛そうだな・・・・」
「・・・なんでだよ」
「ホロホロホロホロ!そりゃ、娘をもらう時は挨拶するだろ?どうするんだ?俺より弱いやつにはやらん!なんて言われたりしたら・・・・」
思わず想像して、表情が歪む。
「・・・・・・・・・・きもちわりぃこと言うな」
あのミホークに限ってそういうことをするとは思えないが、何かしらくろねこに特別な感情を抱いているのは確かだった。あのときの殺気。ゾロとくろねこが恋人だと言ったときの空気―――――絶対に、気のせいじゃない。
お父さんは最強の剣豪
(いや、さすがに、ないだろ・・・たぶん、大丈夫だ。想像したくもねぇ!)
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