Erdbeere ~苺~ 4.お願いしますって言えたらな 忍者ブログ
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2013年02月06日 (Wed)
一馬之介/切→ギャグ甘/ヒロイン視点

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4.お願いしますって言えたらな


あの日以来、桐生とは顔を合わせなくなった。
それはもう、前よりも酷い状態で。

追いかけて来なくなったってわけじゃなく、もう顔も目も合わせない状態だ。
アイツが、じゃなくて。私が合わせてないんだけれども。

合わせにくいったらありゃしない。

桐生の冗談で取り乱して、勝手に泣きかけて帰ったのは私なんだから。


「はー・・・。はー・・・・ぁ・・・・」


深すぎるため息。
全ての息を吐ききってしまうんじゃないかというほど息を吐いた私は、飛んできた鳩に手を差し出した。

久しぶりに来る、依頼書だ。
鳩は慣れた様子で私の手に留まり、持っていた依頼書をポトッと落とす。


「んぁー?・・・うわ、まためんどくせぇところからきたな・・・・」


依頼書に記されている、見覚えのある金色の模様。
これはとある有名な金持ちの店主の模様で・・・報酬も高いが、それなりに依頼内容もキツイものになる。

こんな時に、ここから依頼が来るなんて。
失敗が許されないほど大きな相手に、眩暈を覚えながらも依頼書を開く。

このお金持ちが考えてることは良くわからない。

前は古びた屋敷の秘密を探らされたし、その前は遊女でもなんでもない女の情報依頼だったし。

そして今回の内容も、良くわからない内容だった。
じっくりと読み進めていく内に以来の内容が明らかになり、段々と私の顔から血の気が引いていく。


「こんどの大きな宴会で、遊女に紛れて護衛をしろ・・・だぁ?」


依頼の内容はこうだった。

この金持ちの店主が今度、店の奴ら全員で遊郭に飲みに行くらしい。
だけど最近物騒で、何かと得体のしれない奴らに襲われるんだとか。

それから守って欲しいってのが、今回の依頼内容。
普通に聞けば単純な内容。でも条件に記されていた、“目立たぬよう、遊女に紛れて”という文章が私の頭を悩ませた。


「めんどくせぇ条件出しやがって・・・」


遊女に紛れるのは簡単だ。
それなりに見繕って、その日だけ裏を通して遊女の中にいれさせてもらえばいい。

いわゆる、賄賂ってやつ。
理由を話しておけば大体は大丈夫だろう。

ただ遊女の恰好をするということは、それだけ身動きが制限されるというわけで。

私ひとりじゃ、明らかに手が足りない。


「チッ・・・・いつもならアイツに頼むんだけどな・・・」


いつもなら、ここで桐生に頼む。
喧嘩仲ではあるが、お金さえ払えばアイツはきちんと仕事をしてくれるからな。

しかもちゃんと私の依頼内容に合わせて、演技を決めてくれる。
最高の相棒ってところなんだが、今はとても頼みにくい。

でもこのままじゃ、依頼内容の仕込みが間に合わなくなっちまう。


「うぐ・・・や、やるしか、ねぇよな・・・・」


依頼失敗と、桐生に頼み込むのと。
どっちが嫌かと言われれば、桐生に頼み込むのが一番嫌だ。

だけどどっちがダメかと言われれば、もちろん任務失敗の方になる。


「・・・うし。覚悟決めよう」


あんな金持ちの依頼を、失敗する度胸は私に無い。
というか、そんなことしたら人生の半分以上のお金を無駄にすることが目に見えていた。

私はただの情報屋。

長いものに巻かれ、楽しみ、刺激を味わい、相手を翻弄して生きる仕事屋。
そして美味しくお金をいただく。汚い仕事。


「っ・・・ま、いくしかねぇな」


ぴょんぴょんと屋根の上を飛び移り、龍屋へと移動する。
元々正面から入ることが少なかったその家に、我が物顔で屋根裏から侵入した。

もちろん、家の主はすぐに気付く。


「・・・何してんだ、お前」
「相変わらず気づくの早ぇな、桐生は」
「お前から避けてたくせに、お前から捕まりにくるなんて・・・どうしたんだ?」
「仕事の依頼、頼もうかと思って」


いつもと変わらない会話。
それにほっとした私はいつも通り依頼書を取り出し、桐生の目の前に突き出した。

桐生はそれをゆっくりと目で追い、内容を確認する。

そして何を思ったのかニヤリと怪しい笑みを浮かべ―――私の腕を掴んだ。


「なっ・・・!」
「依頼、受けてほしいんだろ?」
「そ、そりゃ、受けてほしいよ。ちゃんと金も持ってきたし・・・・」


おかしい。
いつも通りなら、普通に「金はあるんだろうな?」って言って金をせびるだけで終わるはず。

なのにどうしてこいつは、私の腕を離そうとしない?


「お前、どうしてあの時俺から逃げた」
「ッ・・・・」
「お前らしくもねぇ。・・・俺の冗談を、本気にしたってのか?」
「うるせぇ・・・だったら、なんだってんだよ」
「・・・なるほど、な」


また小さく笑われ、イラついていた私は手を上げた。
しかしその手は簡単に押さえ込まれてしまい、勢いよく両手とも壁に縫い付けられてしまう。

え、なんだ、この状況。
逃げ場が、無い。

改めて自分が危ないことに気付くも既に遅く、唇が触れる寸前まで顔を近づけられ、私は思わず目を閉じた。


「っ~~!近いっ!!離れやがれっ!!」
「冗談を本気にってことは、やっと俺のことを意識してくれたって証拠だろ?」
「勝手なこと言うなっての!」
「フッ・・・その反応だけで、充分だ」
「はぁ・・・!?もういいっ!依頼、引き受けてくれるのか?くれねぇのか?どっちだよ!!」


いつもなら、ここですんなり答えが返ってくる。
でも何故か桐生は返事を返さず、その場に静かな空気だけが流れた。


「・・・?桐生?」
「受けるか受けないかって言われても、受けないと困るんだろ?」
「・・・そ、そりゃ、そうだけど」


嫌な予感がする。
目の前の男が考えてることは、私じゃまったく予想がつかない。

私を好きだと言ってみたり。
私をからかってみたり。

追いかけたり、追いかけなかったり。

こいつが考えてることは何一つ分からない。
それに振り回されかけている自分が、一番怖かった。


「いいぜ、受けてやるよ」
「お?ありがとな!」
「ただし、お願いしますって言えたらな」


・・・は?
今なんて言った?


「なん、は?なんだって!?」
「たまにはお願いしますって言ってみろよ」
「はぁっ!?なんでお前に言わなくちゃいけねぇんだ!つべこべ言わずに引き受けろよ!」
「引き受けてほしいやつの態度じゃねぇだろ?」
「んだと!金払ったらなんでも引き受けるんじゃねぇのかよ!」


いつも通りの言い争い。
その言い争いがとても久しぶりで、どこか満たされる感覚を覚えた。

こうやって言い争うのが当たり前になっていたことに、今更自分自身で気付く。

―――楽、しい。
楽しい。こいつとこうやって馬鹿みたいに争ってるのが、楽しい。


「そんなんじゃ女に嫌われるぜ、桐生」
「お前がいるなら他の女はいらねぇよ」
「よくそんな寒気のするような言葉が言えるな!良いから仕事引き受けてくれよ!?」
「お願いしますって、言ってねぇだろ?」
「っ・・・・私をからかって何が楽しいんだっ!」
「好きな奴ほどいじめたくなるってのは、当たり前だろ」
「あー!もう分かったよ!!お願いします!これで良いんだろ!?」


勢いよく桐生を睨みあげると、これ以上にないほど楽しそうな笑みが目に入った。
それに煽られて言い返そうとした瞬間、ふと唇を暖かいものが掠める。


「っ・・・!」
「やっとお前らしくなったじゃねぇか」
「おま、え・・・」


桐生の唇が触れた、自分の唇。
楽しそうに笑う、桐生の表情。

“やっとお前らしくなったじゃねぇか”・・・か。

もしかして、慰めてくれたのか?
私が落ち込んでるって分かってたのはこいつしかいねぇけど、やり方がアレすぎて喜ぶ気が起きない。


「てん、め・・・っ!勝手にそういうことすんな!!」
「何でだ?・・・本当に嫌なのか?」
「そ、れは・・・」
「嫌ならやめるぜ。俺も嫌がる女にするほど、落ちぶれちゃいねぇ」
「・・・・っ、ひ、きょうだろ・・・」


これが女を落としてきた男の実力なのか?
それとも、本当に、私のことを。


「嫌じゃねぇなら、今回の仕事代としていただくぜ」
「なっ!?んっ・・・!!!」


無言を貫いていた私に、再び口づけが落とされる。
抵抗する力もすっかりなくなり、私はされるがまま。

ああ、くそ。
どうして私はこんなやつを。

こんなやつを、好きになってしまったんだ・・・。


「ぷはっ・・・!てめぇ!!1回殺させろ!!」
「っと・・・あぶねぇな。そんなもん振り回すんじゃねぇ」
「誰のせいだと思ってんだ!!」
「うるせぇな・・・」
「桐生・・・覚悟!!!」


























再び戻った賑やかなこの空間。
(やっぱり私は、いつの間にかこいつに負けてたみたいだ)
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