５話（２）/※桐生視点

狭山のことを見たとき、俺はこいつに似てる奴を知っていた。
そう、その似てるやつっていうのは、アイツ―――あけだ。

何にも強がりで、女らしく振る舞わない。
どんな相手でも自分の感情と判断を容赦なくぶつける。

そんな狭山の性格は、話を聞くたびますますあけと似ていると思った。

だから協力してやろうと、俺は狭山の話を聞くことにしたんだ。


「お前はどうしても、過去を知りたいんだな」
「ええ、そうよ」
「なら俺に張り付いて東城会を探れ」
「貴方、そんなこと言っていいの？」
「・・・・俺は」


ピピピピ・・・。

狭山の話を聞いている最中、俺の携帯が小さく震えた。
話の腰を折られた狭山が静かに席を立つのを見ながら、震える携帯の番号を確認する。

掛かってきている番号は、俺の知らない番号だった。
間違い電話かと思ってほっとこうとしたが、電話は一向に切れる気配を見せない。

これは、出た方が良いみたいだな。

もしかしたら、公衆電話からあけが掛けてきてるのかもしれねぇ。


「もしもし」
「桐生さん！？よかった、つながった！！」


電話を取った瞬間、息を切らした田村の声が俺の耳に響いた。


「お前は・・・田村か？どうした」


嫌な予感がする。
田村のところには今、あけが情報を聞きに言っているはずだ。

それなのに何故、田村が俺に？
俺の嫌な予感は見事的中し、電話の向こう側から慌てたような声が聞こえる。


「桐生さん、大変です！！あけさんが変な奴らに抱えられていったって、知り合いから情報が・・・！！」
「何・・・！？」
「攫って行った奴は、片言の日本語だったとか・・・！！」


片言の日本語？
それじゃあ、あけを攫ったのはもしかして、大吾を攫ったやつと同じ？

俺は田村からの電話を切った後、苛立ち紛れに携帯を机に叩き付けた。
外国の、しかも得体のしれない人間にあけが捕まったのだ。

大吾とは違いあけは女。最悪の事態も考えられる。


「どうしたの？随分と落ち着きなくなったわね」
「あけが・・・攫われた」
「・・・それ、本当？」
「・・・チッ」


あけのことになると、どうしても心を冷静に保つことが出来ない。
アイツは気が強いから、余計なことを言って酷いことされてるんじゃねぇかって考えてしまう。

ガラに無く、焦りで狭山との会話が続かなかった。
何を聞かれても俺の耳には入らず、狭山からの言葉が通り抜けていく。

アイツ一人の存在が、俺の中でここまで大きいとはな。

居なくなって改めて気づかされたあけの大切さに、俺はふと笑みを零した。


「・・・らしくないわね。そんなにあの子が大事なの？」
「当たり前だろう」
「でもあの子なら平気じゃないかしら？相当腕の立つ子だったじゃない」


だから心配なんだ。
アイツは無茶をして、どんな時でも弱みを見せない。

それは当然、敵の前でも同じなはず。

敵を怒らせる言葉でも、アイツは平気で言うはずだ。
それで相手を怒らせて逆上させていたら、もしかすると最悪なことが起こっているかもしれない。


「アイツは弱ぇんだ。・・・本当はな」


強がってるだけだということを、俺は知っている。

１年前、俺たちが初めて遥と会った場所で、アイツは震えていた。
血だらけのバーで震えていた遥と同じように。

アイツも心は女なんだ。
純粋で、誰よりも素直に物事を見つめてくれる。

だからこそアイツは、その脆い部分を隠そうとする。

守ってやらないと、いつかは壊れてしまう。


「ふぅん・・・じゃあさっさと行くわよ。なおさら急がないといけないでしょう」
「・・・言われなくても分かってる」


失いたくない存在がいつも背中合わせに居ることを、俺は当たり前だと思い始めていた。
でもこうしてアイツが居なくなると、真っ先に不安に襲われる。

―――やっぱり俺は、アイツが大事なんだな。

いつも憎まれ口しか叩き合わねぇが、俺にはあけが必要だ。


「さっさと行くぞ」
「・・・ええ」


さっさと見つけ出して、次こそ無茶をさせないよう俺の傍に置いといてやる。
もちろん、俺に心配をかけたお仕置きも・・・しなくちゃいけねぇからな。


























待ってろよ、あけ。
（必ず俺が、助けに行く）