Erdbeere ~苺~ 3.お前なんかどうでもいいって意味 忍者ブログ
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2013年01月25日 (Fri)
一馬之介/切甘/ヒロイン視点

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3.お前なんかどうでもいいって意味


あれから数日後、桐生は本当に私を追いかけて来なくなった。
というか、出会うことすらしない。

私自身仕事で町をふらつくのが多いというのに、それでも見かけないのだ。


「・・・やっぱり、遊びじゃねぇかよ」


ボソッと呟いても、それを否定する男はいない。
あれで良かったんだ。アイツのことを信じなくて正解だった。

その言葉だけが頭の中を巡り、私は大きなため息を吐いた。
賑わう祇園の街並みでは、そんなため息もすぐに消えてなくなる。

なんでこんなに、苛立つ必要があるんだ?

良いじゃないか。追いかけられなくて済むんだ。
それなのに、どうして。


「嫌になっちゃうなぁ・・・」


心の中をかき乱す、アイツの存在。
私はそれを無理やり追い払うと、手元にある仕事で気を紛らわせることにした。

私の仕事は情報屋。
色んな人に色んな情報を売り、金を稼ぐ。
祇園での仕事の8割は、人探しや遊女に関しての情報だ。

そして手元にある今の仕事も、その中の一つ。

とある遊女の情報を全て欲しいと言ってきた男に、情報を売りに行くだけの仕事。


「さーってと・・・」


早速売りに行きますか。
仕事を始めれば私も情報屋。きちんと仕事のことだけを考えるようになる。

アイツのことを忘れられる、はず。


「ここか。おーい!誰かいるかー?」


指定されたのは、祇園の町でも比較的静かな場所だった。
そこにあった一軒の家の扉を叩き、家の主が出てくるのを待つ。

彼が指定してきたのは、遊女の好きな食べ物、日常行動、どんな客を相手にしてるかという細かい情報。
こういうのを聞かれるのは珍しい事ではなく、私は手慣れた手つきでその情報を紙にさっとまとめた。

どうせ、身請けしたいとかそんなんだろ。

金があっても、女の心がなきゃ、身請けは成立しねぇからな。


「おーい、いねぇのかー?」
「あぁ、ちょっと待ってくれ」
「んだよ・・・いるんじゃねぇか」


中から複数人の声がする。
皆で将棋でもしてるのかと、何の気なしに扉を開けた瞬間だった。

――――目の前が、黒に、染まる。

慌てて身を翻すが既に遅く、私は二人の男に腕を取られ、その場で羽交い絞めにされた。
身動きが取れなくなった私の前に現れた男は、下品な笑みを浮かべている。


「なんだ?案外ちょろいじゃねぇか、祇園の鷹ってのも」
「布で猫だましを仕掛けてきた、卑怯なお前に言われたくねぇな」


私の視界を奪った、黒い布。
地面に落ちたそれを睨み付けた私は、そのまま減らず口を叩き続けた。

こんな男たちに、遅れをとった苛立ち。

そしてこの男たちが考えているであろうことに対する、苛立ち。


「んで?私にこんなことして、何するつもりだ?」
「そんなこと分かってるやろ?なぁ」
「あぁ・・・そぉら、立て。こっちに来い」
「ッ・・・・!」


無理やり立たされ、家の中に放り込まれる。
そこで目にした光景は、私の予想を遥かに超える光景だった。

遊女たちが、ずらり。

見覚えのあるなしに関係なく、身に着けているもので判断すれば、そのほとんどが上位の遊女だ。

そういえば最近、遊女探しの仕事も結構来てたな。
全部、こいつらが犯人だったってわけか。
震える遊女達の中に投げ捨てられた私は、即座に反撃に出ようと立ち上がった。

が、しかし。


「おおっと・・・下手なマネしたら、ここの遊女達、どうなるかわからねぇぜ・・・?」


拳を構える私。
震える遊女達に刀を向ける男。

だめだ。
こんなところで、こんな人数の遊女を私の判断で殺すわけにはいかない。
震える遊女達に笑みを浮かべると、遊女達が安心したように表情を緩めた。

おとなしく、してるしかねぇのか。

遊女達も私も、身動きを封じられてるわけじゃない。
でも誰も逃げられない。誰かが逃げれば誰かが犠牲になるという、最悪な状況だから。


「(絶対にコイツら、ひねりつぶしてやる・・・!!)」


こういう小癪な手が、私は一番嫌いだった。

どうにかして、全員を無事に逃がさなければ。
どうすればいい?どうすれば。

どうすればこの人数を連れて、逃げられる?


「(考えろ、考えるんだ・・・)」


私自身、この状況に恐怖を感じてはいなかった。
それはこの男達に襲われても、返り討ちに出来るという自信があるから。

でもこの遊女たちには、そんな余裕もないはず。

まず隙をついて皆を落ち着かせて、それからどうにか逃げ道を見つけるしか・・・・。


「おい、鷹」


考えている最中に仕事名を呼ばれ、反射的にその男を睨みつけた。


「・・・・なんだよ」
「なんだよ、じゃねぇだろ?酌ぐらいしやがれ!」
「はぁ?なんで私がそんなことしなくちゃいけねぇんだよ」
「おい、お前、こんな女が好みなのか?」
「悪いですか?私はこういうの、大好きなんですけどね」
「っ・・・」


酌をしろと大声を上げていた男とは別に、少し高めの着物に身を包んだ男が私に触れる。
気持ちが悪くて突き飛ばせば、その男は何故か笑みを浮かべた。

やばい、この男。狂ってやがる。

そう思った瞬間には、私の体に強烈な痛みが走っていて。
下腹部に一撃。あまりの痛みに一瞬だけ呼吸が詰まる。


「かはっ・・・は、ぁ・・・っ」
「こういう女を、痛みと快楽で黙らせるのが楽しいんじゃないですか」
「あー、そうかよ。好きにしてくれ」
「ええ、好きにします・・・さぁ、こちらへ」
「触んなっていってんだろうが!!!」
「ふふっ・・・やっぱり見込んだ通りだ。それぐらい抵抗してくれないと、つまらないです」


趣味が悪すぎるだろコイツ。
「お前をかわいいって言ってるやつもいるんだぜ」という桐生の言葉を思い出した私は、桐生とその男を見比べ、ふと乾いた笑みを浮かべた。

あーあ。

こんな男に好きにされるぐらいなら、桐生に騙されとくべきだったな。

無意識に浮かんだ桐生の顔に、もう苛立ちすら湧かなかった。
敵対同士とはいえ、長い付き合いなんだ。女遊び以外の顔だって知ってる。

それでも私はあいつが忘れられない。

宮本武蔵であろうと、桐生であろうと、私は心のどこかで彼を。


「・・・・はっ。今更、遅いか。騙されてた、わけだしな・・・夢、見ておけばよかったかもな・・・・」
「やけに大人しいですね。諦めましたか?」
「そんな風に見えるか?」
「見えないから言ったんですよ。そうでなくちゃ、つまらないです」
「趣味が悪い男は、金持ちでも嫌われるぜ?」


着物の着こなし方、話し方、雰囲気。
全てを含め、それなりの金持ちだってことが見て取れる。

なのにこんな趣味をお持ちとは。
挑発的な意味を込めて笑って見せれば、痛みの残る腹部にまた拳を食らい、私はその場にひざまずいた。


「武芸もたしなんでるってわけか・・・。やっぱりお前みたいなのは、綺麗な遊女と遊んでる方が・・・」
「飽きたんですよ」
「は?」
「遊女に飽きたんです。だから遊女とはまったく違う女の貴方を知り、興味を持って・・・今に至るというわけです」


言ってることが無茶苦茶だ、こいつ。
苛立ちを素直に表に出せば、その男に顎を掴まれる。

そして逆らうことの出来ない男の力で、私の顔を無理やりその男の方へと向けた。


「ふふ・・・・やっぱり正解だ。貴方は本当に面白い」
「こんな方法しか思いつかないところが、金持ちって感じだな。・・・普通に遊女みたいに、私を口説こうとは思わなかったのかよ」
「思いませんよ。欲しいものは手に入れる、これが当たり前です」
「・・・・あー、はいはい」


話をしても無駄だと気付いた私は、上を向かされた状態で男を睨みつける。

遊女に飽きたから、か。
桐生もそんな気持ちで、私を口説きに掛かったんだろうか。

私は桐生が抱いてきた女とは違う。
そりゃそうだ。私はそういう女っぽい女が嫌いだから。

桐生も、遊女に飽きたから、私に。

そう思うと、胸がズキリと痛んだ。


「あぁ・・・・お前のせいで色々嫌なこと思いだしちまったじゃねぇか・・・・」
「ええ、それで?」


思い出したのと同時に、妙な安心感が生まれる。

これでも桐生が祇園に来てから3年、相手にしてるんだ。
アイツの気配を探るのはお手の物。

何が言いたいかっていうと、つまり。
今私の第六勘には、アイツの気配を感じてるってことだ。

そう、つまり、アイツが。


「うわっ!?な、なんだお前・・・・うわぁああぁあ!」
「ひっ!お、おまえは・・・・っ!!うがっ!?」


良い意味でも悪い意味でも、私はアイツに惹かれてるらしい。
部屋の外で起きはじめたゴタゴタに、さすがの男も状況を理解したのか、私から手を離して扉を開けた。

そこに広がっていた光景は、予想通りすぎるもので。
私は思わず苦笑いを零し、隙を突いて部屋から飛び出した。
桐生は私の姿を見て驚いたのか、男達を殴っていた腕を止める。


「お前、なんで、ここに・・・・」
「見ての通りだよ。攫われたんだ」
「・・・・はっ。なんだよ、お前らしくない失態だな」
「・・・んだよ。少しは労わってくれねぇのかよ?結構・・・怖かったんだぜ?」
「俺はお前じゃなく、ここの遊女たちを助けに来たんだよ」


つまり、何が言いたい?
言葉の意味が理解出来なくて挑発的に尋ねると、桐生の表情が意地悪く歪んだ。


「お前なんかどうでもいいって意味だよ。俺はこの女たちを助けに来たんだ。それともまさか、俺に慰めてほしかった・・・とか?」


冷たい、声。
いつも通りの意地悪。

分かってる。
何一つ、いつもと違わない。

違っているのは、私の心。

こんな小さな挑発にも、まともに返せないほど私の心は弱っていた。

追いかけて来なくなった桐生。
さっきの男の、女の話。


「うるっせぇよ・・・・調子にのんな、桐生のくせに」
「・・・・お前」
「さっさとそこの女たち、助けてやってくれよ。私はこいつらを・・・門番に放り投げてくるからよ?」
「おい、待「んじゃ、お前らさっさと立て。逆らえば腕の一本折るかもな」


私は桐生の話を聞くことなく、誘拐犯を縛り上げて外に出た。
今話しかけられたら、自分の心の弱さを、さらけ出してしまう気がしたからだ。

ああ、そうだよ。気付いたよ。
私は桐生に惹かれちまってる。
だけどアイツもあの男みたいに、私が遊女と違う女だから、だから遊んでるのかもしれない。

そう思うと、何もかもが苛立ちに変わった。

本当に腹が立つ。何もかもが苛立つ。


「おい!!女!!俺たちを引きずり回すようなことしやがっ・・・・ごふっ!?」
「お金ならいくらでもあげましょう。だからここは・・・・ぐっあ・・・!?」
「うるっせぇよ・・・・半ばお前たちのせいで・・・・っ!!!!」


うるさい誘拐犯達に苛立ちをぶつけ、門番に引き渡すころには、その男たちはぐちゃぐちゃになっていた。
引きずったせいでついた土と、その辺の水溜りの泥と、私の攻撃で流れた血で。

―――結局、桐生と口を利かずにここまで来てしまった。

私はどうすればいい?
どうしたい?

予想以上に、桐生の冗談を本気にとらえている自分がいて笑ってしまった。

アイツのこと気にしてなきゃ、こんな気持ちにはならねぇよな。
分かってる。分かってるさ。私はアイツのことが好きなんだ。

でも、だから、なんだ。

遊女みたいな魅力も、女の基本すら持っていない私が、何をアイツに求められる?
























アイツの本気の心は、きっと私には向いてくれない
(とりあえず、私にこんな女としての気持ちが残ってるってだけでも、上出来かもな)
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