いらっしゃいませ!
名前変更所
お酒を注ぎ、お兄さんと話す。
まるで作業のように仕事をこなす私を、金髪の兄さんはまったく怪しまずに抱き寄せた。
こいつ、只者じゃないだろうな。
貫禄もあるし、威圧感もある。さっそく大物ゲットって感じか。
内心ニヤリと笑う私に、金髪の兄さんが口を開く。
「なぁ、アンタ・・・ちなつ、言うたか?」
「はい。よろしくお願いします!」
「アンタ、ここの人間ちゃうなぁ」
「ふふ、そうですよ。私は関東の方の出身ですから」
「なんでここで働いとるんや?」
「私は旅行するのが大好きなんです。でもただ旅行するのは嫌なので、こうやって行く先々で様々なお店にお世話になっているんですよ!その地域の様々な人と仲良くなれるので、楽しいです!」
桐生や遥の前では通用しない嘘も、平気で吐けるのが仕事中の私。
有りもしない事をスラスラと吐いた私は、にっこりと偽りの笑顔を浮かべた。
グラスが空になったら、誰よりも早くグラスにお酒を注ぐ。
タバコを取り出せば、そのタバコに優しく火を着ける。
「はい、どうぞ」
「気がきくなぁ・・・アンタも飲めや」
「いいんですか?では、いただきますねっ」
良い意味で目立つこと。それがこの世界で長く話すコツだ。
他の男達には目も暮れず、ただただ金髪の兄さんと話し続ける。
相手の警戒心を解きながら、欲しい情報が聞けるよう話を誘導した。
聞きたいことはたくさんあるんだぜ、君たち。
今の関西の裏の事情とか、金髪の兄さんの正体とか、全部話してもらおうか?
「お兄さんは、貫禄がありますね・・・もしかして、親分さんとかですか?」
「なんや、嬢ちゃん。この仕事してて親父の事知らんのかいな」
「ご、ごめんなさい・・・教えてくださいませんか・・・?」
口を挟んできた下っ端に、内心イラッとしながら肩を寄せる。
上目遣いで首を傾げ、純粋に男の言葉を待った。
やっぱりお酒の場は最高だな。相手が簡単に口を開く。
「しょうがないなぁ・・・親父さんは、未来の近江連合のドン。関西の龍や・・・覚えときや!」
空気が、変わった。
お酒を飲んでいた男たちが動きを止め、何処か焦ったような様子を見せる。
私のせい?
・・・・いや、違うみたいだ。
男たちの視線は全て、私に金髪の兄さんを紹介してくれた男に注がれている。
きっと今の言葉に、言ってはいけない言葉があったんだろう。
「み、皆さん・・・?あ、こいつのせいでっか?」
「えっ・・・?あ、あの、すみません・・・」
「いや、ちゃうで。お前、親父さんの前で言うたらアカンこと、あるやろ・・・・?」
「え、や、あの・・・」
冷や汗をかきながら慌てる男に対し、金髪の男は冷静に私たちを席から外させた。
遠くから見てても、これから何が起きるのかは大体想像出来る。
いち早く席が見える場所に避難した私は、ゴクリと喉を鳴らしながらその様子を見守った。
「ぐあぁっ!」
「何言うたか、言ってみいやコラァ!!!」
さっきの男が、親分に頭を殴られて血を流す。
容赦ねぇな、あの親分も。ビンで頭を殴るなんて。
何がそんなに気に障ったんだ?
紹介の仕方?
でも、そんなに悪い紹介の仕方だったとは思えない。
と、すると。
「関西の龍」
「(関西の龍・・・?)」
聞き覚えのある声に、私の心の声が重なった。
誰の声かなんて、確認しなくても分かる。
グレーのスーツ、ワインレッドのシャツ。
今1番会いたくなかった人物が、そこには居た。
「(桐生ー!?)」
「なんやお前!?今何言うたか、わかっとんのか!?」
「もう一度聞きたがってたから、言ってやったんだろう」
「お前・・・!人の話、盗み聞きしくさりやがって!」
「あんなにデカイ声で騒がれりゃ、嫌でも聞こえてくる」
「んのぼけが・・・・!」
当たり前の如く始まる、大乱闘。
挑発としか思えない行動に煽られ、男たちは一斉に桐生へと突っ込んで行った。
あーあ、どうせ負けるのに。
もちろん、男たちの方が。
予想通り、ものの数分で大乱闘は終わりを告げる。
「ぐあっ・・・・!」
「・・・もう、終わりか?」
「ぐ・・・・!」
一回、二回、三回。
軽快な拍手が鳴り響き、私たちの視線を一人の男が集めた。
拍手したのは、関西の龍と呼ばれた金髪の男。
男は嬉しそうに笑いながら、桐生に向かって手を差し出す。
「お見事や」
低く渋みのある声。
お酒を楽しんでいた時とは違う、威圧感を纏った表情。
「すまんことしたわ。ウチの若い衆は血の気が多くてのう」
少し、桐生と似たような雰囲気を感じた。
今の桐生っていうよりは、昔の桐生に近い。
血の気が多いところを、除けば。
「・・・もう、お帰りですか?」
桐生は男を無視して、帰ろうとしていた。
や、やばい!このままじゃ見つかっちまう!
急いで柱の裏に飛び込み、とりあえず身を隠した。
足を止めた桐生は、男に対して冷たい視線を向ける。
「お前等というと、酒が不味くなる」
「・・・アンタは大した男や。気に入った!さっきのお詫びとして、奢らせてくださいや!」
「断る」
キャバレーに流れる雰囲気じゃねぇよ、これ。
ピリピリとした空気に、私は深いため息を吐く。
私はここで、二人の様子を見守ることしか出来ない。
「近江、郷龍会の奢りでっせ?」
近江、郷龍会?
その言葉に止まったのは、もちろん私だけじゃ無かった。
郷龍会という言葉よりも、気になるのは近江連合という言葉。
明日、私たちが向かう場所。盃を交わす相手。
その直径団体かもしれない組織の人間が、今ここに居る。
「よっしゃ!この店で1番高い酒持ってこいや!」
男の言葉に素早く反応した私は、急いで階段を駆け下りた。
慌ててお酒を準備していたスタッフを退かし、無理やりお酒を掴む。
これはチャンスだ。
だってそうだろ?今の私なら、怪しまれずに近づけるんだから。
「お待たせしました。お酒をお持ちしました」
「あぁ・・・さっきの嬢ちゃんやないかい」
「今すぐ、お注ぎしますね」
今の私はキャバ嬢と同じ。
いつも通りの慣れた手つきで、二人分のお酒を注いでいく。
そしてお酒を注ぎ終わった後、すぐに私はその場から離れた。
・・・いや、正確には離れるフリだが。
離れたフリをして近くの柱に回り込み、持っていた携帯の録音ボタンを押す。
「アンタ・・・関東の人間やな?」
「・・・あぁ」
「そやろなぁ・・・・。アンタ程の人が関西におったら、直ぐに噂が広まりますさかいに」
記録されていく、二人の会話。
あまり知らない人間とはいえ、久しぶりの大物に手が震える。
「お近づきの印に、お名前・・・教えてもらえまへんやろか?」
「・・・・」
「・・・あぁ、これは失礼。まずはワシが名乗らんと・・・」
ここからじゃ、二人の姿は見えない。
私はただ、この緊張感の中で声を聴くだけ。
そして聞こえてきた、聞き覚えのある名前。
驚きを隠せなかった私は、携帯を落としかけて思わずしゃがみ込んだ。
「ワシは近江連合郷龍会二代目の・・・郷田龍司、と申します」
郷田龍司。
郷田会長の息子であり、大吾をはめた張本人。
一気に緊張感が限界に達した私は、しばらくその場にしゃがみこんだまま話を聞くことにした。
交わされる会話、読み合いの緊張感。
(桐生一馬だ、と。馬鹿正直に名乗った桐生に眩暈がした)
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