いらっしゃいませ!
名前変更所
「おじいちゃん・・・」
「親っさん・・・」
おじいちゃん達のお墓に着いた私は、手を合わせ、心の中でおじいちゃんにたくさん語りかけた。
今までの事、これからの事。
そして、桐生や遥との事。
私の本職である、情報屋としての事。
「何もかも失ったって思ってたのに・・・幸せなんだぜ、私」
仕事は昔ほどとまではいかねぇが、順調に有名な情報屋としてやっている。
副職の薬関係も、中々の売り上げになってるしな。
おじいちゃんが見たら、また腕を上げたなって言ったはずだぜ。
もちろん危ない薬の方が多いけど、この前はちゃんと桐生の風邪を治してやったんだ。
でも、文句言われたよ。マズイって。
「おじいちゃん・・・私たちのこと、見守っててくれ」
これからも、この平和を奪わないでやってほしい。
私の事は良いからさ。桐生達に幸せを与えてやってくれ。
天国からなら、そういう事できるだろ?
「ふぅ・・・・」
ある程度おじいちゃんに手を合わせた私は、まだ目を瞑っている桐生の方を向いた。
桐生は私たちに聞こえるような声で、親っさんへの思いを呟く。
遥はそれを聞いて、嬉しそうに笑みを浮かべた。
私は恥ずかしさの方が上回ってしまい、それどころじゃなくなっていたが。
「俺一人だけが残ってしまいましたが・・・俺は遥を立派に育て上げ・・・あけを、女として幸せにするつもりです」
「おじさん・・・」
「ッ・・・へ、平気で、そういうこといいやがって・・・」
「本当の事だ。それとも、親っさんの前で嘘でも吐けと?」
「・・・っ!」
こうやって桐生は、平気で私が恥ずかしがるようなことを言う。
そして恥ずかしがってるところを見て、楽しんでやがるんだ。
いや、でも、嬉しくないわけじゃない。
私はニヤける顔をどうにか隠そうと、桐生に対して背を向けた。
墓地が広がる光景に、私はそっと目を細める。
「・・・・ん?誰だ、あいつ」
細めた目に飛び込んできた、墓地をゆっくりと歩く大型の男。
最初は気のせいだと思ったが、どうやら気のせいじゃないらしい。
―――――あいつ、少しずつこっちに近づいてきている。
そっちの世界の危ないやつじゃねぇだろうな?
でも何か、見覚えあるような気も・・・。
「あ、寺田・・・?」
歩いてきた男の正体は寺田だった。
1年前とはまた変わった貫禄を漂わせ、私たちの方に歩み寄ってくる。
「お久しぶりです、四代目」
「寺田か・・・一人で来るとは不用心だな」
「あけさんもお久しぶりです。お二人にだけは、お話ししておきたいことがありまして来ました」
「わ、悪い。急に構えっちまって」
「気にしないでください」
寺田だと分かった私は構えを解き、静かに寺田の話を聞くことにした。
東城会のトップが「護衛」無しで来たんだ。相当な話なんだろう。
私の予想は的中し、寺田の表情が瞬時に真剣なものへと変わった。
そんな真剣な表情されたら、私も真剣に聞かなきゃいけなくなるだろ。
真面目な話が嫌いな私は、渋々その場に座り込んだ。
「実は・・・近江の郷田会長と、盃を交わそうと思っているんです」
「盃・・・」
「ええ。近江連合との全面戦争を避けるには、最早それしか方法が・・・」
「・・・郷田会長とお前とでは格が違う。向こうがその話、飲むとは思えんがな」
近江連合と東城会の盃。
盃を交わすことが出来れば、戦争が起きる心配は無くなる。
でもまぁ確かに、近江連合は活発な極道代紋だ。
ぼろぼろな東城会と盃を交わすなんて・・・あり得るだろうか。
「(まぁ、郷田会長ってのがどんな人かにもよるけどな・・・)」
私が情報屋としての力が発揮できるのは、ここ神室町のみ。
残念ながら、近江連合やその内部のことは私にも分からない。
どっちにしろ、私や桐生が口を出す問題じゃないしな。
桐生は堅気。
私はただの情報屋。
どちらも極道には関係無い立場の人間。
「ですから、助言を頂きたく今日は来たんです。こんな時、お二人ならどうするかと・・・・」
「寺田」
「・・・」
「俺はもう、極道じゃねぇんだ。堅気である俺が口を出すことじゃねぇ」
「そうだな。・・・まぁ、情報屋の鷹として手伝える事があったらするよ」
寺田が不安になる気持ちも十分に分かる。
五代目という立場と責任が、全て寺田の身体に圧し掛かってるってわけだ。
それに、この話が失敗すれば、問答無用で戦争が始まる。
助けてやりてぇとは思うけど、私に出来ることは情報の提供ぐらい。
とりあえず、連絡先の書いてある名刺ぐらいは渡しておいても――――。
――――パァン。
「なっ・・・!?」
「寺田!!」
名刺を持った手が、空を切った。
目の前に立っていた寺田から大量の血が飛び散り、私の視界を染めていく。
銃声?墓地だっていうのに、こんな所で誰が。
右手から血を流す寺田を庇うように立った私は、その犯人をすぐに見つけることが出来た。
銃を持った男が二~三人、私の方を見てニタニタと笑っている。
「なんだお前等・・・」
「寺田はんの首、貰いに来たんや。大人しく渡したってや」
「・・・近江の奴らっぽいな。どうする、桐生」
「しょうがねぇ。寺田!お前は遥を連れて逃げてくれ!」
寺田の命は東城会の運命。
桐生が寺田を庇うのを見て、私も挑発的に拳を構えた。
「ですが・・・!」
「寺田。お前の身体には東城会の運命が掛かってるんだ」
「・・・わ、分かりました」
「あけ、お前も寺田と逃げ「よーし!いっちょやるか、桐生!」
「お前・・・」
桐生の言葉を遮り、やる気満々で前に出る。
言葉を遮られた桐生は不機嫌そうに私を睨み付け、私を後ろからコンッと小突いた。
絶対そう言うって思ってたんだよ。
だからわざと前に出たんだ。お前が一人で戦わないように。
いつだって一緒だと、約束した仲だから。
「一人だけかっこつけようとしてんじゃねぇぞ」
「・・・お前を心配した俺が馬鹿だったみてぇだな」
「そういうことだ。・・・ほら、さっさとアイツらに礼儀を教えてやろうぜ」
「あぁ・・・お前らに、極道の礼儀ってやつを教えてやるよ」
「なんやと・・・!?おい、やっちまえ!」
堅気でも変わらない、その強さは龍のように
(手も足も出せずに倒れていく敵を、私は懐かしむように見つめていた)
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