いらっしゃいませ!
名前変更所
お金と色の町、祇園。
今この町ではとある話が流行っており、その話は祇園の人々に別な楽しみを与えていた。
話題の中心人物は、祇園の龍。祇園一ともいわれる実力の持ち主。
そしてもう一人の人物は、祇園の鷹。祇園一の情報屋。
祇園の鷹は凄腕の忍者だ。
祇園の汚い金や悪者から情報と宝を盗み出す、それが仕事。
鷹から目を着けられた者は情報を売られ、誰一人としてその存在を捕まえることは出来ない。
凄腕、と言われるのも分かる強さを持つ――――“女”。
そんな彼女が噂の中心になった理由は、祇園の龍をターゲットにしたことだった。
知りうる人しか知らない、彼が“宮本武蔵”だという情報。
その情報を彼女が手に入れたことをきっかけに、そのころから祇園では、彼らの追いかけっこが見られるようになっていた。
情報屋という存在に情報を奪われた失態。
それをどうにかするために追いかける桐生と、慣れた作業のように逃げ回る鷹の女。
もちろん、その二人の姿は祇園中の話題になった。
「ほーらほら!今回はどっちにするかい?」
「そうだな・・・俺は龍屋の旦那にかけるぜ!」
「じゃあ俺は、鷹ちゃんに!」
祇園一の腕を持つ同士の戦いは、祇園の賭け事にされるほど話題を呼んだ。
といっても、所詮は娯楽的な話題。
こんな話題なんてすぐに終わる・・・そう思われていた。
だが、そんな話が広まってから3年目。
まだ祇園にはこの話題が残り続けていた。
賭け事も定着したまま、祇園の町を騒がせている。
話が消えない理由は簡単。
二人の決着が、正しい形で着いていないからだ。
鷹を本気で捕まえようとする桐生を、彼女は弄び逃げ続けた。
今もまだ、桐生が彼女を捕まえられたことはない。
更に今では話の他に、「噂」までもが広がり、祇園の町で知らない人はいないというほどまでの話になっていた。
噂というよりは“目撃情報”、というべきか。
「ねぇねぇ、聞いたかいあんた」
「あぁ、龍屋の旦那さんと、鷹の話やろ?」
「そうそう・・・やっぱりあの二人、付き合おうとるんやないかねぇ」
目撃情報は多数ある。
祇園の隅っこで二人が仲良さそうに話してた、とか。
出かけた桐生の手伝いを、鷹の女がしていた、とか。
最近では、傷だらけの桐生を、彼女が必死になって抱え込んできたという話まである。
もちろん噂だから、どこまでが本当の目撃情報なのかは分かっていない。
しかし、その手の話が好きな女性たちは少なからずいるわけで。
「敵対同士の禁断の愛・・・素敵やな~!」
「まるで物語のようやなぁ・・・」
まだ日の高い祇園の町で、女性たちが夢物語の話に花を咲かせていた。
そんな女性たちを、見下ろす小さな影が一つ。
ボサボサの黒髪に綺麗な瞳。二本の刀。
彼女こそが、鷹と呼ばれる情報屋の正体だ。
皆が想像しているよりも遙かに幼い姿を晒し、屋根の上でぐーっと腕を伸ばす。
「私があんな野蛮人と付き合ってるわけねぇだろ・・・ったく、夢見すぎだっての」
自分が中心となっている噂には目も暮れず、彼女は大きな欠伸を浮かべた。
かったるそうに刀を取り出し、太陽に照らしながら磨き始める。
いつもなら、こんな所で鷹がのんびりしていることはない。
何故ならアイツが、桐生が、すぐに襲ってくるからだ。
「・・・・」
ならどうして、今はこうしているのか。
それには今騒がれている、噂話が関係していた。
「桐生が血だらけで、鷹の女に担がれてきたらしい」
この噂は嘘ではなく、真実だった。
敵対同士とはいえ、3年の付き合い。
帰りが遅い桐生を心配して外に出たところ、血だらけになった桐生を見つけ、彼女が助けたというわけだ。
「・・・・ったく・・・どうして私が気にしないといけないんだ・・・・」
敵対同士という関係のせいで、桐生の様子を見に行くことは出来ない。
だからせめてここで見ていようと、彼女は龍屋の見える場所でのんびりと平和な日々を過ごしていた。
情報屋という恨まれ職業という立場上、狙われることはたくさんある。
だが、桐生みたく、あそこまで執念深く追ってくる人間は初めてだった。
毎日のように追いかけられ。それが当たり前になっていて。
そのせいか、この数日間に虚しさを感じてイライラする。
「あー・・・落ち着かねぇ・・・」
磨いた刀がギラリと光り、彼女のつまらなさそうな表情を映し出した。
そしてその後ろに一瞬だけ映った、見覚えのある顔。
「っ・・・!?」
ぼーっとしていたため、さすがの彼女でも気づくのが遅れたらしい。
彼女は一瞬の判断で身を翻すと、屋根の上から飛び退いた。
刀に映った正体は、そんな彼女を見て笑いながら追いかけてくる。
「おいおい、どうしたんだ?お前らしくねぇなぁ・・・遅れてるぜ、反応」
「き、桐生・・・!」
最近見れなかった、“龍屋の桐生”と“情報屋のあけ”の勝負。
町の人々は二人の姿に歓喜の声を上げ、また賭け事に花を咲かせた。
しかし、今回のあけにはそんな余裕が無い。
遅れを取ったのもあるが、何しろ時間が空きすぎている。
今までのんびりしていた分、あけには少し動きの鈍りが見られた。
「はぁっ・・・くそ、いきなり来やがって・・・!」
「あんな風に油断してるとは、お前もまだまだだな」
「黙れっての。お前こそ油断してると、痛い目みるぜ!」
普段は挑発に乗らず、ただただ逃げることだけを考えるあけ。
そんなあけが挑発に乗り、桐生の目の前で刀を構えた。
盛り上がる人々。
騒がしくなる祇園。
桐生はあけが挑発に乗るとは思わず、突然のことに足を止めた。
「お前・・・初めてだな、俺にそうやって剣を向けるのは」
「・・・っ」
あけが挑発に乗ったのは、ただ単にむかついたからでは無い。
完全に油断していたせいで、逃げる手段を持っていなかったからだ。
いつもあけは術を使って桐生から逃げている。
一般的に、忍術と呼ばれる類の術。
それは色々な道具や薬があってこそ出来る、トリックのあるモノ。
「(くそ、こんな時に限って・・・!)」
手持ちの袋を探っても、出てくるものは使えないものばかり。
あけは諦めて刀を振るうと、桐生を脅すために切っ先を突きつけた。
「女に負ける龍なんて、恥さらしになっちゃうかもしれねぇぜ?」
「そういうお前こそ、随分と余裕ねぇみたいじゃねぇか」
「そんなことねぇよ・・・」
あの時の傷は治っているのか?
体調も?本気でやっても大丈夫なのか?
あけの頭を数日前の出来事が過り、咄嗟の判断を鈍らせた。
血だらけで倒れていた桐生――――あの傷が残っていたら、本気で逃げたり戦うわけにはいかない。
「お前が刀を抜くなら、俺もそれなりの対応をさせてもらうぜ」
「ッ!!あぶねっ・・・!?」
油断していたあけの手から、1本の刀が弾き飛ばされる。
手首に手刀を食らったあけはそのまま飛び退き、どうにか体勢を立て直そうとした。
だが、桐生は手練れだ。
1番隙が出来たこの瞬間を、見逃すわけがない。
ぐらついたあけの懐に飛び込み、もう1本の刀も奪い去る。
「っく・・・!」
「どうした?いつもより動きが鈍いぜ」
「(これだけ動いてるってことは、傷はもう大丈夫なのか・・・?)」
「はぁッ!」
「うわ、とっ、う・・・!?」
自分が運んだことは、光悦に内緒にしてもらっているはずだ。
だからこそ、今のあけに桐生の状態を確認する方法はない。
桐生の攻撃を避け続けていく内に、あけは次第に追い込まれていった。
後ずされば後ろは壁。横も建物だらけで逃げ場も無く。
「しまった・・・!」
「フンッ・・・どうやら今日で終わりみてぇだな」
「そうはいくかよ!」
タダでやられるわけにはいかないと、あけは持ち前の身軽さを生かして桐生の手から逃げ始めた。
逃げる、追い込まれる。逃げる、追い込まれるを繰り返す。
そうやって追いかけっこを続けていた最中、急に桐生がぱったりと足を止めた。
「・・・・?」
全力で追いかけられていたのに、急に止まられたら怖くなる。
あけは警戒しながらも、そんな桐生の様子を見守った。
動こうとしない桐生。
表情も、見えない。
まさか!?と思って少し近づこうとした瞬間、桐生がお腹を押さえて蹲った。
「ぐ・・・っう・・・」
「お、おい・・・!?桐生!?」
苦しげに蹲る姿。予想できることは一つしかない。
傷が開いたと思ったあけは、急いで桐生に駆け寄り、桐生の身体を支えた。
「げほっ・・・!」
「おい桐生!やっぱりお前、傷が開いてっ・・・!」
ドン、と。
痛いぐらいに勢いよく、壁に押さえ付けられる。
何が起こったのか理解するまで、そう時間は掛からなかった。
してやったりな表情を浮かべる桐生に対し、あけが大声を上げて抵抗する。
「てめぇ!だ、だましたなっ!?」
「やっぱりお前だったか・・・俺を龍屋まで運んでくれた女ってのは」
「こ、光悦の野郎・・・・っ!」
「さすがに3年間の付き合いだ。お前の様子がおかしいことぐらい、俺だって分かる」
「ッ・・・!」
両手を壁に押さえつけられ、身体も密着状態。
完全に逃げる場所を失ったあけは、この状況に顔を逸らすことしか出来なかった。
この状況になって浮かぶ、あの噂話。
周りの野次馬が楽しそうに騒ぐのを聞きながら、あけは静かに口を開いた。
「お、おい、桐生・・・」
「・・・なんだ?」
「今日は大人しく捕まるから、ちょ、ちょっと離れろ・・・!」
「そんなこと言って逃げようったって、そうはいかねぇ」
「ち、違う・・・!」
桐生だって祇園の仕事屋だ。
広がっている噂話を、聞き逃しているはずがない。
“龍屋の旦那と、鷹は付き合っている”
そんな噂が立っている中でこんな光景を見られれば、もっと夢物語に拍車が掛かるだろう。
「あの噂がどんどん広がるだろ!い、良いから離せっ!」
「・・・・」
「おい桐生!聞いてんのか!あんな夢物語、広げられるだけ恥・・・・んっ!?」
あけの言葉は遮られ、桐生の口に飲み込まれた。
野次馬から黄色い歓声が上がり、この状況を悪化させていく。
塞がれた唇。
桐生に良いように絡め取られた舌。
よく分からないまま、襲い来る感覚に身体を震わせる。
「っは・・・ぁ・・・!」
「どうした?顔が真っ赤だな」
「ッ・・・て、てんめぇ、人の話聞いて・・・っ」
もう一度、唇が塞がれた。
そういう経験の無いあけにとって、その感覚は耐え難い物で。
耳元で囁かれる声。逃げられない感覚。
力が入らない身体で抵抗しても、逃げられるわけがない。
「夢物語が、なんだ・・・?」
「ッ・・・・」
「別に、現実にしてやってもいいんだぜ」
必死にもがいても逃げられない状況に、あけの表情が焦りに変わっていく。
男という存在に押さえ付けられる恐怖。
逃れられない力はあけを追い詰め、焦らせた。
「お、おまえ、何馬鹿なこと言ってんだよ・・・!」
「別に変なこと言ってねぇだろ?」
「言ってるだろ!十分!」
夢物語を現実に。
その意味が分からないほど、初心なわけじゃない。
「てめぇ、か、からかうのもいい加減に・・・・」
「からかってねぇ・・・って言ったら、どうする?」
「は・・・?」
「なぁ・・・俺の女になれよ、あけ」
桐生の表情が、今まで見たことのない真剣な表情に変わる。
今の状況に表情、言葉。
このままだと自分が自分じゃなくなってしまう気がして、あけは咄嗟に頭突きを繰り出した。
さすがに抵抗してこないだろうと思っていた桐生は、その頭突きをまともに食らう。
力が緩んだ隙を突き、あけは再び桐生の手から逃れた。
「んのやろう・・・!」
「きょ、今日はこの辺で勘弁してやるっ!じゃ、じゃあな!」
ふらふらしながら逃げていくあけの姿を、桐生が楽しそうに見つめていた。
獲物を狙うかのような、そんな楽しそうな目で、笑いながら。
広がった噂。龍に捕えられた一人の少女
(それから桐生の勝率が上がったのは、言うまでもない)
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