Erdbeere ~苺~ それはまるで夢物語 忍者ブログ
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2012年06月02日 (Sat)
桐生さん/甘々/見参軸のお話

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お金と色の町、祇園。
今この町ではとある話が流行っており、その話は祇園の人々に別な楽しみを与えていた。

話題の中心人物は、祇園の龍。祇園一ともいわれる実力の持ち主。

そしてもう一人の人物は、祇園の鷹。祇園一の情報屋。


祇園の鷹は凄腕の忍者だ。
祇園の汚い金や悪者から情報と宝を盗み出す、それが仕事。

鷹から目を着けられた者は情報を売られ、誰一人としてその存在を捕まえることは出来ない。

凄腕、と言われるのも分かる強さを持つ――――“女”。
そんな彼女が噂の中心になった理由は、祇園の龍をターゲットにしたことだった。


知りうる人しか知らない、彼が“宮本武蔵”だという情報。

その情報を彼女が手に入れたことをきっかけに、そのころから祇園では、彼らの追いかけっこが見られるようになっていた。

情報屋という存在に情報を奪われた失態。
それをどうにかするために追いかける桐生と、慣れた作業のように逃げ回る鷹の女。

もちろん、その二人の姿は祇園中の話題になった。


「ほーらほら!今回はどっちにするかい?」
「そうだな・・・俺は龍屋の旦那にかけるぜ!」
「じゃあ俺は、鷹ちゃんに!」


祇園一の腕を持つ同士の戦いは、祇園の賭け事にされるほど話題を呼んだ。
といっても、所詮は娯楽的な話題。

こんな話題なんてすぐに終わる・・・そう思われていた。


だが、そんな話が広まってから3年目。
まだ祇園にはこの話題が残り続けていた。

賭け事も定着したまま、祇園の町を騒がせている。


話が消えない理由は簡単。
二人の決着が、正しい形で着いていないからだ。

鷹を本気で捕まえようとする桐生を、彼女は弄び逃げ続けた。

今もまだ、桐生が彼女を捕まえられたことはない。

更に今では話の他に、「噂」までもが広がり、祇園の町で知らない人はいないというほどまでの話になっていた。
噂というよりは“目撃情報”、というべきか。


「ねぇねぇ、聞いたかいあんた」
「あぁ、龍屋の旦那さんと、鷹の話やろ?」
「そうそう・・・やっぱりあの二人、付き合おうとるんやないかねぇ」


目撃情報は多数ある。

祇園の隅っこで二人が仲良さそうに話してた、とか。
出かけた桐生の手伝いを、鷹の女がしていた、とか。

最近では、傷だらけの桐生を、彼女が必死になって抱え込んできたという話まである。

もちろん噂だから、どこまでが本当の目撃情報なのかは分かっていない。
しかし、その手の話が好きな女性たちは少なからずいるわけで。


「敵対同士の禁断の愛・・・素敵やな~!」
「まるで物語のようやなぁ・・・」


まだ日の高い祇園の町で、女性たちが夢物語の話に花を咲かせていた。
そんな女性たちを、見下ろす小さな影が一つ。

ボサボサの黒髪に綺麗な瞳。二本の刀。
彼女こそが、鷹と呼ばれる情報屋の正体だ。

皆が想像しているよりも遙かに幼い姿を晒し、屋根の上でぐーっと腕を伸ばす。


「私があんな野蛮人と付き合ってるわけねぇだろ・・・ったく、夢見すぎだっての」


自分が中心となっている噂には目も暮れず、彼女は大きな欠伸を浮かべた。
かったるそうに刀を取り出し、太陽に照らしながら磨き始める。

いつもなら、こんな所で鷹がのんびりしていることはない。
何故ならアイツが、桐生が、すぐに襲ってくるからだ。


「・・・・」


ならどうして、今はこうしているのか。
それには今騒がれている、噂話が関係していた。


「桐生が血だらけで、鷹の女に担がれてきたらしい」


この噂は嘘ではなく、真実だった。
敵対同士とはいえ、3年の付き合い。

帰りが遅い桐生を心配して外に出たところ、血だらけになった桐生を見つけ、彼女が助けたというわけだ。


「・・・・ったく・・・どうして私が気にしないといけないんだ・・・・」


敵対同士という関係のせいで、桐生の様子を見に行くことは出来ない。
だからせめてここで見ていようと、彼女は龍屋の見える場所でのんびりと平和な日々を過ごしていた。

情報屋という恨まれ職業という立場上、狙われることはたくさんある。

だが、桐生みたく、あそこまで執念深く追ってくる人間は初めてだった。

毎日のように追いかけられ。それが当たり前になっていて。
そのせいか、この数日間に虚しさを感じてイライラする。


「あー・・・落ち着かねぇ・・・」


磨いた刀がギラリと光り、彼女のつまらなさそうな表情を映し出した。
そしてその後ろに一瞬だけ映った、見覚えのある顔。


「っ・・・!?」


ぼーっとしていたため、さすがの彼女でも気づくのが遅れたらしい。
彼女は一瞬の判断で身を翻すと、屋根の上から飛び退いた。

刀に映った正体は、そんな彼女を見て笑いながら追いかけてくる。


「おいおい、どうしたんだ?お前らしくねぇなぁ・・・遅れてるぜ、反応」
「き、桐生・・・!」


最近見れなかった、“龍屋の桐生”と“情報屋のあけ”の勝負。
町の人々は二人の姿に歓喜の声を上げ、また賭け事に花を咲かせた。

しかし、今回のあけにはそんな余裕が無い。

遅れを取ったのもあるが、何しろ時間が空きすぎている。
今までのんびりしていた分、あけには少し動きの鈍りが見られた。


「はぁっ・・・くそ、いきなり来やがって・・・!」
「あんな風に油断してるとは、お前もまだまだだな」
「黙れっての。お前こそ油断してると、痛い目みるぜ!」


普段は挑発に乗らず、ただただ逃げることだけを考えるあけ
そんなあけが挑発に乗り、桐生の目の前で刀を構えた。

盛り上がる人々。
騒がしくなる祇園。
桐生はあけが挑発に乗るとは思わず、突然のことに足を止めた。


「お前・・・初めてだな、俺にそうやって剣を向けるのは」
「・・・っ」


あけが挑発に乗ったのは、ただ単にむかついたからでは無い。
完全に油断していたせいで、逃げる手段を持っていなかったからだ。

いつもあけは術を使って桐生から逃げている。
一般的に、忍術と呼ばれる類の術。

それは色々な道具や薬があってこそ出来る、トリックのあるモノ。


「(くそ、こんな時に限って・・・!)」


手持ちの袋を探っても、出てくるものは使えないものばかり。
あけは諦めて刀を振るうと、桐生を脅すために切っ先を突きつけた。


「女に負ける龍なんて、恥さらしになっちゃうかもしれねぇぜ?」
「そういうお前こそ、随分と余裕ねぇみたいじゃねぇか」
「そんなことねぇよ・・・」


あの時の傷は治っているのか?
体調も?本気でやっても大丈夫なのか?

あけの頭を数日前の出来事が過り、咄嗟の判断を鈍らせた。

血だらけで倒れていた桐生――――あの傷が残っていたら、本気で逃げたり戦うわけにはいかない。


「お前が刀を抜くなら、俺もそれなりの対応をさせてもらうぜ」
「ッ!!あぶねっ・・・!?」


油断していたあけの手から、1本の刀が弾き飛ばされる。
手首に手刀を食らったあけはそのまま飛び退き、どうにか体勢を立て直そうとした。

だが、桐生は手練れだ。
1番隙が出来たこの瞬間を、見逃すわけがない。
ぐらついたあけの懐に飛び込み、もう1本の刀も奪い去る。


「っく・・・!」
「どうした?いつもより動きが鈍いぜ」
「(これだけ動いてるってことは、傷はもう大丈夫なのか・・・?)」
「はぁッ!」
「うわ、とっ、う・・・!?」


自分が運んだことは、光悦に内緒にしてもらっているはずだ。
だからこそ、今のあけに桐生の状態を確認する方法はない。

桐生の攻撃を避け続けていく内に、あけは次第に追い込まれていった。
後ずされば後ろは壁。横も建物だらけで逃げ場も無く。


「しまった・・・!」
「フンッ・・・どうやら今日で終わりみてぇだな」
「そうはいくかよ!」


タダでやられるわけにはいかないと、あけは持ち前の身軽さを生かして桐生の手から逃げ始めた。

逃げる、追い込まれる。逃げる、追い込まれるを繰り返す。
そうやって追いかけっこを続けていた最中、急に桐生がぱったりと足を止めた。


「・・・・?」


全力で追いかけられていたのに、急に止まられたら怖くなる。
あけは警戒しながらも、そんな桐生の様子を見守った。

動こうとしない桐生。
表情も、見えない。
まさか!?と思って少し近づこうとした瞬間、桐生がお腹を押さえて蹲った。


「ぐ・・・っう・・・」
「お、おい・・・!?桐生!?」


苦しげに蹲る姿。予想できることは一つしかない。
傷が開いたと思ったあけは、急いで桐生に駆け寄り、桐生の身体を支えた。


「げほっ・・・!」
「おい桐生!やっぱりお前、傷が開いてっ・・・!」


ドン、と。

痛いぐらいに勢いよく、壁に押さえ付けられる。

何が起こったのか理解するまで、そう時間は掛からなかった。
してやったりな表情を浮かべる桐生に対し、あけが大声を上げて抵抗する。


「てめぇ!だ、だましたなっ!?」
「やっぱりお前だったか・・・俺を龍屋まで運んでくれた女ってのは」
「こ、光悦の野郎・・・・っ!」
「さすがに3年間の付き合いだ。お前の様子がおかしいことぐらい、俺だって分かる」
「ッ・・・!」


両手を壁に押さえつけられ、身体も密着状態。
完全に逃げる場所を失ったあけは、この状況に顔を逸らすことしか出来なかった。

この状況になって浮かぶ、あの噂話。
周りの野次馬が楽しそうに騒ぐのを聞きながら、あけは静かに口を開いた。


「お、おい、桐生・・・」
「・・・なんだ?」
「今日は大人しく捕まるから、ちょ、ちょっと離れろ・・・!」
「そんなこと言って逃げようったって、そうはいかねぇ」
「ち、違う・・・!」


桐生だって祇園の仕事屋だ。
広がっている噂話を、聞き逃しているはずがない。

“龍屋の旦那と、鷹は付き合っている”

そんな噂が立っている中でこんな光景を見られれば、もっと夢物語に拍車が掛かるだろう。


「あの噂がどんどん広がるだろ!い、良いから離せっ!」
「・・・・」
「おい桐生!聞いてんのか!あんな夢物語、広げられるだけ恥・・・・んっ!?」


あけの言葉は遮られ、桐生の口に飲み込まれた。
野次馬から黄色い歓声が上がり、この状況を悪化させていく。

塞がれた唇。
桐生に良いように絡め取られた舌。
よく分からないまま、襲い来る感覚に身体を震わせる。


「っは・・・ぁ・・・!」
「どうした?顔が真っ赤だな」
「ッ・・・て、てんめぇ、人の話聞いて・・・っ」


もう一度、唇が塞がれた。
そういう経験の無いあけにとって、その感覚は耐え難い物で。

耳元で囁かれる声。逃げられない感覚。
力が入らない身体で抵抗しても、逃げられるわけがない。


「夢物語が、なんだ・・・?」
「ッ・・・・」
「別に、現実にしてやってもいいんだぜ」


必死にもがいても逃げられない状況に、あけの表情が焦りに変わっていく。

男という存在に押さえ付けられる恐怖。
逃れられない力はあけを追い詰め、焦らせた。


「お、おまえ、何馬鹿なこと言ってんだよ・・・!」
「別に変なこと言ってねぇだろ?」
「言ってるだろ!十分!」


夢物語を現実に。
その意味が分からないほど、初心なわけじゃない。


「てめぇ、か、からかうのもいい加減に・・・・」
「からかってねぇ・・・って言ったら、どうする?」
「は・・・?」
「なぁ・・・俺の女になれよ、あけ


桐生の表情が、今まで見たことのない真剣な表情に変わる。

今の状況に表情、言葉。
このままだと自分が自分じゃなくなってしまう気がして、あけは咄嗟に頭突きを繰り出した。

さすがに抵抗してこないだろうと思っていた桐生は、その頭突きをまともに食らう。
力が緩んだ隙を突き、あけは再び桐生の手から逃れた。


「んのやろう・・・!」
「きょ、今日はこの辺で勘弁してやるっ!じゃ、じゃあな!」


ふらふらしながら逃げていくあけの姿を、桐生が楽しそうに見つめていた。
獲物を狙うかのような、そんな楽しそうな目で、笑いながら。

































広がった噂。龍に捕えられた一人の少女
(それから桐生の勝率が上がったのは、言うまでもない)
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