Erdbeere ~苺~ 9話 古傷 忍者ブログ
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2012年06月03日 (Sun)
9話/ヒロイン視点

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あれから1年、か。

私は家に飾ってあったカレンダーを捲り、丸印が付いている日にちを指でなぞった。


今日は、風間のおじいちゃん達の墓に、お墓参りをしに行く日だ。
あの事件を鮮明に思い出させる、辛い1日になるだろう。

でも、行かなくちゃいけない。

辛さを忘れても、あの“事件”自体から逃げるわけにはいかないから。


たくさんの大事な人が死に、そして違うものを得るきっかけになったあの事件。
私は桐生や遥に少しでも辛さを忘れてもらうため、この1年間努力してきた。

でも、この日だけは避けられない。
大事な人を、想う日だけは。
私は準備しておいた花束を水から引き上げると、出かける準備をしていた遥に手渡した。


「遥、これも頼む」
「うん、分かった。・・・あれ、お姉ちゃん、おじさんは?」
「あー・・・まだ寝てるかもな。起こしてくるよ」


大事な日だってのに呑気に寝やがって。
私は飽きれながら部屋に戻り、桐生が寝ているベッドに近づいた。


「おーい、桐生。起きろー」
「う・・・・うう・・・・」
「・・・桐生?」


何か言っている?魘されているのか?
良く見ると、桐生の額に汗がびっしょりと浮かんでいる。

呑気に寝てるだけだったら、飛び蹴りでもしてやろうと思ったのに。
こんなんじゃ、叩き起こすわけにもいかない。


「桐生・・・」
「・・・・に・・・しき・・・」
「・・・・」


どうやら桐生は、あの事件の事で魘されているようだ。
小さく聞こえる呻き声の中に、聞いたことのある名前がいくつか入っていた。

苦しそうに響く声。流れ出る汗。

私にはどうしてやることも出来ず、ただただ桐生の身体を抱きしめた。
人の夢にまで干渉して、救ってやることはさすがに出来ねぇ。


「桐生・・・」


優しく名前を呼んで、起きるのを待つ。
滲み出る汗を袖で拭いてやれば、少し表情が柔らかくなった気がした。

とりあえず、起こしてやった方が良いだろう。
私は静かに耳元に近づき、桐生の名前を優しく呼んだ。

出来るだけ悪夢から解放されるよう、柔らかい声で。


「桐生・・・起きろ、桐生・・・」
「う・・・」
「・・・桐生、ほら、起きろ」
「・・・あけ・・・」
「ん?どうし・・・うおっ!?」


やっと起きたかと思うと、桐生にがっしりと腕を掴まれた。
いきなり何するんだ!と怒ろうとした口は、すぐに唇で塞がれる。

こ、こいつ、朝から調子に乗りすぎだろ!
何とか抜け出して逃げようにも、後頭部を押さえ付けられてて逃げられない。
朝から濃厚な口付けを味わうことになった私は、解放されてすぐ声を上げた。


「て、てめぇ・・・。人が心配してやったのに、いきなり何しやがる!」
「お前がそんな顔で・・・覗き込んできてるのが悪いんだろ」
「私のせいかよ・・・!」
「あぁ、お前のせいだ」


すっぱりと言い切られ、怒る気も失せる。
どうせこいつに口で挑んだって、私に勝ち目は無いんだ。

もちろん、力では尚更の事。
これ以上変なことをされる前に、今日の予定を伝える。


「おーい、桐生。今日は墓参り行く日だぜ?覚えてるか?」
「・・・ん?あぁ。そういえばそうだったな」
「そうだったな、じゃねぇよ。もう遥も私も準備終わったぜ?ちゃっちゃと着替えろ」
「分かった」


桐生が部屋を出ていくのを見ながら、私は再び出かける準備に戻った。
お墓参りだからな。おじいちゃんの好きな物、お供えしてやらないと。

昔好きだった煙草の銘柄とか、あと良く食べてたお菓子とか。
おじいちゃんがお菓子好きになったのは、私のせいだったりする。
小さいころに良く強請って、一緒に食べてたから。


「よし・・・っと。こんなもんか」


ありったけのお供え物を詰め、鍵を手に取る。
どうやら遥も準備が終わったらしい。


「お姉ちゃん、おじさんは?」
「まだ準備中。ったく、のんびり寝てやがるから・・・・」


魘されてたし、そこまで責める気はねぇけどさ。
飽きれた表情で遥に笑いかけると、遥も似たような表情を浮かべて笑った。


あぁ、早く色々とおじいちゃんに報告したい。


桐生と仲良くやってます、なんて言ったら・・・なんて言うかな、おじいちゃん。
お供え物や花束だけじゃなくて、おじいちゃんに伝えたいことは山ほどある。

これからのこと、今までの事、全部報告しなきゃいけねぇ。


「おーい、桐生っ!早くしろー!」
「おじさん早くー!」
「早くしねぇと置いてくぞハゲ」
「・・・後で覚えてろよ、あけ
「さ、さーってと。先出ててようか、遥」
「うん!」


私は遥を連れ、桐生より先に家を出た。
さっきまで晴れていた空は、どことなく雲に覆われ始めている。

とりあえず、折り畳み傘ぐらいは持っていくとするか。

雨にならないことを祈りながら、私は桐生が来るのを扉の前で待っていた。























おじいちゃん、久しぶり会いに行くぜ
(私の願いが通じたのか、空は曇り空のままだった)
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