いらっしゃいませ!
名前変更所
桐生との関係が変わってから、数週間後。
今ではすっかり3人暮らし状態となり、私は桐生の家から仕事に行くようになっていた。
「よしよし・・・。今日も美味しい情報がいっぱいだ」
何故こうなったか。理由は二つある。
一つ目は遥だ。
遥が私と桐生の関係にばっちり気づき、一緒に暮らそうと言ってくれたから。
二つ目は単純に、遥の負担を減らしてやりたいと思ったから。
女だからと言っても、まだまだ小さな女の子。
負担を減らして遊ばせてあげたいと思い、私も家事の一部を引き受けた。
「ただいまー」
「あ、お帰りお姉ちゃん!」
帰る場所は殺風景なアジト。あるのは薬や物騒な物だけ。
そんな今までの生活とはガラッと変わり、今では遥が元気に出迎えてくれる。
幸せっていえば幸せだけど、何だかくすぐったいっていうのも本音だ。
帰ったら出迎えてくれる人なんて、今まで居なかったわけだし。
とりあえず、買ってきた物を冷蔵庫に入れとくか。
「なにこれお姉ちゃん?」
「んー、遥に頼まれてた材料と・・・ほら、これ。今日皆で食べようぜ」
「わぁ・・・!美味しそう!ケーキだ!」
お土産として買ってきた、ケーキの数々。
遥が嬉しそうに笑うのを見て、私も自然と笑顔になる。
ほんと、幸せだな。
思い描く未来には無かった結末とはいえ、今ではすっかり家族気分だ。
「なんだ、帰ってたのか」
「おう、ただいま。いないと思ったら風呂だったのかよ」
「あぁ」
お風呂から上がってきた桐生が、身体を拭きながらベッドに座る。
それを見た遥は台所に歩いて行き、夕食の準備を始めた。
部屋中に立ち込める、食欲をそそる良い匂い。
この匂いはたぶん、シチューだ。
遥は本当に手際が良い。何だってすぐに覚えてこなしてしまう。
「うまそうな匂い・・・」
「えへへ・・・頑張って作ったんだよ!もうちょっと待っててね!」
「おう・・・ってうわ!何すんだよ桐生!」
遥と大声で話をしていると、急に後ろから襟元を引っ張られた。
首が締まって苦しくなってしまう前に、桐生の方に身体を倒す。
相変わらず、馬鹿力すぎるだろこいつ。
無言でタオルを手渡され、意味を感じ取った私はため息を吐いた。
「ういしょっと・・・ん、これでいいか?」
「あぁ。ありがとう」
手渡されたタオルで、優しく桐生の髪の毛を拭いてやる。
初めてこれを要求された時には驚いたが、今ではお風呂上がりの恒例行事的なものだ。
ぺたんとしている桐生の髪を、遊びながら乾かしていく。
髪の毛を撫でてみたり、ぐしゃぐしゃにしてみたり。結構楽しい。
しばらく髪の毛で遊んでいると、遊んでいるのがバレたらしく、ガシッと腕を掴まれた。
「いだだだだだ!ちょ、たんま!折れる、折れるって!」
「お前、何勝手に人の頭で遊んでやがる」
「だってこれ面白い・・・ぷっ・・・あはははは!」
「てめぇ・・・・」
乾かす前に遊んでいたせいで、桐生の髪の毛がぐっしゃぐしゃになっている。
そのせいでいつもみたいな威圧感が全く感じられず、私はそれを見て大爆笑した。
やばい、笑っちゃいけないって分かってるのに笑ってしまう。
だってもじゃもじゃ頭・・・だ、だめだ。見たら絶対止まらない。
身の危険を感じた私はその場から逃げようとするが、あっさりと捕まって抱きしめられた。
「くくくくくっ・・・。わ、悪かったって!ちゃんと元に戻すから!」
「まったく・・・お前は悪戯が過ぎるぜ」
「・・・・っ!お、おいてめ・・・、遥が居るのに・・・っ」
遥が台所で料理をしていることを良いことに、桐生が私の耳を舐めてくる。
抵抗すれば「お仕置きだ」と囁かれ、ピクリと身体が反応した。
でも、声を出すわけにはいかない。
それを分かっていて耳を責めてくる桐生が、とてつもなく性悪に感じる。
「んっ、ふぁ・・・!き、桐生、悪かったって・・・!」
「ふっ・・・情報屋の鷹も、型崩れだな」
「ッ!そ、そういうこと言うなっつってんだろ!」
遥がこっちに来る足音が聞こえ、私は咄嗟に桐生を突き飛ばした。
真っ赤になった顔をなんとか冷やし、部屋に戻ってきた遥から顔を隠す。
部屋に入ってきた遥は不思議そうにしながら、私たちにお皿を運んできた。
「?どうしたの、お姉ちゃん?またおじさんにいじめられた?」
「う、ち、違う・・・。お、や、やっぱりシチューか!うまそー!」
「遥は本当に料理が上手いな。美味しそうだ」
「ありがとう、おじさん。お姉ちゃんもいっぱい食べてね!」
「さんきゅー。じゃあ飲み物は私が準備してくるよ」
平和な日々。温かい会話。
そして桐生との刺激的な雰囲気。
この状態にすっかり慣れてきた私は、平和な日々が続くことに幸せを感じていた。
これ以上の幸せを望むことも・・・しない。
いつか桐生の心の傷が癒えてくれる日が来れば。
これから何事もなく、ずっとこの日々が続いてくれれば。
「んー、うめぇ!遥は将来、いい嫁さんになるぜ」
「ほんと?ありがとうお姉ちゃん!」
「可愛いしなぁ・・・そうだ、今度一緒に洋服でも買いにいくか?」
「え・・・いいの?」
「遠慮するなって。なぁ、桐生。お前も行くよな?」
「あぁ。ちょうど良いな。あけも服を遥に選んでもらったらどうだ?」
「え、わ、私?私は別に・・・・」
「やったぁ!お姉ちゃんの洋服、選びたいと思ってたんだ~」
「お、おいこら、話を勝手に進めるなって・・・・!」
二人にからかわれっぱなしの日常でも。
――――それだけで私は、満足なんだ。
あの事件が、いつか本当に“思い出”と言えるほどに
(それぐらい遠く長い平和を、桐生と遥に与えてやってくれ)
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