Erdbeere ~苺~ 8話 平和な日常 忍者ブログ
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2012年06月02日 (Sat)
8話/ヒロイン視点

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桐生との関係が変わってから、数週間後。
今ではすっかり3人暮らし状態となり、私は桐生の家から仕事に行くようになっていた。


「よしよし・・・。今日も美味しい情報がいっぱいだ」


何故こうなったか。理由は二つある。

一つ目は遥だ。
遥が私と桐生の関係にばっちり気づき、一緒に暮らそうと言ってくれたから。

二つ目は単純に、遥の負担を減らしてやりたいと思ったから。

女だからと言っても、まだまだ小さな女の子。
負担を減らして遊ばせてあげたいと思い、私も家事の一部を引き受けた。


「ただいまー」
「あ、お帰りお姉ちゃん!」


帰る場所は殺風景なアジト。あるのは薬や物騒な物だけ。
そんな今までの生活とはガラッと変わり、今では遥が元気に出迎えてくれる。

幸せっていえば幸せだけど、何だかくすぐったいっていうのも本音だ。

帰ったら出迎えてくれる人なんて、今まで居なかったわけだし。
とりあえず、買ってきた物を冷蔵庫に入れとくか。


「なにこれお姉ちゃん?」
「んー、遥に頼まれてた材料と・・・ほら、これ。今日皆で食べようぜ」
「わぁ・・・!美味しそう!ケーキだ!」


お土産として買ってきた、ケーキの数々。
遥が嬉しそうに笑うのを見て、私も自然と笑顔になる。

ほんと、幸せだな。
思い描く未来には無かった結末とはいえ、今ではすっかり家族気分だ。


「なんだ、帰ってたのか」
「おう、ただいま。いないと思ったら風呂だったのかよ」
「あぁ」


お風呂から上がってきた桐生が、身体を拭きながらベッドに座る。
それを見た遥は台所に歩いて行き、夕食の準備を始めた。

部屋中に立ち込める、食欲をそそる良い匂い。
この匂いはたぶん、シチューだ。

遥は本当に手際が良い。何だってすぐに覚えてこなしてしまう。


「うまそうな匂い・・・」
「えへへ・・・頑張って作ったんだよ!もうちょっと待っててね!」
「おう・・・ってうわ!何すんだよ桐生!」


遥と大声で話をしていると、急に後ろから襟元を引っ張られた。
首が締まって苦しくなってしまう前に、桐生の方に身体を倒す。

相変わらず、馬鹿力すぎるだろこいつ。
無言でタオルを手渡され、意味を感じ取った私はため息を吐いた。


「ういしょっと・・・ん、これでいいか?」
「あぁ。ありがとう」


手渡されたタオルで、優しく桐生の髪の毛を拭いてやる。
初めてこれを要求された時には驚いたが、今ではお風呂上がりの恒例行事的なものだ。

ぺたんとしている桐生の髪を、遊びながら乾かしていく。
髪の毛を撫でてみたり、ぐしゃぐしゃにしてみたり。結構楽しい。
しばらく髪の毛で遊んでいると、遊んでいるのがバレたらしく、ガシッと腕を掴まれた。


「いだだだだだ!ちょ、たんま!折れる、折れるって!」
「お前、何勝手に人の頭で遊んでやがる」
「だってこれ面白い・・・ぷっ・・・あはははは!」
「てめぇ・・・・」


乾かす前に遊んでいたせいで、桐生の髪の毛がぐっしゃぐしゃになっている。
そのせいでいつもみたいな威圧感が全く感じられず、私はそれを見て大爆笑した。

やばい、笑っちゃいけないって分かってるのに笑ってしまう。
だってもじゃもじゃ頭・・・だ、だめだ。見たら絶対止まらない。

身の危険を感じた私はその場から逃げようとするが、あっさりと捕まって抱きしめられた。


「くくくくくっ・・・。わ、悪かったって!ちゃんと元に戻すから!」
「まったく・・・お前は悪戯が過ぎるぜ」
「・・・・っ!お、おいてめ・・・、遥が居るのに・・・っ」


遥が台所で料理をしていることを良いことに、桐生が私の耳を舐めてくる。
抵抗すれば「お仕置きだ」と囁かれ、ピクリと身体が反応した。

でも、声を出すわけにはいかない。
それを分かっていて耳を責めてくる桐生が、とてつもなく性悪に感じる。


「んっ、ふぁ・・・!き、桐生、悪かったって・・・!」
「ふっ・・・情報屋の鷹も、型崩れだな」
「ッ!そ、そういうこと言うなっつってんだろ!」


遥がこっちに来る足音が聞こえ、私は咄嗟に桐生を突き飛ばした。
真っ赤になった顔をなんとか冷やし、部屋に戻ってきた遥から顔を隠す。

部屋に入ってきた遥は不思議そうにしながら、私たちにお皿を運んできた。


「?どうしたの、お姉ちゃん?またおじさんにいじめられた?」
「う、ち、違う・・・。お、や、やっぱりシチューか!うまそー!」
「遥は本当に料理が上手いな。美味しそうだ」
「ありがとう、おじさん。お姉ちゃんもいっぱい食べてね!」
「さんきゅー。じゃあ飲み物は私が準備してくるよ」


平和な日々。温かい会話。
そして桐生との刺激的な雰囲気。

この状態にすっかり慣れてきた私は、平和な日々が続くことに幸せを感じていた。

これ以上の幸せを望むことも・・・しない。

いつか桐生の心の傷が癒えてくれる日が来れば。
これから何事もなく、ずっとこの日々が続いてくれれば。


「んー、うめぇ!遥は将来、いい嫁さんになるぜ」
「ほんと?ありがとうお姉ちゃん!」
「可愛いしなぁ・・・そうだ、今度一緒に洋服でも買いにいくか?」
「え・・・いいの?」
「遠慮するなって。なぁ、桐生。お前も行くよな?」
「あぁ。ちょうど良いな。あけも服を遥に選んでもらったらどうだ?」
「え、わ、私?私は別に・・・・」
「やったぁ!お姉ちゃんの洋服、選びたいと思ってたんだ~」
「お、おいこら、話を勝手に進めるなって・・・・!」


二人にからかわれっぱなしの日常でも。
――――それだけで私は、満足なんだ。























あの事件が、いつか本当に“思い出”と言えるほどに
(それぐらい遠く長い平和を、桐生と遥に与えてやってくれ)
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