いらっしゃいませ!
名前変更所
バカみたいな話だ。
この世には吸血鬼が居て、それに噛まれた人間も吸血鬼になるなんて。
そんな話、信じられると思うか?
空想、いや・・・そんなのがあるのは本やゲームの世界だけだ。
だが目の前に広がる光景は、それを信じろとばかりに私にありえないものを見せつけている。
「ご、ごめんなさい。本当にそんなつもりじゃなくて・・・っ」
必死に謝る少年。
名前も知らない小さな少年は、これでも何百年と生きた“吸血鬼”なのだという。
普段は人間が居るところに近づいたりはしない。
その行為自身、彼らの中でもタブーな行為。
でもこの少年は、どうしても薔薇の花を両親にあげたかったらしく、お花を買うためにこの街にやってきて、そして―――。
「んで、血に飢えて倒れてたところを助けてくれた桐生を、なんっっも許可なしに噛んだと?」
「・・・・・ご、ごめんなさい」
「・・・桐生はどうなるんだ。吸血鬼のままってわけにはいかねぇだろ?あ?」
「も、もちろんです!僕の魔力で彼に流した吸血鬼の力を全部取り除きました!ですが・・・・」
「ですが?」
混乱と、苛立ちと。
怖がらせるつもりはないのだが、自然と怖がらせるような言葉を紡いでしまう。
しょうがねぇだろ。
倒れた桐生も起きねぇし、この男もオドオドしててめんどくせぇし。
「・・・・」
「ですがの後は何だ?」
「その・・・今日1日は、吸血鬼としての力を持ったままになるとおもうので、その・・・吸血衝動が起きる可能性があります」
「ふぅん。で?それでもし、噛まれたら?」
「その場合は大丈夫です!根本的な種族の力はもう彼から取り除いてあるので!」
「なるほど・・・ね」
やっぱり、信じたくない。
だけど目の前に居る少年はさっき、桐生についていた噛み痕を一瞬で消した。
その“能力”っていうのが実在する証拠だ。
話だけなら信じられないの一言で済んだのに、まったく。
とりあえず私は桐生をベッドに寝かせ、それから花瓶に挿してあった花に気付き、少年を呼んだ。
「おーい、お前」
「は、はい?」
「もう帰るのか?」
「・・・はい。このままだと、僕怒られちゃうから」
「そっか。んじゃこれ、やるよ」
普段は薬の材料や、観賞用として挿してある花。
それがたまたま薔薇の花だったことに気付いた私は、それを新聞紙に包み、少年に投げ渡した。
途端に少年の表情がパァッと明るくなる。
こうやって見てると普通の少年なのに、これが何百年と生きた吸血鬼だっていうから笑えない。
未だに信じられないといった表情で観察している私に気付いてか否か、少年は照れ臭そうに笑って、それから無言で姿を消した。
そう、文字通り。
ありがとうと、小さい声を残して。
「消え、た」
今までそこに居たはずの少年が、いない。
これは夢なのか?と頬を抓ってみても、夢から覚める気配はなかった。
諦めて目を瞑り、勢いよく頬を叩く。
ずっと疑っててもしょうがない。起きたことは起きたことなんだ。
とりあえず桐生の目が覚めるまで面倒見て、それから考えよう。
「っと・・・桐生?大丈夫か?」
ベッドの方に近づくと、顔色の悪い桐生が苦しそうに寝そべっていた。
どうやら目を覚ましたようだが、特にいつもと変わった様子は見られない。
吸血鬼になったってのは、やっぱり嘘か?
そう思っていた時、ふと桐生の口元が目に入った。
普通の人間にはないであろう、鋭くとがった牙のような歯。
というか桐生は、自分の身に何が起こったのかすら知らねぇんだろうな。
「桐生、気分はどうだ」
「・・・妙に、だるいな・・・」
「そりゃそうだろうな。お前は今―――」
言葉は途中で途切れた。
桐生が突然私を押し倒し、首筋に顔を埋めたからだ。
突然のことに私も―――そして押し倒した桐生自身も驚いている。
なるほど。これが少年の言ってた吸血衝動か?
桐生は自分自身が吸血鬼となっていることを知らないのだから、驚いてもしょうがない。
「・・・おかしい。なんだ、この・・・」
「落ち着いて聴いてくれ、桐生。お前、なんか男の子に噛まれただろ?」
「男・・・?あ、あぁ。そういえば・・・・」
「そいつ、吸血鬼なんだと。んで、噛まれたお前も吸血鬼になったってわけだ」
「は?」
頭大丈夫か?みたいな目で見られ、いつものノリで殴りそうになった手を止める。
「ま、まぁ、信じられないだろうな。とりあえず今日1日は安静にしとけばいいみたいだ」
「・・・」
「お、おい?桐生・・・・ひっ!!!」
ぷつり。
嫌な音を立て、首筋に何かが侵入していく。
それが桐生の牙だというのは、確認しなくても分かることだった。
気持ち悪い。なのに、痛みさえ気持ちよく感じる。
ただ妙な感覚に、身体がピクリと震えるだけ。
「あっ・・・ぐ・・・・ぅ・・・・っ」
牙が刺さり、舌がその部分をなぞる。
そしてその部分を強く吸い上げたかと思うと、私の身体に異常なほどの痺れが走った。
血が抜かれているのが分かるほど、感覚が研ぎ澄まされる。
ゴクゴクとまるでジュースか何かのように血を貪る音が、桐生の喉から生々しく響いた。
気持ちいいような、怖いような。
非現実的な行動と、それをしている桐生が、私を狂わせる。
「・・・は、ぁ・・・っ」
「・・・信じられねぇが、本当みたいだな」
「ん・・・どういう、ことだ・・・・?」
「お前の血が、まるで酒みたいにうまい・・・・」
「へー。それが吸血鬼の味わう、血の味ってことか」
「まだ・・・足りない」
「い、いや、これ以上は私の血が・・・・っ!」
ああ、もう。
どうしてここ神室町はこんな非現実的なことばっかり起こるんだ。
最初はどうしてこうなったかを考える余裕があったのに、吸われるたび、その余裕さえも桐生に奪われていった。
吸われる感覚。
身体中がじんじんして、まるで何か催眠にかかっているかのような気持ちよさが身体を襲う。
意識が飛びそうになって慌てて桐生の服を掴めば、より一層牙を突き立てられ、私は悲鳴を上げた。
「あぐっ・・・!!!」
「!す、すまん・・・」
「ひ、ぅ・・・!!」
ずるり、と。
肩から牙が抜けるのと同時に、私の身体はベッドに横たわった。
目の前がチカチカする。
これ、絶対貧血だろ。
元気になった桐生とは真逆に、次は私の顔色が真っ青になっていた。
「少し・・・・体調良くなった、みてぇだな?」
「あぁ。吸血鬼というのは、血を吸えば力が戻るみたいだな」
「へぇ・・・。ま、体調良くなったならいっか」
「・・・嫌じゃねぇのか?」
「んあ?」
「俺がこんなになっちまって、気持ち悪いとか・・・思わねぇのか?」
「・・・あ?」
「俺だって信じたくはねぇが、今の俺は・・・確かに・・・いつもと違う」
あー、そっか。
桐生は吸血鬼になっちゃったっていう事実しか知らねぇから、ずっとこのままだと思ってるのか。
桐生にしては可愛い心配するなと、思わず笑いながら真実を教える。
「あはは・・・!大丈夫だよ、桐生。それ明日には戻ってるらしいぜ」
「そ、そうなのか・・・・?」
「・・・・・ぶっははははは!!!可愛いな桐生!!もとに戻れないと思って、不安になったのか?別に戻れなくても嫌いにならねぇし、変な心配するなよ!あははは!!」
「うるせぇぞ、笑うな」
笑うなって言われても、ねぇ?
滅多に表情を崩さない桐生が、慌てたように私から顔を隠そうとしている。
そんなところを見て、どう笑いを堪えればいいのか。
私には、無理だ。
「ぶっ・・・・あはははははは!!!!ひぃっ・・・わ、笑いすぎて、お腹っ・・・・あははははは!!」
「てめぇ・・・」
「え、あああああ!!痛い!!血を吸うのだけはやめっ・・・・あぐっ・・・!!!」
再び牙が突き刺さる感覚。
滅多に味わえない・・・・いや、恐らく二度と味わえないであろうこの状況と桐生の動揺ぶりを見ながら、私はゆっくりと桐生に身体を預けた。
別にお前が元に戻れなくても、どんな姿でも、私はお前だけが好きなんだよ。
(さすがに虫とかは勘弁な?って言ったら、次は思いっきり殴られた)
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