いらっしゃいませ!
名前変更所
抱きかかえられたまま帰ってきたスナックから、声が聞こえる。
私と桐生は話の内容が聞こえてきた瞬間、お互いに顔を見合わせ、部屋に入るのを待った。
聞こえてきたのは、狭山とママの会話。
ママが狭山の無茶っぷりに怒っているようだが、狭山はまったく聞く耳を持っていないようだった。
イライラした様子でママに言葉を返し、それからため息を吐く。
「なんでアンタはそんな無茶すんの!」
「ママが本当のこと教えてくれへんからやないか!」
「・・・アンタの両親は、ホンマにヤクザとは関係あらへん」
「じゃあなんで?私の両親は一体誰や?」
「・・・・それは」
ママが言葉に詰まるのを見て、狭山がもう一度ため息を吐いた。
表情は見えないが、声だけで相当苛立っているのが分かる。
一目見ただけで私に似てるなって思ってたけど。
こういうところも、やっぱりソックリだ。
意地っ張りというか何というか。それでも治せないのがこういう世界の女なのかもしれない。
「・・・とにかく、私はあの桐生一馬とあけについていく」
「なんでや」
「あの男と女が、東城会の人間だからよ」
「・・・薫・・・アンタ・・・」
ヤケに執着を見せるなと思えば、そういうことだったのか。
私たちに利用価値があるから、こうやって実質自由な状態で行動させてた・・・と。
このまま立ち聞きを続けるのも居心地が悪いと思ったのか、桐生は軽く扉をノックしてから部屋の中に入った。
もちろんの如く、私を抱きかかえたままで。
二人は一斉にこちらを向き、私は一瞬にして桐生に肘打ちを食らわせた。
「おいこら!なんで中まで抱えて入るんだよ!?」
「おい、水をくれないか。あとこいつの治療もしてやって欲しい」
「なんや?まさかあの状態で暴れたんとちゃうな?」
「その通りだ。しっかり治療してやってくれ」
「え、いや、た、確かに動いたのは悪かったと思うけど・・・!?」
「言い訳はええ。さっさとこっちに座り」
「・・・・わかった」
後ろで桐生も睨んでるし、ここは抵抗しないでおこう。
私は静かに椅子に腰かけると、痛い治療を受けなおすことになった。
じんわりと沁みる消毒液に歯を食いしばり、上げかかった悲鳴を何とか押し殺す。
その様子を見て、ママが苦笑いを浮かべた。
後ろで水を飲んでいた桐生も私の頭に手を置き、ぐしゃぐしゃと撫で上げる。
「傷はどんな具合だ?」
「すっかり開ききっとるわ。一体何したんや?」
「いや、ちょっと動いちまっただけっつうか・・・あだっ!!」
「悪いが、少し身動きできないぐらいに包帯を巻いてやってくれ」
「え、いやだ・・・いだっ!」
「わかったわ」
何かしら否定の言葉を出すたび、頭に乗っている桐生の手が私を叩いた。
ママさんもすっかり桐生のいうことを聞いてぐるぐる巻きにしてくるし。
結局傷の手当てが済んだ頃には、私の腕はほぼ動かせない状態になっていた。
左肩だからまだいいが、これが利き手だったらもっと不自由だっただろう。
文句を言えば強制的に右手もそうなりそうな気がして、私はママさんにお礼だけを言った。
それと同時に狭山が冷たい表情で私を睨み、桐生に対して携帯を投げつける。
「・・・なんだ」
電話を受け取った桐生は、少し苛立っていた。
だが狭山はそれを気にすることなく、電話の主だけを伝えて背を向ける。
「・・・府警4課の課長よ。失礼のないようにね」
電話に耳を近づけ、府警4課の課長と話を始めた。
私には会話の内容が聞こえないため、静かに話が終わるのを待つ。
つか、府警4課が何の用だ?
狭山に用があるなら分かるが、こっちは狭山に身柄を確保されている側の人間だ。
桐生が厳しい表情で電話を返すのを見て、私は即座に話の内容を聞きに掛かる。
「んで?課長さんは何だって?」
「・・・・大吾と郷田会長が、何者かに攫われたらしい」
「んだって・・・!?攫ったやつは分かってんのか?」
「いや・・・ただ、妙な外国語を使う奴らだったと。そして攫った車のナンバーが、神室町のものだったらしい」
「外国語?・・・ふぅん」
外国語、か。
神室町に居る外国人といえば、マフィア系の人間が少しだけ心当たりがあるにはある。
でもマフィアの連中が、関わるようなものとも思えない。
手帳を取り出し悩む私を余所に、桐生はさっさと帰る準備を始める。
まぁ、帰って見つけるのが一番早いよな。
私も帰る準備をしようと、持っていた手荷物を簡単にまとめた。
「どうする桐生?って・・・聞くまでもねぇよな」
「あぁ。・・・俺たちは一度神室町に戻る。お前はどうするんだ?神室町はお前の管轄外だ。無理してこなくてもいいんだぞ」
挑発的な言い方。
でも裏を返せば、怪我をしてるのに無理して来なくて良いんだぞという優しさがあるわけで。
だが狭山も、そんなことで引き下がるような女じゃない。
この女は私とソックリだから、何が何でも着いてくるだろう。
しかも東城会に何かしら近づきたい目的があるみてぇだし。
「・・・管轄なんて関係ないわ。私も行くわよ」
鋭い言葉を一言吐き、狭山は私たちよりも早く店の外に出て行ってしまった。
桐生が若干苛立ちながら狭山を睨みつけ、ため息を吐く。
「・・・好きにしろ」
相当苛立ってんな、桐生。
心を読めない相手に身柄拘束されてるんだ。当たり前のことだろうけどよ。
私はまとめた荷物を肩に抱え、狭山の後を追って部屋を出ようとした。
が、しかし。出ようとした瞬間に首根っこを掴まれ、無理やり止められる。
く、首。首が閉まってるって桐生!!
「がはっ!お、おい!!殺すつもりか!?首、首閉まってるって!!」
「・・・荷物を貸せ」
「へ?いいよ、このぐらい自分で・・・・」
無言の、威圧。
断ればビンタの一つでも飛んでくるんじゃないかと思うその気迫に、私は大人しく荷物を渡した。
いや、ね。これも桐生の優しさなんだけどね。
桐生も私の扱いに慣れてきたのか、私が黙って従う方法を覚え始めて使うようになってきた。
悔しいけど、それに逆らえないのも事実。
「次傷開いたら、お仕置きだからな」
「えっ?あ、え、いや、そ、そんな心配しなくたって、無理しねぇって・・・・うん」
私が嫌がることを徹底的にする、それが桐生のお仕置き。
何度かそれを食らった経験がある私は、冷や汗をかきながら桐生と共に店を出た。
とりあえず、急いで神室町に帰るのが先決だろう。
私たちは狭山の車に乗り込み、すぐに近くの駅を目指した。
新幹線のチケットは電話で私が手配をする。
「・・・はい。そうです。はい、3人分お願いします」
「チケットとれたのか?」
「うん。まだ平日だし、人はあんまりいねぇみたいだ」
これが土日だったら、予約で埋まってるなんてこともありえただろうからな。
私は静かに携帯をしまうと、運転する狭山の顔色を見て顔を顰めた。
多少無理してるような表情。
傷を痛がっているというよりは、ただ普通に体調が悪そうに見えるが。
「・・・」
どうせ言ったところで、彼女は行くのを止めないだろう。
そう思った私は、駅に着くまで一眠りすることにした。
桐生の固い、膝枕で。
待ってろよ、大悟。そして会長。
(必ずこの盃は、完成させてやるんだ)
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