いらっしゃいませ!
名前変更所
4.そんな顔をするな
あの時の命令を聞いてから、案の定、任務失敗と見なすという文書が届いた。
これでもう、私も完全に殺されるのを待つ身。
でも桐生はその文書を破り捨て、私を龍屋に置き続けた。
せめて私を捨てればまだ狙われる量も減っただろうに、どうしてこいつは・・・。
いや、聞いても無駄なことは分かってる。
いつも何を言ったって、最後は「命令だ」で黙らされてしまうんだから。
「ふぁ・・・」
「なんだ?疲れたのか?」
「いや、ちょっと眠たくなってきただけ・・・」
龍屋の仕事は楽じゃない。
他の掛廻より、雑用系のものが多いからだ。
桐生は集金が嫌いらしく、特定の遊郭に所属していない。
遊郭に所属しちゃうと、その遊郭のツケを集金しなくちゃいけなくなるからな。
だから必然とどの遊郭からも頼まれやすい雑用や、暴力沙汰が多くなるってわけだ。
ま、金積まれたらなんでもやるっていう店らしいし。
汚いっちゃ汚いかもしれないが、私にとっては普通の仕事に変わりなかった。
「疲れたなら、もう帰るか?」
「・・・仕事はもう全部終わったんだっけか?」
「あぁ、もう今日はないぜ」
「ん、じゃあ帰る」
武道に慣れてるとはいえ、私がやってきたのは暗殺業。
暴れまわるということには慣れていないため、疲れが急激に来てしまったんだろう。
私は伸びをしながら龍屋に入ろうとして、足を止めた。
一瞬の判断。懐に忍ばせておいた小太刀を抜き、天に掲げる。
桐生も気配に気づいていたのか、拳を構えて一歩後ずさった。
響く金属音。
天に掲げた小太刀にぶつかった、刃。
「見つけたぞ、出来損ないが」
「ッ・・・・!」
振り下ろされた刃が離れ、また再び私を狙って構えなおされる。
殺しに来てる、ということが見るだけで分かるほど、その忍は殺気に満ち溢れていた。
ああ、やっぱり、私は裏切りものになったんだ。
いや―――出来損ない。
そう、役立たず。私にもう、居場所はない。
「死ね」
再び刃を受け止めるために小太刀を構えるが、力が上手く入らず、私の刀は宙を舞った。
動揺が刀に、力に表れてしまっているんだろう。
いつもなら、こんな奴に遅れなど取らないのに。
あっけなく刀を弾かれた私は、特に抵抗することなくその場に立ちすくんだ。
「・・・」
このまま、死ねば。
もう、分からない。
私は全てを忍に捧げたつもりだった。
殺すことも、死ぬことも、怖くないつもりだった。
でも彼と、桐生と出会って、その恐怖を知ってしまった。
そして何故か私は彼のことを、殺したくないと願ってしまった。
矛盾と、混乱と。
立ちすくみ続ける私を勢いよく引っ張って抱き寄せたのは、私の悩みの種である張本人だった。
「何ぼけっとしてやがる!」
「・・・・あ・・・」
「余計なこと、考えてるんじゃねぇだろうな」
「・・・別に」
「いいのか、お前。ソイツを庇い続ければ、お前はもっと敵を増やすことになるぞ」
忍の言うとおりだ。
暗殺の対象よりも、今までの仕事の秘密を知っている忍の方が狙われるのは当たり前のこと。
桐生よりも、私を殺しにきたと言った方が正しい。
忍の男が私に殺気を向けているのを感じ、咄嗟に私は桐生から離れようとした。
だが、桐生の腕が、それを許さない。
「・・・この男の言うとおりだ、桐生」
「そうか」
「だから桐生・・・私は・・・・」
「命令だ。ちょっと黙ってろ」
「は・・・!?むぐっ!」
大きな手で口を塞がれ、発言権を奪われた。
桐生は私を掴んだまま私の小太刀を奪い、クルッと回して男に突きつける。
「こいつは俺の所有物だ。・・・分かったらさっさと手を引け」
「そういうわけにはいかないな。こいつは出来損ないだ。任務を達成できなかった以上、死んでもらう」
「ったく・・・めんどくせぇなぁ・・・」
――――一瞬。
桐生は私を強く突き飛ばしたかと思うと、刀を構えていた男を一瞬で気絶させた。
小太刀の柄部分で、思いっきり首筋を殴り飛ばしたのだろう。
気絶した男を近くにいた門番に任せ、再び私のところに戻ってきた桐生は、今まで以上に怒っていた。
言葉にしたわけじゃない。でも、表情がそれを物語っている。
「き、桐生・・・?」
「お前はほんとに俺の言うことを聞かねぇなぁ・・・」
「・・・・私は・・・」
「ん?」
「私は・・・お前を、巻き込みたくねぇんだ」
「ハッ・・・今の今まで、俺を殺すだのなんだの言ってたのはお前だろ?」
そうだ。
こいつの言うとおりだ。
でも、今は違う。
巻き込みたくない。こいつに生きてほしいと思っている。
・・・桐生が初めて、私に「忍」以外の場所を教えてくれた人間だから。
死ぬ恐怖と、殺す嫌悪感と、人間としての感情を教えてくれたから。
「私は・・・お前が、お前・・・に、死んでほしく・・・ない」
この感情は一体何なんだろう?
苦しげにその一言だけを呟くと、桐生が苦笑しながら私の頭を撫でた。
この、子ども扱いされているような感覚も、嫌いじゃない。
むかつくから、反抗はするが。
「・・・子供扱いするなっ」
「まだまだガキだ、お前は」
「~~~っ」
「だから大人しく俺の言うことを聞いておけ」
「・・・・」
無言で桐生を睨み、そして静かに頷いた。
素直に頷いたのに桐生は目を見開き、意地悪く笑う。
「どうした?珍しく素直じゃねぇか」
「・・・別に。私はお前の“所有物”だからな。命令に従っただけだ」
「なんだ?気に食わなかったのか?」
「・・・いや」
嬉しかった、とは言えなかった。
言ったらなんとなく負けだと思って、私は口を閉ざす。
それにしても、これからどうしよう。
桐生が私を庇ってくれたのは嬉しかったけど、これで桐生も同じように巻き込むことになるわけだ。
桐生自身も狙われているのに、私の分まで巻き込んでしまうなんて。
静かに考え込んでいると、また桐生の手が私の頭を撫でた。
元気づけるような撫で方に、恥ずかしくなってますます顔が上げられなくなる。
「・・・顔、こっち向けろ」
「うっせ」
「ほら」
「・・・・!」
無理やり上を向かされ、私は仕方なく桐生の方を見た。
桐生の瞳に映る私の表情が、どこか悲しげな色に染まっている。
「・・・そんな顔をするな」
桐生の声が、優しい。
「お前は俺と会ったときみたいに、生意気な方がかわいい」
「・・・それ、馬鹿にしてるだろ」
「さぁ、どうだろうな?」
何だかんだで、桐生はいつも優しくしてくれる。
遊女を泣かせまくってるっていう言われてる男のくせに、私にはそういうそぶりも見せない。
ま、私に女としての魅力がないってのもあるだろうけど。
私は桐生の優しさに甘え、何も言わないことにした。
どうせ迷惑をかけるだの何だのいっても、命令の二文字にぶった切られる。
実際ぶった切られたから、こうなってるわけだしな。
「・・・ほんと馬鹿。殺されてもしらねぇからな」
「俺がそんな男に見えるか?」
「見えねぇから言ったんだよ」
「・・・・なんだ?本当に今日は素直じゃねぇか。明日雨でも降るんじゃねぇのか?」
「なんだよ!人が大人しくしてればこのやろっ・・・!!」
「おうおう。それぐらいがお前には似合ってるぜ」
この挑発でさえ、彼の優しさなのだと。
それに気づくのが怖くて、私は桐生に拳を振り上げ続けた。
これからどうなるのか。
そんなこと、私には分からない。
どうして急にこんな桐生のことを考えるようになったのか、この感情の意味すらも。
私には、何も分からないまま。
今日も私は桐生と共に龍屋へ戻り、掛廻としての一日を終えた。
命令されるのも、屈辱を味わうのも、嫌いだというのに。
(どこかそれを心地よく感じ始めている自分が、自分じゃなくなっていくようで、怖かった)
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