Erdbeere ~苺~ 10章 壊れゆく 忍者ブログ
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2012年01月10日 (Tue)
10章/ヒロイン視点

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何とか追手を追い払うことに成功した私達は、伊達さんが掴んだ情報とやらを熱心に聞いていた。

遥を連れ去った奴らが持っていたバッチの正体。
MIA・・・政府の地下組織だったっけか。
そしてそいつらが動いている意味―――――さっきの警察での事といい、警察に対する違和感がどんどん増えていく。


その組織のリーダーの名前は、「神宮」
私が取り扱っている情報は裏の世界限定のため、ここまで来るとまったく分からない。

私も少し、警察の方を探ってみる必要がありそうだ。


「あぁ、それと・・・もう一つ情報がある」
「ん?」
「東京湾での死体。あれは美月じゃねぇ。まったくの別人だ」
「!じゃあ、お母さんはまだ・・・!」


美月の正体を知っていた私以外、皆が驚きに目を見開いた。
特に遥は、戸惑いながらも嬉しそうに桐生の腕を掴んでいる。

ごめんな、遥。何も教えてあげられなくて。
でも、もう少しだけ待ってくれ。
お前のお母さんとの約束なんだ。時が満ちるまで、待ってくれと。







それから他愛のない会話を繰り返していく内に、車の外が明るくなっていくのを感じて目を開けた。


「ふぁ~う・・・」
「あぁ、そうだ桐生。これを」


大あくびをする私の横で、運転していた伊達さんが何かを取り出した。
そのまま、ポイッと桐生に投げ渡す。

投げ渡されたのは、桐生が持っていた携帯だった。
さすが伊達さん。抜け目がない。

すっかり桐生の持っていた物を記憶から捨て、桐生を助けることだけを考えていた私は、小さな声で伊達さんに礼を言う。


「さすが伊達さん、ありがと!」
「お前にも助けられたからな。お互い様ってことだ」
「伊達さん、すまない」
「気にするな。それより、シンジからの伝言が入っている。聞いてみろ」


シンジからの伝言とやらが気になった私は、桐生に許可を得ることなく受話器の裏側に耳を押し当てた。
ピッという小さな機械音と共に、シンジの掠れた声が再生される。
状況からして嫌な予感しかしないが、私は何も言わずにその声を聴いた。

おじいちゃん繋がりで昔から東城会にお世話になっていたため、シンジの事は良く知っている。

そういえばあれから、シンジはどうしてるんだ?
―――――心配と、焦り。
聞こえてきたシンジの言葉は、とても懐かしい。


『シンジです。さっき錦山組のもんから聞いたんですけど・・・兄貴の情報、錦の叔父貴に筒抜けみたいで・・・。傍に怪しい奴がいるはずです。気を付けて』


傍に怪しい奴がいる。
その存在に覚えがある私は、桐生と目を合わせないように窓の外を見た。
桐生はシンジの伝言で何かに気付いたのか、伊達さんに「花屋」の場所へ向かうよう伝える。


「花屋に行くのか?桐生」
「あぁ・・・。気になることがある」
「そうか・・・」


怪しい奴っていうのは、たぶん麗奈さんのことだ。
前軽く忠告した時の、戸惑いが浮かんだ麗奈さんの顔は忘れていない。

麗奈さんが浮かべた表情はとても悲しく、考え込んでいる表情だった。
後悔しているような、苦しんでいるような。
私はあの時の麗奈さんの表情を思い浮かべ、強く拳を握りしめた。


「・・・・」


麗奈さんは、どうしてこんなことを?
幼馴染である桐生を裏切ってまで、どうして。

桐生のこの表情からして、麗奈さんのことに気付いてるはずだ。
少し前から感付いていた私は、気まずくなって目を瞑る。


「わりぃ。花屋の所に行く前に、私のアジトにいってくれねぇか?」
「どうしたんだ、あけ
「色々ありすぎて、薬を使い切っちまったんだ。補充しにいきたい」


それは麗奈さんの所に行く口実であり、本当のことでもあった。
しばらくアジトに帰っていなかったため、持っていた薬はほとんど底を尽きている。
同時に、私のアジトはあのセレナの傍にあるわけで。
アジトに行くついでに様子を見れれば、と思っているのだが。
どうも嫌な予感がする。どうにか穏やかに話を付けられることを祈るしかない。


「あ、ここでいいぜ、伊達さん」
「あ?あぁ・・・気を付けて行けよ、あけ
「桐生!集合場所、後で電話しろよ!」
「あぁ。変なのに絡まれるんじゃねぇぞ」


くそ・・・あいつ、私のこと馬鹿にし過ぎだろう。
車が凄い勢いで発進していくのを見届けながら、過剰なまでに心配してくる桐生に向かって苛立ちの視線を向けた。

とりあえず、今はやるべきことをやらなければ。

桐生への怒りは後でぶつけるとして、私はすぐに自分のアジトの入り口である壁に手を付いた。
そのまま、ツーと何かを描くようにして指を動かしていく。


私のアジトに、鍵穴なんてものはない。
これが、アジトの鍵穴を開く合図なのだ。

指の動きに反応した壁が、少しだけ音を立てて動いた。
今まで無かったはずの鍵穴が少しずつ姿を現し、扉としての姿を作り出す。

私は素早くその鍵穴に鍵をいれ、扉を閉めることもせず薬の回収を始めた。


「これと、これと・・・」


状況が状況なだけに、作ってる暇は無い。
作ってあった分だけポケットに詰め、私はすぐにアジトから外に出た。

さて、と。

アジトの入り口をまた壁で隠した私は、すぐ裏にあるセレナに目を向けた。
ここに麗奈さんがいる。彼女を説得するには今しか無い。


「桐生の幼馴染だもんな・・・」


裏切っていたのが事実でも、出来るだけ仲よくしていて欲しいというのが私の願いだった。
麗奈さんが情報を流すの止めてくれれば、それだけで。
私はセレナへの階段を1歩上ろうとして―――――――そこで、足を止めた。


「・・・?」


セレナから、音が聞こえる。

悲鳴。硝子の割れる音。荒らされるような、音。
咄嗟に飛び込もうとした私は、扉から飛び出してきた人物にぶつかって階段から派手に落ちた。

慌てて受け身を取り、何とか体勢を立て直す。
出てきた人物は見覚えのある、二人の人物だった。


「シンジ・・!?それに、麗奈さん・・・!」
「あ、姉貴・・・」
あけちゃん・・・貴方・・・!」


血だらけのシンジと、恐怖に怯えきった麗奈さん。
そして後ろから聞こえてくる追手と思われる声は、私を一瞬にして混乱状態に陥らせた。

どうなってるんだ?何が起きた?

後ろに追ってくる人間のバッチを見て、私は構うことなく催涙薬を投げつけた。
今は状況の把握よりも、この二人を逃がすことが先決だと考えたからだ。


「姉貴・・・!?」
「いいから来いッ!逃げるぞ!麗奈さんもこっちだ!」
「・・・!」


麗奈さんにシンジを支えてもらうようお願いし、私は追手から逃げる道を確保することにした。
追手についていたあのバッチは、間違いなく「錦山組」のもの。
麗奈さん達が何を仕出かしたのかは知らないが、命を狙われていることだけは嫌でも分かる。

私は催涙薬の効果が消えないうちに、自分の庭のように知り尽くした神室町の裏路地に逃げ込んだ。
この状態じゃ、いつ追手に追い付かれてもおかしくない。


「チッ・・・どうすれば・・・!」
「まずは、俺、兄貴に・・・電話、を・・・」
「・・・あぁ。そうしてくれ。私だけじゃあの数を相手にできねぇ」


シンジが電話している間、私は追手の様子を窺いながら逃げ込めそうな場所を探した。


「・・・です。麗奈さん、セレナに組長呼び出して、撃とうと、したんです・・・今、俺と姉貴と、逃げてます・・・」


あぁ、なるほど。

場所を探しながらも電話の内容に聞き耳を立てていた私は、その内容から何となく今の状況を確認することが出来た。

麗奈さんが錦山を撃とうとして、失敗した、と。
彼女なりの、裏切りに対するけじめだったのだろうか?
こうなってしまった以上、今更聞く必要もないが。


「シンジ、大丈夫か?」
「・・・はい。なんと、か・・・」
「これを飲め。痛み止めだ。飲んだらあのビルに逃げるぞ」


貴重な薬の一本をシンジに渡し、ミニレアムタワーが見える雑居ビルを指差した。

昔は何かに使われていたであろう、寂れたビル。
あそこなら、しばらく追ってから身を隠せそうだ。

シンジが薬を飲み終わったことを確認した私は、すぐにシンジを抱えてビルへと向かった。
麗奈さんも、オドオドしながら私の後をついてきている。


「はぁっ・・・はぁっ・・・姉貴・・・大丈夫、です。歩けますから」
「・・・言っとくけど、飲んだのは痛み止めだからな。痛みが無くなったからって出血が止まるわけじゃねぇ。調子乗んな」
「・・・・すみません」
「・・・あけちゃん」
「ん?」


冷たいビル中に響く、冷たく震えた声。
私はシンジを抱えて階段を上りながら、その声に少しだけ振り向いた。

麗奈さんの表情は、様々な色に染まり、揺らぐ。


「・・・どうして助けてくれたの?」
「は?」
「どうしてなの?私は貴方たちを、裏切ったのよ」
「・・・だから?」
「え・・・?」
「だからなんだっての。アンタは桐生の幼馴染なんだろ?だったらお前がなんだろうと、私には関係ねぇよ。私は、アイツの昔からの友達ってやつを、弟分を、守りたいだけだ」


錦山を事実上失い、由美はまだ彼らにとっては行方不明の存在。
桐生を支える存在は今、ほとんどいないのだ。

私が支える存在の一人になっていればいいが、それも難しいだろう。
あの反応を見る限り、私は子供の様に思われているだろうから。


「だから、気にするな」
「・・・・」
「ほら、さっさと行・・・・」


パァンッ!

一発の銃声によって、私の声はかき消された。
右肩に感じる痛みと共に、目の前が真っ白に染まる。

だめだ、ここで気絶してしまったら、誰が彼らを守るんだ。

誰がっ・・・。


「なめんじゃねぇぞ!シンジ・・・お前たちは先に行けッ!」
「あ、あねき!?」
「さっさとしろ!二度も言わせるな!」


飛びそうになる意識を繋ぎ止め、私はシンジ達の壁となる。
これほどまでに、人を守ろうと、自分を犠牲にしたのはいつぶりだろうか。

今まで一人で生きてきた私にとって、桐生は実質初めての仲間だった。
おじいちゃんは仲間というより、保護者って感じだったし。
だからこそ、桐生の知り合いだからこそ、私は痛みを堪えて追手の前に立ちふさがることを選んだ。


「おい!退けッ!」
「・・・退かしたいなら、私を倒してからにしろよ」
「んだとこら!」
「やっちまえ!」


威勢よく言い放ったのは良いものの、右肩を撃たれたことによる体力の消耗は隠せなかった。
階段を一歩ずつ上り、後退していく。


「っ・・・」


このままじゃ、無理だ。
ビルの入り口から来る増援に、私は背を向けて逃げ出した。
出来るだけシンジ達の所へ向かわせないよう、ビルの中を蛇行しながら進む。


ザッと見て、数は10人以上。
痛み止めはシンジに渡しちまったから、私自身が戦うことはほぼ出来ない。

出来るとすれば、こうやって走り回って、体力の続く限り彼らの足をとどめて時間を稼ぐこと。


「はぁっ・・・ぐ・・・」
「おい!観念しろこのアマ!」
「く、そ・・・!」


銃を構えられたのを確認し、身体を左へ投げる。
受け身を取れなかった痛みと肩の痛みに悲鳴をあげそうになるが、何とか食いしばって前に走ることだけを考えた。

いつまで、いつまで、追ってくるんだ。


「はっ・・・はっ・・・うわぁっ!?」
「きゃっ!?」


後ろを確認しながら走っていた私の目の前に、逃げたはずの麗奈さんが姿を現した。
それに反応することが出来なかった私は、麗奈さんとぶつかって床に転がる。


「がっ・・・!麗奈さん、な、なんで・・・?」
あけちゃん・・・!シンジ君が追手を引き付けるから、逃げろって言われたの。それで・・・」


さすがに、私一人では追手を引き付け続けることは出来なかったようだ。
シンジのことが心配だが、今ここで麗奈さんと出会ってしまったことも中々マズイ気がする。


「なめんなよ、こらぁ!」
「・・・くそっ!」


麗奈さんを抱えたまま、逃げ切れる可能性がほぼ無い。
となると、私が選択肢として選ぶ行動はただ一つ。

私は素早く持っていた偽の拳銃を取り出し、ゴム弾を詰めて追手に放った。
逃げられないのなら、すべてここで倒してしまうしかないだろ?
死ぬつもりはないけどね。やるだけやってやるさ。


「麗奈さんは後ろにいろよ」
「あなた一人でやるの?」
「お前が戦えるのか?戦えるなら戦ってもらうけどな!」


襲いかかってきた男に蹴りを入れ、私は一気に男たちと距離を詰めた。
倒すと決めたら倒す。もう選択肢を元に戻すことは出来ない。

次々と襲いかかってくる男たちを、視界が霞む中、がむしゃらに蹴り倒していく。

意外に、どうにかなるものなんだな。
段々と数が減っていく男たちを見て、私はふと笑みをこぼした。

限界なのに、身体は動こうとしている。
一通り男たちを倒した後、私は麗奈さんの方を振り返ってもう一度笑った。
麗奈さんは私の笑みを見て安心したのか、深く息を吸い込む。


あけちゃん・・・良かった、無事で・・・」
「麗奈さん。無事に帰れたら・・・桐生に謝れよ」
「・・・ええ。償いはするわ」
「償いとかいらねぇんだよ。お前の言葉さえあれば、桐生は許すと思うぜ」


私の言葉に、麗奈さんが少し嬉しそうに表情を緩めた。
なんだ?なんで笑ってるんだ、麗奈さんは。

頭に?を浮かべる私の手を、麗奈さんの震える手が包み込んだ。


「・・・桐生ちゃんを、よろしくね。あなたほど桐生ちゃんのことを想ってくれてる人なら・・・安心して桐生ちゃんを任せられるわ」
「想ってるってお前、勘違いすんな!私はただ暇だから手伝って・・・」
「想ってるって言っただけなのに、どうしてそんなに赤くなるのかしら?」
「ッ・・・て、てめ・・・!」


この由美さんも持っていた、大人の余裕ってやつに私は弱いらしい。
からかったことを怒りたくても、上手く言葉が出てこなくなる。


「・・・あー、もう、とりあえず、まずはシンジを助けにだな・・・」
あけちゃん・・・お願いね。その純粋な心のまま、桐生ちゃんの傍にいてあげてちょうだい」
「私が純粋?麗奈さん、冗談きついよ?」
「ふふ。分かってないだけなのよ。だから・・・」


なんか、麗奈さんの様子が変だ。
違和感を覚えて伸ばした手は、ぐいっと強い力に引かれて。
気づいたら、麗奈さんが今まで男たちがいた方向に立っていた。

早く先に進もうってことなのか?
再び口を開こうとした私の目の前で、それは、気づかないほど一瞬で起こった。






















一瞬だったんじゃない、気づきたくないものだったんだ、きっと
(鳴り響く銃声と共に咲いた、赤い血の花)
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