Erdbeere ~苺~ 第7章(5) 錦山とその裏で 忍者ブログ
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2011年12月07日 (Wed)
第7章-5部/ヒロイン視点

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昨日は結構、桐生に喋りすぎてしまった。
二人っきりでバーなんて初めてだったし、雰囲気に酔ってしまったせいだろう。

昼まで休んだが、酔いは未だに醒めていない。
私は軽く身支度を済ませると、セレナに向かおうとする桐生を捕まえた。


「行くのか?桐生」
「・・・あぁ」
「変に殺し合いとかするなよ」
「分かってる。お前は、どうするんだ?」


私には他に、やることがある。
だから今回のことは桐生に任せ、私は別行動を取ることにした。
どうせ私がついていくって言っても、許してくれなかっただろうし。

桐生と遥が居ない間だからこそ、出来ること。
私はセレナへ向かう桐生を見送りながら、そっと手元の手帳を開いた。


「・・・・やっと、掴んだんだ」


そこに書かれているのは、私が少ない時間を使って集めた情報の結果。
―――――――たった一つの、携帯番号。

この電話番号に、今までの努力の全てが詰まっている。
上手くいけば美月の死の謎も、全て分かるだろう。


そう、全て知っているはずだ。この番号の主が。

震える手で携帯を握り、書かれた番号を入力していく。


「・・・どちら様ですか?」


電話に出たのは、大人しそうな声の女性だった。
河原で話すのは危険なため、自分のアジトに向かいながら言葉を考える。

女性は無言を貫く私に、強い警戒心を示した。
先ほどの声とは違い、威嚇するような声が耳を刺激する。
ここで切られてはならないと、私は声色を優しくして口を開いた。


「何なんですか?あなたは一体・・・・」
「由美さん、だな?」
「・・・!?」
「安心しろ。私はお前の敵じゃねぇ」
「・・・・何の、用なの?」


私が空き時間の全てを使って手に入れた、由美の電話番号。
花屋の所に顔を隠して訪れた女性・・・・それを由美かもしれないと思って、探りを入れたのが正解だったらしい。

小さな情報から、こつこつと辿った成果だ。
桐生達よりも早く由美を探し出せたことに、一先ず胸を撫で下ろす。


「今からすぐ、セレナ裏通りの路地まで来い」
「・・・・」
「心配なら、武器でもなんでも積んできていい。私はお前に、遥のことを教えたいだけだ」
「遥・・・!?遥の事を知ってるの!?」
「あぁ。だから、待ってる」


どうしても二人っきりで、由美さんと話がしたかった。
美月と由美の情報を探っていくうちに、どうしても可笑しいことがいくつか出てきたから。

記憶を無くして、行方不明になった由美。
その由美の妹である、美月の存在。

もしかするとこの二人は、同一人物じゃないかって、思い始めて。

私はそれを確認したいだけ。
桐生達には黙っておくつもりだ。由美さんが望まない限り、な。


「ふぅ・・・」


久しぶりに戻ってきたアジトを、ゆっくりと見回した。
隠れ家みたいなものだし、戻って来なくても問題は無い。

まぁ、今の状況的に、セレナが近いってのが凄く気になる所だけど。
桐生は大丈夫だろうか?なんて考えていたら、すぐに足音が近づいてきた。

電話をしてからまだ10分しか経ってない――――――やっぱり、由美さんはこの近くにいたようだ。


「お前が、由美さんか?」
「あ、あなた・・・!」
「ん?」


目の前に現れた女性は、美月と瓜二つだった。
由美さんと思われる女性は私を見るなり、驚いた表情で声を上げる。

何で驚かれたのか知りたかったが、まずはアジトの中へと案内した。
ここで立ち話をすれば、桐生達に見つかる可能性が高い。
由美さんは素直に私の案内に応じ、アジトの中へと足を踏み入れた。


「待ってろ。今、お茶出すから」
「あの、貴方・・・」
「ん?」
「貴方、鷹の情報屋・・・?」
「・・・へぇ。良く知ってるな」


お茶を注ぎながら、由美さんの言葉に笑みを浮かべる。
警戒心は解いていないものの、即座に逃げようと思っているわけでもなさそうだ。

ま、いいか。
とりあえず、私は話が出来ればそれで良い。


「んで?私が鷹の情報屋だってどうして知ってるんだ?」
「この前、伝説の情報屋と呼ばれる人の所へ行ったとき、貴方を紹介されたの」
「あー・・・なるほど」


そういえば花屋から、そんな話聞いた気がする。
遥を探す女性が来たけど、素性も分からないような怪しい奴だったから、私に押し付けたって。

その女性を由美さんじゃないかと思って探りを入れていた私は、見事正解だったってわけだ。
自分で淹れたお茶を、無表情で口に含む。


「うへ、微妙に渋い。ごめんな、マズイかも」
「え?あ・・・」
「あ、そうそう。遥の事だったな。遥は今、桐生と一緒にいる」
「一馬と・・・!?遥は、無事なのね!?」


表情が、一瞬にして変わった。
私はそれを見ないふりして、話を続ける。


「お前さ・・・美月だろ?」
「・・・!」
「私はまだ桐生がいない10年間でお前に何があったのか、深くまでは知らない。ただ、美月とお前の事を色々調べていく内に・・・同じなんじゃないかって思ってさ」
「・・・さすがは、鷹の情報屋さんね」
「その名前はよしてくれ。あけでいいよ、あけで」


どうやら、美月=由美の考えは当たりだったみたいだ。
といっても、10年間の事を私が知っているわけじゃない。

知っていることは、桐生と合流してから得た情報だけ。

由美が記憶喪失になって行方不明になったこと、その後から美月と言う妹の存在が現れ始めたこと。

100億がどうだとか、100億に由美さんがどう関与してるかも分からない。
ただ私は遥のために、遥の母親の存在を諦めたくなかっただけなんだ。


「そうか。悪いな、これだけの話に呼び出しちまって」
あけさん。あなた・・・」
「私は遥の母親が、本当にいなくなっちまったのか・・・それだけを知りたかっただけなんだ。だから桐生達には、何も言わない」
「・・・ありがとう。待っていてほしいのよ。時が、来るまで」


由美さんが言わないで欲しいって言うなら、このことは無かったことにする。
私はお茶を飲み干すと、新しいお茶を注ぎ直しに行った。

これは桐生達の問題だ。私は手伝いにすぎない。
由美さんが言う“時”が来るまで、知らないフリをしておくのが私の役目。


あけちゃん、だったかしら?」
「あ?あぁ」
「一馬は、元気?」
「あぁ・・・元気だぜ。うるさいぐらいにな」


顔を合わせれば喧嘩ばかりの存在を思い出し、自然と苦笑いを浮かべた。
ひょんなことから手伝うことになったけど、今では結構いいコンビになっていると思う。

・・・・戦闘の面での話だけど。

普段の生活で、桐生にどう思われてるのかは知らない。
良く喧嘩するし、どうなんだろうな?


「ふふ・・・」
「・・・ん?なんだよ」
「貴方みたいな人に想われて、一馬も幸せね」
「はぁ?」


想う?こいつ何いってるんだ?
由美さんの発言に、思わず上ずった声を上げる。


「そ、それはどういう意味だよ!」
「そのままの意味よ?好きなんだなーって」
「んなわけねぇだろ!好きなのはお前じゃねぇか!」
「・・・ふふ」


桐生の話をした時の表情から、由美さんが桐生のことを気にしているのは分かっていた。
だけど由美さんは私の方を見たまま、笑うのを止めようとしない。
恥ずかしくなって目を逸らせば、動揺してお茶をこぼしてしまう。


「あつっ!」
「動揺しちゃって・・・」
「う、う、うるさい!もう話は済んだ!帰っていいんだぜ!?」
「私はまだ、あけちゃんとお話していたいんだけど」


な、何なんだよこいつ。

警戒心を解いたと思ったら、急に慣れ慣れしくなりやがって。

しかもやけに、大人の余裕というやつが感じられてイライラする。
こういうタイプは苦手なんだ。心を読むどころか読まれてしまいそうだから。


あけちゃん、薬はどこ?」
「へ?」
「火傷の薬よ。手、火傷したでしょ」


由美さんのペースに狂わされたまま、私は火傷の薬を指差した。
棚の上に置かれた、緑色の怪しい液体。
私が特別に調合したものだから、色は可笑しくても効き目抜群だ。

私が指差した薬を手に取り、由美さんが私の方へ持ってくる。
驚いて身を捩るが、関係なしとばかりに腕を掴まれた。


「ちょ、ちょっとまて!その薬は貴重だから使わなくて良いッ!」
「じゃあ、他に薬は?」
「・・・ない」
「なら、これでいいわ」
「ま、まてって!治療なんかいらねぇよ、こんな火傷・・・」
「駄目よ」


緑の液体が、丁寧に火傷を覆っていく。
由美さんの強い口調に遮られ、私はそれ以上話せなくなった。

大人しく腕を預け、治療をしてもらう。


「・・・はい。これでいいわ」
「あ、ありがと・・・」
「女の子なんだから、身体は大事にしなくちゃ駄目よ」


お姉さんって言うより、お母さんみたいだ。
きっと桐生も、私みたいなのより由美さんみたいな人が好きなんだろうな。

って待てよ。

その考えだと、私が桐生の事を好きみたいじゃないか!
そうじゃないんだ。由美さんがお母さんみたいだって思っただけで。

やっぱり、親子だな・・・遥とそっくりだ。


「・・・少しお話しただけだけど」
「ん・・・?」
「まるで、妹みたいだわ。あけちゃん」
「は!?」


次から次へと、この女は私を狂わせる。
遥が私を狂わせていく感覚とまったく同じだ。

由美さんの眼差しが、私を捉えて離さない。
逃がして、くれない。


「・・・一馬と遥のこと、お願いね」
「言われなくても」
「ふふ。やっぱり妹みたいだわ」
「こんな捻くれ妹持って、何が嬉しいんだ?」
「捻くれ?あなたが?」


そんなことないわ、と。
告げる目が嘘をついていなくて、私は思わず顔を逸らした。


「・・・・」
「表情が、正直だもの。捻くれなんて思わないわ」
「っ・・・うる、せ。早く帰れ」


呼び出しておきながら、帰れだなんて失礼な話だ。
でも今の私に、考える余裕なんて無かった。
セレナ側から帰るのは危ないと考え、表通りに出る出口を案内する。

由美さんは持ってきていたスカーフで顔を隠し、私に向かって頭を下げた。
小さくありがとうと礼を言われ、私は深いため息を吐く。


「むしろ礼を礼を言うのは私だ。これだけのために・・・悪いな」
「・・・・また、ね」
「あぁ。絶対に、お前の言う時が来たら・・・私が、皆を守るから」


私の言葉を聞いて、由美さんが嬉しそうな笑みを浮かべながら帰って行った。
まだ問題自体が解決したわけじゃないけど、遥の母親が生きているという事実が分かっただけでも、十分な収穫だ。

いつか、その時が来るまで。
最後に辿りつくきっかけを作るのは、桐生達だ。

そのための情報なら、いくらでも提供しよう。
由美さんにしてもらった手当の痕を撫でた私は、鳴り響く携帯に眉を顰めた。


――――――桐生からか。
また、嫌な予感がする。




























あけ!遥が攫われた・・・賽の河原へ来てくれ!」
(嫌な予感って、外れることがないんだ)
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