いらっしゃいませ!
名前変更所
ラウとの戦いは、思ったよりも長引かなかった。
私達が二人掛かりだったからなのか、強くなったからなのかは分からない。
倒れるラウを尻目に、私は遥の元へと駆け寄る。
遥は怯えるというよりも、申し訳なさそうに桐生へと抱き着いた。
何度も何度も「ごめんね」と謝り、桐生はそれを優しく宥める。
「遥・・・お前が無事でよかった」
「おじさん・・・」
「ほんとほんと。無事でよかったぜ、遥」
「お姉ちゃん・・・」
遥の頭を優しく撫でていると、急に騒々しく扉が開かれた。
そこに居たのは、伊達さんではなく警察の人々。
私達は警察に銃を向けられ、手を上げるしかなかった。
突き付けられた容疑は“誘拐犯”
そういえば伊達さんに車の中で聞いたような気がする・・・・警察も遥の捜索をし始めているって。
でも何故、警察が遥の捜索を?
元々遥を探していたのは由美さんのはずだ。
それは私が由美さんに会って、確かめてるから間違いないはず。
だとしたら警察は何と関わって遥を捜してたんだ?警察にまで裏の組織が?
考える暇をまったく与えてくれない警察は、何故か桐生だけを連行し始める。
「お、おい!私はいいのかよ」
「何を言ってるんだ?お前も被害者だろう。お前たちはこっちだ」
「・・・お姉ちゃん・・・」
「大丈夫だ、遥」
連れて行かれる桐生の後ろを、私達は静かについて行った。
警察に連れて行かれた先は、もちろん警察署の中。
今までラウと戦っていたのが嘘のように、静かな部屋へと案内される。
取調室のような場所に入れられた私達は、とりあえずここに居てくれと言われて扉を閉められた。
その直後、外から聞こえてくる“ガチャリ”という施錠音。
「・・・・はぁ」
「お姉ちゃん・・・おじさん、どうなっちゃうの・・・?」
「大丈夫だって。私が何とかする」
確かにあの状態だと、桐生が誘拐犯だと思われてもしょうがない。
桐生はまだ仮釈放中だし、出てくるのは難しいだろう。
でもそれで、警察が正しいとも思えなかった。
これはこれで何かが動いている。絶対に。
それを証拠にこの部屋も、外から施錠するという厳重さだ。
「(警察の裏で、何かが絡んでるとしか思えねぇよな・・・)」
普通なら被害者を、軽く監禁状態にするなんてありえないのが一つ。
そしてもう一つが警察の動き。
由美さんは表ざたに出来ないから花屋の所や私の所に来たんだ・・・・それを今更、警察に頼んで捜索させるわけがない。
やっぱり、警察に絡んでる誰かがいる?錦山なのか?
それが分からない以上、ここに居続けるのは危険だ。
私はすぐに施錠された扉を揺らし、周りに人が居ないか確かめる。
「お姉ちゃん?」
「しっ・・・静かに」
扉をがちゃがちゃさせても、扉の外は静かなままだった。
どうやら今、近くに人はいないらしい。
私は遥の手を握り、一瞬迷ったが連れて行くことにした。
閉まっている扉を蹴り開けるのは、目立ってバレてしまうだろう。
自分のポケットを必死に漁り、冷たい感触を感じた私はニヤリと笑った。
「良い物みーっけ」
「っ!」
「大丈夫。ニセモンだから」
すっかり忘れてた銃を取り出し、それをじっくりと見つめる。
これは昔、情報の報酬として貰ったものだ。
本来ならお金でしか受け取らないのだが、凄腕の武器屋だと聞いたのでこれを作ってもらうことにした。
私専用の、ゴム弾銃。
取り出した銃をくるりと回した私は、遥に見えるようにして銃の頭を外す。
「ここに、大きな穴があるだろ?」
「うん」
「ここにこれを、こうやって・・・」
“私専用”の銃にある、私専用の仕掛け。
それは穴に瓶を刺すことで、薬を水鉄砲のように発射できるというもの。
私は薬をセットした銃の引き金を引き、鍵穴に薬を流し込んだ。
どろどろとした液体が、鍵穴を不気味な色で染めていく。
「見てな」
「わぁ・・・!」
薬が固まったら最後。
一瞬で偽鍵の出来上がりだ。
「魔法みたい!お姉ちゃん凄い・・・!」
「・・・ありがとな。じゃあ、行こうか」
「うん!」
簡単に開いた扉を見て、遥が嬉しそうに笑う。
それにつられ、私も小さく笑みを浮かべた。
まず向かうべき場所へと、様子を窺いながら進む。
桐生はたぶん、独房の中に閉じ込められているはずだ。
気配の無い廊下を遥と進みながら、独房の鍵を探し求める。
「(さっきの薬、もっとたくさん用意しておくんだった・・・使うなんて思ってなかったから、桐生の分が足りねぇ・・・)」
「ねぇ、お姉ちゃん!あの部屋は?」
普通の部屋とは違い、資料室のような部屋を遥は指差した。
確かに、ああいう場所なら鍵が保管してある可能性も十分高い。
私は遥の頭を軽く撫で、すぐに部屋の中へと忍び込んだ。
様々な資料で部屋が圧迫されているのか、ものすごく狭く感じる。
急いで鍵を探し始めた瞬間、後ろに気配を感じて足を止めた。
「ちっ・・・!」
咄嗟に振り返り、偽の銃を突きつける。
後ろに迫ってきていた男はそれに怯える様子を見せることなく、私の顔を見て名前を呼んだ。
声にも、顔にも見覚えがある。
でもここには居ないはず。
いや、居てはいけない存在。
「なんで伊達さんがここに・・・」
「鍵を探しにだ」
「だから何で探しに来たんだって聞いてるんだ」
伊達さんは警察だ。
鍵の場所も知ってるだろうし、このまま聞いた方が都合が良いだろう。
だが、私には分かっていた。
伊達さんが罪を犯し、桐生を助ける道を選んだことを。
表情を見ただけで分かる。どこか吹っ切れた顔をしていたから。
「伊達さん・・・お前、それでいいのかよ?」
「遅かれ早かれ、クビだったんだ」
「だからって自分で早めることないだろ?好きな、職業なんだろ?」
初めて伊達さんと会った時、私は伊達さんを真っ直ぐな刑事だと思った。
真っ直ぐな刑事は今の時代では邪魔なだけ。
捻くれたことばっかり言っているが、心は真っ直ぐ事件の真実だけを追い求める。
桐生によって人生を狂わされた。
これは伊達さんとはじめてあった時、桐生に対して口にしていた言葉だ。
確かにそうかもしれない。
桐生は罪をかぶり、背負い続けたんだ。
真実が知りたかった伊達さんにとって、アイツは予想外の存在。
「伊達さん・・・わりぃな」
扉の外に別な気配を感じた私は、容赦なく伊達さんの腹を蹴り上げた。
「ぐあっ」と苦しげな悲鳴が上がるのを、聞きながら私は大声を上げる。
わざと、外に聞こえるように。
「おい。鍵はどこだ?」
「けほっ・・・お、お前・・・」
「鍵はどこだっつってんだよ!答えねェなら・・・」
カチリ、と。
音を立てて偽の拳銃を突きつける。
伊達さんはどうして私がこのような行動を取ったのか、扉の外に映る影を見て気づいたらしい。
伊達さんが小声でそっと謝るのを聞いて、私は無言で首を振った。
そしてすぐに銃を構え、“演技”の続きを始める。
「伊達さん、せめてこの事件が終わるまでは警察でいてくれ。私は伊達さんが警察として働いてる姿・・・好きだからさ」
「あけ、おまえ・・・」
「おい!さっさと鍵の場所を教えろ!てめぇの頭、撃ち抜いたっていいんだぜ!」
「・・・こ、こっちだ」
指示す先にあった鍵を見つけ、私は別な場所を探していた遥を呼び戻した。
伊達さんに拳銃を突きつけたまま、扉の外へと移動する。
案の定、扉を開けると、そこには影の主であろう一人の警察が立っていた。
でもまぁ見る限り、あまり上の立場の人間では無いだろう。
銃を突き付けている私を見て、その男はオドオドしているだけで何もしてこようとはしない。
「お、お前、そいつを放せ!こんなことをして良いと思ってるのか!?」
「なんだそのへっぴり腰は。そんなんじゃ私は脅せねぇよ。じゃあな」
「まっ・・・まて!」
追掛けて来ようとする警察に対し、持っていた睡眠スプレーを吹き掛けた。
警察は一瞬で眠りに落ち、死んだように眠り始める。
それを見た伊達さんが、少し慌てたように私の肩を叩いた。
寝てるだけだと伝えれば、安心したように深い息を吐く。
「んじゃ、桐生を助けに行こうか」
「・・・あぁ」
慣れない警察署の中を進み、桐生の待つ独房へと向かった。
普通は、慣れたら行けないんだけどな。
しばらく無言で進んだ後、独房の中に無表情で座る桐生を見つけて声を上げる。
「桐生!」
「!?あけ・・・何でお前が」
「良いから。伊達さん、車出せる?」
「あぁ。任せとけ」
伊達さんと遥を先に行かせ、私は鉄格子の鍵を開けた。
ゆっくり出てくる桐生の手を握り、急いで伊達さんがいるであろう外を目指す。
早くいかないと、私よりも伊達さんが危ない。
まぁ、あのままだと私が悪い人になってしまうわけだが。
実際悪い事やってるわけだし、あまり気にしていなかった。
伊達さんに、謝られるまでは。
「・・・本当に悪いな、あけ」
隣を見れば、運転しながら暗い顔を浮かべる伊達さん。
気にしないでって言ったのに。まったく。
飽きれながらも、伊達さんの真面目っぷりにヤレヤレと首を振る。
真面目なんだか問題児なんだか、分からない。
私はポケットの中身を確認しながら、伊達さんに言葉を返した。
「言っただろ。私がやりたくてやったことだって」
「あけ・・・」
「あけ・・・伊達さん・・・すまない」
「あーもう、桐生。お前も謝るなって。仲間助けるのは当たり前だろーが」
後ろに座る桐生に持っていたキャンディを投げつけ、べーっと舌を出す。
桐生はそのキャンディを無愛想な顔で受け取り、袋から飴を取り出して遥に渡した。
車の中に広がる、甘いイチゴの香り。
そしてそれと同時に聞こえた、急速に近づいてくる車の音。
不審に思って窓から身を乗り出して振り返った私は、近づいてくる車の集団に慌てて窓を閉める。
「おおお、おい、伊達さん。やべぇぞ!」
「チッ・・・つけられてたか」
「どうする、伊達さん」
「桐生、あけ、これを使え」
伊達さんから投げ渡された、本物の銃。
桐生は普通に銃を構えて追手と対峙しようとしていたが、私はそうもいかなかった。
何故なら、銃が怖かったから。
偽物は偽物だから扱えるのだ。それなのに、本物なんて。
震える私に気付いたのか、桐生がそっと私の耳元に唇を近づける。
「安心しろ。いざとなったら俺が全部やってやる」
それは安心させる言葉であると同時に、私に対する“煽り”でもあった。
守られるのが嫌いな、私への。
「誰がお前なんかにやらせるかよ。お前はそっちを頼んだぜ」
「震えてるくせに、強がってんじゃねぇ」
「う・・・うるせぇ!」
下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる
(あけのド下手な射撃を見ながら、伊達は真っ直ぐ先を目指した)
PR
この記事にコメントする
サイト紹介
※転載禁止
公式とは無関係
晒し迷惑行為等あり次第閉鎖
検索避け済
◆管理人 きつつき ◆サイト傾向 ギャグ甘 裏系グロ系は注意書放置 ◆取り扱い 夢小説 ・龍如(桐生・峯・オール) ・海賊(ゾロ) ・DB(ベジータ・ピッコロ) ・テイルズ ・気まぐれ ◆Thanks! 見に来てくださってありがとうございます。拍手、コメント読ませていただいております。現在お熱なジャンルに関しては、リクエスト等あれば優先的に反映することが多いのでよろしければ拍手コメント等いただけるとやる気出ます。(龍如/オール・海賊/剣豪)
簡易ページリンク
【サイト内リンクリスト】 ★TOPページ 【如く】 ★龍如 2ページ目 維新
★龍如(峯短編集)
★龍如(連載/桐生落ち逆ハー)
【海賊】 ★海賊 さよならは言わない
★海賊 ハート泥棒
【DB】 ★DB 永遠の忠誠(原作・アニメ沿い連載) ★DB 愛知らぬが故に(原作・アニメ沿い連載) ★DB プラスマイナスゼロ(短編繋ぎ形式の中編) ★DB(短編)