いらっしゃいませ!
名前変更所
【兄さん編】
クリスマス、か。
兄さんの事務所から見下ろす神室町は、クリスマス一色に染まっていた。
私にとって、クリスマスなんて意味のない日だ。
ただ騒がしいだけ。ただ寒いだけ。
今年もまた平和に過ごす、そう思っていたのに。
まさか、こんなことになるなんて。
「な、なぁ、兄さん?」
「あ?なんや?欲しいもの、決まったんか?」
「いや・・・そうじゃなくてだな」
そう、今私は、真島の兄さんに監禁されていた。
理由は簡単。クリスマスプレゼントとして欲しいものが無かったから。
真島の兄さんに欲しい物買ってやるって言われて、無いって言ったらこの有様ってわけだ。
思いつくまでは、帰して貰えそうにない。
楽しそうに笑う兄さんの顔が、私の心を惑わしていく。
「なー、あけちゃん。なんでも言いや!何でもこうたるわ」
兄さんって、本当に全部買っちゃいそうだから怖いんだよ。
だけどこのままじゃ、本当に帰して貰えそうにない。
私は神室町の景色を見つめながら、何を買ってもらうか真剣に考えた。
「そんなに悩むもんなんか?」
「当たり前だろ。そんな、高価なもんばっかり買ってもらえねぇよ」
「なんや・・・遠慮ばっかりやなぁ・・・」
「・・・私は、こうやって、兄さんといられるだけで良い」
ぶっきらぼうに言ったけど、本当の気持ちだ。
私は、兄さんと居られればそれで良い。
座っていた兄さんが近づいてくるのを感じて、私はぎゅっと目を瞑った。
後ろからぎゅっと抱きしめられ、耳元に兄さんの唇が近づけられる。
フッと掛けられた熱い吐息に、自然と口から吐息が漏れるのを感じた。
「っぁ・・・!」
「なんや・・・恥ずかしいこと、言うやないか」
「・・・ほんとの、ことだ」
「じゃあ、わしへのプレゼントも、もろおうか」
「ん?」
振り返る暇も、与えてはくれない。
真正面を無理やり向かされた私の唇は、一瞬にして兄さんに奪われていた。
優しい口付けが、容赦なく私の思考を奪っていく。
息が苦しくなって胸を叩くと、兄さんは案外素直に唇を放してくれた。
しかし、ホッとしたのも束の間。
「これで足りるわけないやろ・・・もっとや」
「んんっ!?」
侵入してくる舌が、私の口の中を我が物顔で動き回る。
駄目だ。身体が痺れて動かない。
「んぁっ・・・は・・・!」
「どうしたんや?もう降参か?」
「うるっせ・・・」
「・・・こっち向けや、あけ」
「ッ・・・」
鼓膜を直接刺激する、低い兄さんの声。
その声を聞くだけで身体が動かなくなって、何も考えられなくなる。
いつもの飄々とした声も、表情も、今の兄さんにはまったく無い。
そうやって急に真面目になるところが、私は大嫌いだ。
カッコ良すぎて、頭が可笑しくなるから。
そんな私の気持ちさえ、兄さんにはバレバレなんだろう。
「兄さ・・・」
「違うやろ?」
「・・・五郎・・・」
「そうや。それでええ。・・・愛してるで、あけ」
「わ・・・私も、だ・・・」
兄さんとのクリスマス。
それは誰にも見せられないぐらい、甘さに狂わされる夜だった。
「いいんか?わしに着いてきたら・・・危険やで」
「自分の女になれってしつこかったくせに、いざなったらそれかよ?」
「ほう・・・それだけ口がきけるっちゅうことは、もう1回いけそうやな?」
「え、ちょ、まっ・・・!?」
どんなに、危険でも、私はこの人と居られればそれで。それだけで。
――――――――幸せ、なんだ。
【龍司編】
「りゅ、龍司・・・?」
「なんや」
「あの・・・さ。そろそろ放してくれねぇかな」
「寒いんやないんかい」
「さ、寒いけど・・・」
「なら、このままでええ」
「・・・」
龍司の部屋のソファで、二人きり。
それだけなら良いんだけどさ、何なんだろうかこの状況は。
最初は普通に座っていたのに、私が寒いって言ってから、龍司に抱きかかえられるように座るハメになった。
言わなければ良かったと、後悔するまでものの数秒。
放してと言っても放してくれないし、時々耳元を擽る息が背筋をぞわっとさせる。
「龍司・・・っ。くすぐったい、って・・・!」
「ったく、静かにしろや。テレビ、何も聞こえんやろ」
「だー!じゃあ離せッ!はーなーせー・・・ひっ!」
私を抱きかかえていた腕が、撫でるように私の足を這った。
突然の感覚に、自分が思っていた以上の声が上がる。
力づくで逃げようにも、あの龍司から力で逃げられるわけがない。
足を撫でていた手が腰に移動し、そこから背中へと回る。
悔しくて唇を噛みしめれば、声を出せと命令するかのように激しさを増した。
「ッ、く、ぅ・・・!」
「どないしたんや?そないな顔しよって」
「お前ッ・・・やめ・・・!」
「ふっ・・・いつもの顔とは、大違いやな」
馬鹿にされてる。なのに抵抗出来ない。
悔しさ紛れに立てた爪も、叩きつけた拳も、何一つ龍司には効いていなかった。
快感に酔わされ、静かになった私を龍司の大きな手が撫でる。
悔しいけど、私はこの龍司の優しい手が嫌いではなかった。
「どうしたんや?」
「ん・・・なんでもねぇよ」
あの時の龍司とは、まったく変わってしまった今の龍司。
良いおじさんって言ったら怒られるが、本当にその通りだし。
まぁ、歳的には良い“お兄さん”か。
だからこそ、安心して心を預けられるのかもしれない。
強がってる自分を、全て投げ捨てて。
「龍司・・・寒い」
「こっちに来いや。嫌になるぐらい暖めたる」
「ふっう・・・」
抱きしめて、キスされているだけなのに。
それだけで身体が熱くなりはじめ、狂わされていくのが分かった。
今日が特別な日だから、かもしれない。
二人きりのクリスマス。誰にも邪魔はされないから。
私は自ら龍司の首に手を回すと、自分が押し倒されるような形で龍司を私に覆い被らせた。
「なんや・・・誘っとんのか?」
「・・・うる、せぇ」
「ええなぁ、その表情。さすがはわしの女や」
「あ、ばか、待てって・・・!」
「ん?なんや?お前から誘ったんやろうが」
「せ、せめてベッドとか、電気消すとか・・・さ?」
いつも恋人らしいことしてあげれなかったから、クリスマスの日にだけでもやろうと思った私が間違いだった。
電気がつけっ放しのリビングで、龍司の目はもう戦闘状態そのもの。
手を外そうとしても、服を脱がしに掛かる手は止まらない。
「りゅ、龍司ッ・・・!」
「今日はたっぷり、全てを味わったるわ」
「ッ・・・!」
明るい場所での、そういう行為。
恥ずかしさの中で囁かれた言葉に、私は自然と抵抗することが出来なくなっていた。
これが、惚れた弱みなのか。
苦笑する私をそっと撫でた龍司は、誰にも見せない優しい笑みを浮かべてくれた。
「誰にも渡さへんからな・・・あけ。お前は、ワシのもんや」
【秋山編】
高級ホテルの最上階。
スイートルームって呼ばれるのかな、こういう所って。
とまぁ、こんな感じに知識のまったくない私が、何でこんな所にいるのかというと。
「どうしたの?あけちゃん。窓の外ばっかり見ちゃって」
「何でもねぇよ」
「そう?」
今日がクリスマスということで、秋山に連れてこられたのだ。
こういう所が、苦手だって分かってるくせに。
しかもほぼ素っ裸のまま部屋に居るところを見ると、確信犯すぎてイライラしてくる。
私は窓の外を見ながら、極力バスローブ姿の秋山を見ないよう気を付けた。
がっしりとした身体つき。見ているだけでこっちが恥ずかしい。
「・・・」
「こっちに来なよ、あけちゃん」
「っ~~~・・・!だったらまず、服を着ろ!」
「着てるだろ?ほら」
バスローブを着てるとはいえ、前をほぼ開けた状態の姿は目に毒だった。
直視することが出来なくて目を逸らせば、気づいた秋山がクスッと笑う。
ああ、もう。だからこいつには勝てないんだ。
いつも秋山は私の弱点を知っていて、その上でこうやった意地悪をする。
抵抗なんて許されず、私はされるがまま。
「ほんと、むかつく奴」
「おいおい。こういう日ぐらい、素直になろうぜ?」
「っわ・・・!」
呆気無くベッドに引きずり込まれた私は、降参とばかりにため息を吐いた。
向き合うように抱き合い、何もしてこない秋山をそっと見上げる。
「ん?どうしたの?あけちゃん」
「・・・な、なんでも、ない・・・」
何もしてこないのかと思って。
なんて言ったら、まるで期待してるみたいだ。
そんなことを言ったら思う壺だと、私は慌てて口を閉ざす。
でもきっと気づいてるんだろうな。秋山は。
「あけちゃん」
「なんだ?」
「・・・あけ」
「ッ・・・!何度も呼ぶな、秋山・・・」
私が今何を望んでいるのかも、私が何に恥ずかしがっているのかも。
それを証拠に、秋山は私の頭を自分自身の胸板へ押し付けた。
彼の温もりが、直接私の肌に伝わる。
恥ずかしくて逃げたいのに、温もりが優しくて逃げ出すことが出来ない。
「・・・・」
「あけちゃん。これからもずっと・・・俺の傍にいてくれるよね?」
「何言ってんだよ・・・当たり前だろ」
「まぁ、そうだよねぇ。俺があけちゃんのこと、放さないし」
「だったら言うなよな」
「特別な日だから良いだろ?これぐらい。まったくあけちゃんも、素直じゃないんだからさ」
反論しようとした瞬間、唇を秋山に塞がれた。
もちろん、秋山自身の唇で。
柔らかい唇が私の唇を味わうように塞ぎ、そのまま口の中に舌が入ってくる。
そこからはもう、翻弄されるだけだった。
私はただ、襲い来る快感に身を捩り、秋山にしがみ付くだけ。
秋山はそれを見て、私の唇を嬉しそうに味わっていた。
「んっ・・・ぷはっ・・・はぁっ・・・!」
「してほしかったんだろ?」
「んなわけっ・・・!」
「そっか・・・じゃあ、もういらない?」
やっぱり駄目だ。私はこいつに敵わない。
諦めた私は秋山の胸にしがみ付くと、強請るように秋山の方へ唇を寄せた。
一瞬驚いた表情を浮かべた秋山も、すぐに表情を戻して私の唇を塞ぐ。
いつも馬鹿にされて、敵わないけど、私はこいつが大好きだ。
それこそ、言葉にしたことはないけどな。
「秋山」
「なんだい?」
「・・・なんでもない」
「あけちゃん」
「んー?」
「愛してるぜ」
「・・・・っ。あ・・・あぁ」
飄々としてるのに、どうしてこんなにもかっこよく感じるんだろう。
恥ずかしさのあまり目を瞑った私は、バレないように小さな声でつぶやいた。
“メリークリスマス。愛してるよ・・・秋山”
聞こえるはずのない、小さな小さな告白。
でも秋山は応えるかのようにそっと私を抱きしめ、「俺もだよ」と小さく囁き返してくれた。
「お、おま・・・え・・」
「聞こえないと思ったのかい?馬鹿だねぇ。俺はあけちゃんが俺にくれる言葉、一つも逃したくないんだよ」
・・・・あぁ、やっぱり。
こいつには一生、勝てないだろうな、私は。
【桐生編】
※エロ表現がかなり強いので苦手な方はご注意ください
暴れる快楽、抵抗できない状況。
逃れることのできない、辱め。
私はただ歯を食いしばり続け、耐える道を選ぶしかなかった。
今日はクリスマス。
そのため、子供たちにご馳走を食べさせようと商店街に私達は来ていた。
それだけなら、良いんだけど。
私の思考は今現在、正常に働いていなかった。
何故なら私の身体には、絶えず快楽を生み出す玩具が入れられていたから。
「ッ・・・!」
「おい?あけ、聞いてるのか?」
「あ、あぁ。わ・・・りぃ」
「まったくもう、お二人さんはラブラブねぇ」
何も知らないお店のおばさんが、桐生にしがみ付く私を見てそう言う。
でもこれは、そんなんじゃないんだ。
快楽から逃れるための、必死の抵抗。
そもそも、こうなったのには理由があった。
私が悪いって言えば、悪いんだけどさ。
クリスマスは二人で過ごそうって言っておいて、私が忘れてしまったのが全ての原因。
それに怒った桐生を落ち着かせようとして言った言葉が、今のこの私の状況を作り出していた。
“何でもするから、怒るなって”
そう、この一言が。
私をこの辱めと快楽の波のどん底へと突き落としたのだ。
「はっ・・ぅっ・・・!」
「どうしたんだい?姉ちゃん。具合でも悪いのかい?」
「い、や・・・違う。ちょっと、疲れた、だけだ」
「あらそう。じゃあ、疲れにきくコイツもおまけしとくよ!」
「あり、がと・・・」
息も絶え絶え、私は必死に言葉を紡いだ。
弱まったり強まったりする玩具が、私の正常な思考を奪い去ろうとする。
でもこんな所で、奪い去られるわけにはいかない。
どんな回避方法をとっても屈辱しか残らないこの状況に、私は強く桐生の腕に爪を立てた。
瞬間、突然玩具の震動が激しさを増す。
思わず声を上げてしまいそうになった私は、震える声で桐生に縋り付いた。
勝てない。勝とうとしちゃいけない。
「ごめ、ん、なさ・・・っ!わる、かったから・・・!」
「どうした?今日は随分と弱弱しいな?」
「ッ・・・!くっそ・・・!」
私が快楽に耐えている間、桐生は手早く買い物を済ませていた。
後は遥に、買い物をした荷物を持って帰らせるだけ。
人通りの多い橋で、二人並んで遥を待つ。
この買い物が終われば、一先ずはこの辱めから解放されるはずだ。
そこから夕方まで何されようが、このままの状態よりはずっとマシである。
「っは・・・」
「フッ。良い顔するじゃねぇか」
「うる、っせぇよ・・・。早く、もう、やめ・・・」
「まだだ。買い物が終わるまでの約束だろ」
「ぅあっ!?んぐっ・・・!」
突然跳ね上がった快感に、私は慌てて口を塞いだ。
睨み付けても、まったく意味を成さないこの状況。
私は必死に唇を噛みしめ、桐生の腕にしがみついた。
震える身体が、誰かにバレてしまうかもしれないこの状況が。
どうしようもなく、私の思考をおかしくさせる。
早く。早く解放されたい。
その一心で、私は桐生に大人しく従い続けた。
逆らったら酷くされる、ってのもあるけど。
「っ、ふっ・・・」
「それにしても、まったく逃げ出そうとしないってのも、珍しいな」
「お前が、そうさせないように、してんだろっ・・・・」
「そうか?お前ならお得意の薬で逃げることもできるだろ?」
「それ、はっ・・・」
確かに、っていう気持ちと。
どうせその後倍返しにされる、ってのと。
色々な考えが混ざり合い、私は何も言わないことにした。
今の頭が働かない状態で言ったら、きっとすぐ反撃を食らう。
私は静かに顔を隠し、そして向こう側から走ってくる遥を見つけて気を緩めた。
「おじさん!お姉ちゃん!」
「遥・・・。これ、預けても大丈夫か?」
「うん!おじさんは、これからどうするの?」
遥の質問に、私が口を挟む暇もなく桐生が答える。
「俺はこれから、あけと少し街を歩いてくる」
「クリスマスだもんね!ご飯の支度して待ってるから、ゆっくりしてきていいよ!」
「ありがとうな、遥」
「ううん!じゃあ、楽しんできてね!」
「あぁ」
本当に遥は良い子だなぁ。
状況を忘れてそんなことを考えていた私は、また襲ってきた快楽に身体を震わせた。
もちろん、この後どうなるかなんて分かってる。
逃げられないことも、もう十分分かってるから。
「良いのか?時間はあんまりないが・・・手加減はしねぇぜ?」
「・・・いい、ぜ。クリスマス・・・だしな」
「あけ」
「んっ・・・!」
震える身体を抱きかかえるようにして、優しく落とされる口付け。
これだから、こいつには狂わされるんだ。
意地悪なくせに、私の強気な部分をことごとく打ち砕く癖に。
優しくて、弱い部分も全て包み込んでくれる・・・だから、勝てない。
「桐生・・・あ、のよ・・・」
「なんだ?」
「ずっと、傍に・・・いて、くれ」
「逃がさねぇよ。お前が逃げたいって言ってもな」
「・・・・あぁ」
「愛してるぜ、あけ。お前は一生・・・俺のものだ」
桐生に翻弄され続けるなら、私は。
それでもいいかなって思うんだ。
彼になら、狂わされても・・・。
いや、狂わされたい。
壊れるまで、名前を呼んで。
「あけ・・・ッ」
「はぁ、あぁっ・・・!かず、まぁっ・・・!」
「壊してやるよ。だから、俺だけに、声を聴かせろッ・・・!」
壊れるまで。
壊れても、ずっと。
クリスマス、か。
兄さんの事務所から見下ろす神室町は、クリスマス一色に染まっていた。
私にとって、クリスマスなんて意味のない日だ。
ただ騒がしいだけ。ただ寒いだけ。
今年もまた平和に過ごす、そう思っていたのに。
まさか、こんなことになるなんて。
「な、なぁ、兄さん?」
「あ?なんや?欲しいもの、決まったんか?」
「いや・・・そうじゃなくてだな」
そう、今私は、真島の兄さんに監禁されていた。
理由は簡単。クリスマスプレゼントとして欲しいものが無かったから。
真島の兄さんに欲しい物買ってやるって言われて、無いって言ったらこの有様ってわけだ。
思いつくまでは、帰して貰えそうにない。
楽しそうに笑う兄さんの顔が、私の心を惑わしていく。
「なー、あけちゃん。なんでも言いや!何でもこうたるわ」
兄さんって、本当に全部買っちゃいそうだから怖いんだよ。
だけどこのままじゃ、本当に帰して貰えそうにない。
私は神室町の景色を見つめながら、何を買ってもらうか真剣に考えた。
「そんなに悩むもんなんか?」
「当たり前だろ。そんな、高価なもんばっかり買ってもらえねぇよ」
「なんや・・・遠慮ばっかりやなぁ・・・」
「・・・私は、こうやって、兄さんといられるだけで良い」
ぶっきらぼうに言ったけど、本当の気持ちだ。
私は、兄さんと居られればそれで良い。
座っていた兄さんが近づいてくるのを感じて、私はぎゅっと目を瞑った。
後ろからぎゅっと抱きしめられ、耳元に兄さんの唇が近づけられる。
フッと掛けられた熱い吐息に、自然と口から吐息が漏れるのを感じた。
「っぁ・・・!」
「なんや・・・恥ずかしいこと、言うやないか」
「・・・ほんとの、ことだ」
「じゃあ、わしへのプレゼントも、もろおうか」
「ん?」
振り返る暇も、与えてはくれない。
真正面を無理やり向かされた私の唇は、一瞬にして兄さんに奪われていた。
優しい口付けが、容赦なく私の思考を奪っていく。
息が苦しくなって胸を叩くと、兄さんは案外素直に唇を放してくれた。
しかし、ホッとしたのも束の間。
「これで足りるわけないやろ・・・もっとや」
「んんっ!?」
侵入してくる舌が、私の口の中を我が物顔で動き回る。
駄目だ。身体が痺れて動かない。
「んぁっ・・・は・・・!」
「どうしたんや?もう降参か?」
「うるっせ・・・」
「・・・こっち向けや、あけ」
「ッ・・・」
鼓膜を直接刺激する、低い兄さんの声。
その声を聞くだけで身体が動かなくなって、何も考えられなくなる。
いつもの飄々とした声も、表情も、今の兄さんにはまったく無い。
そうやって急に真面目になるところが、私は大嫌いだ。
カッコ良すぎて、頭が可笑しくなるから。
そんな私の気持ちさえ、兄さんにはバレバレなんだろう。
「兄さ・・・」
「違うやろ?」
「・・・五郎・・・」
「そうや。それでええ。・・・愛してるで、あけ」
「わ・・・私も、だ・・・」
兄さんとのクリスマス。
それは誰にも見せられないぐらい、甘さに狂わされる夜だった。
「いいんか?わしに着いてきたら・・・危険やで」
「自分の女になれってしつこかったくせに、いざなったらそれかよ?」
「ほう・・・それだけ口がきけるっちゅうことは、もう1回いけそうやな?」
「え、ちょ、まっ・・・!?」
どんなに、危険でも、私はこの人と居られればそれで。それだけで。
――――――――幸せ、なんだ。
【龍司編】
「りゅ、龍司・・・?」
「なんや」
「あの・・・さ。そろそろ放してくれねぇかな」
「寒いんやないんかい」
「さ、寒いけど・・・」
「なら、このままでええ」
「・・・」
龍司の部屋のソファで、二人きり。
それだけなら良いんだけどさ、何なんだろうかこの状況は。
最初は普通に座っていたのに、私が寒いって言ってから、龍司に抱きかかえられるように座るハメになった。
言わなければ良かったと、後悔するまでものの数秒。
放してと言っても放してくれないし、時々耳元を擽る息が背筋をぞわっとさせる。
「龍司・・・っ。くすぐったい、って・・・!」
「ったく、静かにしろや。テレビ、何も聞こえんやろ」
「だー!じゃあ離せッ!はーなーせー・・・ひっ!」
私を抱きかかえていた腕が、撫でるように私の足を這った。
突然の感覚に、自分が思っていた以上の声が上がる。
力づくで逃げようにも、あの龍司から力で逃げられるわけがない。
足を撫でていた手が腰に移動し、そこから背中へと回る。
悔しくて唇を噛みしめれば、声を出せと命令するかのように激しさを増した。
「ッ、く、ぅ・・・!」
「どないしたんや?そないな顔しよって」
「お前ッ・・・やめ・・・!」
「ふっ・・・いつもの顔とは、大違いやな」
馬鹿にされてる。なのに抵抗出来ない。
悔しさ紛れに立てた爪も、叩きつけた拳も、何一つ龍司には効いていなかった。
快感に酔わされ、静かになった私を龍司の大きな手が撫でる。
悔しいけど、私はこの龍司の優しい手が嫌いではなかった。
「どうしたんや?」
「ん・・・なんでもねぇよ」
あの時の龍司とは、まったく変わってしまった今の龍司。
良いおじさんって言ったら怒られるが、本当にその通りだし。
まぁ、歳的には良い“お兄さん”か。
だからこそ、安心して心を預けられるのかもしれない。
強がってる自分を、全て投げ捨てて。
「龍司・・・寒い」
「こっちに来いや。嫌になるぐらい暖めたる」
「ふっう・・・」
抱きしめて、キスされているだけなのに。
それだけで身体が熱くなりはじめ、狂わされていくのが分かった。
今日が特別な日だから、かもしれない。
二人きりのクリスマス。誰にも邪魔はされないから。
私は自ら龍司の首に手を回すと、自分が押し倒されるような形で龍司を私に覆い被らせた。
「なんや・・・誘っとんのか?」
「・・・うる、せぇ」
「ええなぁ、その表情。さすがはわしの女や」
「あ、ばか、待てって・・・!」
「ん?なんや?お前から誘ったんやろうが」
「せ、せめてベッドとか、電気消すとか・・・さ?」
いつも恋人らしいことしてあげれなかったから、クリスマスの日にだけでもやろうと思った私が間違いだった。
電気がつけっ放しのリビングで、龍司の目はもう戦闘状態そのもの。
手を外そうとしても、服を脱がしに掛かる手は止まらない。
「りゅ、龍司ッ・・・!」
「今日はたっぷり、全てを味わったるわ」
「ッ・・・!」
明るい場所での、そういう行為。
恥ずかしさの中で囁かれた言葉に、私は自然と抵抗することが出来なくなっていた。
これが、惚れた弱みなのか。
苦笑する私をそっと撫でた龍司は、誰にも見せない優しい笑みを浮かべてくれた。
「誰にも渡さへんからな・・・あけ。お前は、ワシのもんや」
【秋山編】
高級ホテルの最上階。
スイートルームって呼ばれるのかな、こういう所って。
とまぁ、こんな感じに知識のまったくない私が、何でこんな所にいるのかというと。
「どうしたの?あけちゃん。窓の外ばっかり見ちゃって」
「何でもねぇよ」
「そう?」
今日がクリスマスということで、秋山に連れてこられたのだ。
こういう所が、苦手だって分かってるくせに。
しかもほぼ素っ裸のまま部屋に居るところを見ると、確信犯すぎてイライラしてくる。
私は窓の外を見ながら、極力バスローブ姿の秋山を見ないよう気を付けた。
がっしりとした身体つき。見ているだけでこっちが恥ずかしい。
「・・・」
「こっちに来なよ、あけちゃん」
「っ~~~・・・!だったらまず、服を着ろ!」
「着てるだろ?ほら」
バスローブを着てるとはいえ、前をほぼ開けた状態の姿は目に毒だった。
直視することが出来なくて目を逸らせば、気づいた秋山がクスッと笑う。
ああ、もう。だからこいつには勝てないんだ。
いつも秋山は私の弱点を知っていて、その上でこうやった意地悪をする。
抵抗なんて許されず、私はされるがまま。
「ほんと、むかつく奴」
「おいおい。こういう日ぐらい、素直になろうぜ?」
「っわ・・・!」
呆気無くベッドに引きずり込まれた私は、降参とばかりにため息を吐いた。
向き合うように抱き合い、何もしてこない秋山をそっと見上げる。
「ん?どうしたの?あけちゃん」
「・・・な、なんでも、ない・・・」
何もしてこないのかと思って。
なんて言ったら、まるで期待してるみたいだ。
そんなことを言ったら思う壺だと、私は慌てて口を閉ざす。
でもきっと気づいてるんだろうな。秋山は。
「あけちゃん」
「なんだ?」
「・・・あけ」
「ッ・・・!何度も呼ぶな、秋山・・・」
私が今何を望んでいるのかも、私が何に恥ずかしがっているのかも。
それを証拠に、秋山は私の頭を自分自身の胸板へ押し付けた。
彼の温もりが、直接私の肌に伝わる。
恥ずかしくて逃げたいのに、温もりが優しくて逃げ出すことが出来ない。
「・・・・」
「あけちゃん。これからもずっと・・・俺の傍にいてくれるよね?」
「何言ってんだよ・・・当たり前だろ」
「まぁ、そうだよねぇ。俺があけちゃんのこと、放さないし」
「だったら言うなよな」
「特別な日だから良いだろ?これぐらい。まったくあけちゃんも、素直じゃないんだからさ」
反論しようとした瞬間、唇を秋山に塞がれた。
もちろん、秋山自身の唇で。
柔らかい唇が私の唇を味わうように塞ぎ、そのまま口の中に舌が入ってくる。
そこからはもう、翻弄されるだけだった。
私はただ、襲い来る快感に身を捩り、秋山にしがみ付くだけ。
秋山はそれを見て、私の唇を嬉しそうに味わっていた。
「んっ・・・ぷはっ・・・はぁっ・・・!」
「してほしかったんだろ?」
「んなわけっ・・・!」
「そっか・・・じゃあ、もういらない?」
やっぱり駄目だ。私はこいつに敵わない。
諦めた私は秋山の胸にしがみ付くと、強請るように秋山の方へ唇を寄せた。
一瞬驚いた表情を浮かべた秋山も、すぐに表情を戻して私の唇を塞ぐ。
いつも馬鹿にされて、敵わないけど、私はこいつが大好きだ。
それこそ、言葉にしたことはないけどな。
「秋山」
「なんだい?」
「・・・なんでもない」
「あけちゃん」
「んー?」
「愛してるぜ」
「・・・・っ。あ・・・あぁ」
飄々としてるのに、どうしてこんなにもかっこよく感じるんだろう。
恥ずかしさのあまり目を瞑った私は、バレないように小さな声でつぶやいた。
“メリークリスマス。愛してるよ・・・秋山”
聞こえるはずのない、小さな小さな告白。
でも秋山は応えるかのようにそっと私を抱きしめ、「俺もだよ」と小さく囁き返してくれた。
「お、おま・・・え・・」
「聞こえないと思ったのかい?馬鹿だねぇ。俺はあけちゃんが俺にくれる言葉、一つも逃したくないんだよ」
・・・・あぁ、やっぱり。
こいつには一生、勝てないだろうな、私は。
【桐生編】
※エロ表現がかなり強いので苦手な方はご注意ください
暴れる快楽、抵抗できない状況。
逃れることのできない、辱め。
私はただ歯を食いしばり続け、耐える道を選ぶしかなかった。
今日はクリスマス。
そのため、子供たちにご馳走を食べさせようと商店街に私達は来ていた。
それだけなら、良いんだけど。
私の思考は今現在、正常に働いていなかった。
何故なら私の身体には、絶えず快楽を生み出す玩具が入れられていたから。
「ッ・・・!」
「おい?あけ、聞いてるのか?」
「あ、あぁ。わ・・・りぃ」
「まったくもう、お二人さんはラブラブねぇ」
何も知らないお店のおばさんが、桐生にしがみ付く私を見てそう言う。
でもこれは、そんなんじゃないんだ。
快楽から逃れるための、必死の抵抗。
そもそも、こうなったのには理由があった。
私が悪いって言えば、悪いんだけどさ。
クリスマスは二人で過ごそうって言っておいて、私が忘れてしまったのが全ての原因。
それに怒った桐生を落ち着かせようとして言った言葉が、今のこの私の状況を作り出していた。
“何でもするから、怒るなって”
そう、この一言が。
私をこの辱めと快楽の波のどん底へと突き落としたのだ。
「はっ・・ぅっ・・・!」
「どうしたんだい?姉ちゃん。具合でも悪いのかい?」
「い、や・・・違う。ちょっと、疲れた、だけだ」
「あらそう。じゃあ、疲れにきくコイツもおまけしとくよ!」
「あり、がと・・・」
息も絶え絶え、私は必死に言葉を紡いだ。
弱まったり強まったりする玩具が、私の正常な思考を奪い去ろうとする。
でもこんな所で、奪い去られるわけにはいかない。
どんな回避方法をとっても屈辱しか残らないこの状況に、私は強く桐生の腕に爪を立てた。
瞬間、突然玩具の震動が激しさを増す。
思わず声を上げてしまいそうになった私は、震える声で桐生に縋り付いた。
勝てない。勝とうとしちゃいけない。
「ごめ、ん、なさ・・・っ!わる、かったから・・・!」
「どうした?今日は随分と弱弱しいな?」
「ッ・・・!くっそ・・・!」
私が快楽に耐えている間、桐生は手早く買い物を済ませていた。
後は遥に、買い物をした荷物を持って帰らせるだけ。
人通りの多い橋で、二人並んで遥を待つ。
この買い物が終われば、一先ずはこの辱めから解放されるはずだ。
そこから夕方まで何されようが、このままの状態よりはずっとマシである。
「っは・・・」
「フッ。良い顔するじゃねぇか」
「うる、っせぇよ・・・。早く、もう、やめ・・・」
「まだだ。買い物が終わるまでの約束だろ」
「ぅあっ!?んぐっ・・・!」
突然跳ね上がった快感に、私は慌てて口を塞いだ。
睨み付けても、まったく意味を成さないこの状況。
私は必死に唇を噛みしめ、桐生の腕にしがみついた。
震える身体が、誰かにバレてしまうかもしれないこの状況が。
どうしようもなく、私の思考をおかしくさせる。
早く。早く解放されたい。
その一心で、私は桐生に大人しく従い続けた。
逆らったら酷くされる、ってのもあるけど。
「っ、ふっ・・・」
「それにしても、まったく逃げ出そうとしないってのも、珍しいな」
「お前が、そうさせないように、してんだろっ・・・・」
「そうか?お前ならお得意の薬で逃げることもできるだろ?」
「それ、はっ・・・」
確かに、っていう気持ちと。
どうせその後倍返しにされる、ってのと。
色々な考えが混ざり合い、私は何も言わないことにした。
今の頭が働かない状態で言ったら、きっとすぐ反撃を食らう。
私は静かに顔を隠し、そして向こう側から走ってくる遥を見つけて気を緩めた。
「おじさん!お姉ちゃん!」
「遥・・・。これ、預けても大丈夫か?」
「うん!おじさんは、これからどうするの?」
遥の質問に、私が口を挟む暇もなく桐生が答える。
「俺はこれから、あけと少し街を歩いてくる」
「クリスマスだもんね!ご飯の支度して待ってるから、ゆっくりしてきていいよ!」
「ありがとうな、遥」
「ううん!じゃあ、楽しんできてね!」
「あぁ」
本当に遥は良い子だなぁ。
状況を忘れてそんなことを考えていた私は、また襲ってきた快楽に身体を震わせた。
もちろん、この後どうなるかなんて分かってる。
逃げられないことも、もう十分分かってるから。
「良いのか?時間はあんまりないが・・・手加減はしねぇぜ?」
「・・・いい、ぜ。クリスマス・・・だしな」
「あけ」
「んっ・・・!」
震える身体を抱きかかえるようにして、優しく落とされる口付け。
これだから、こいつには狂わされるんだ。
意地悪なくせに、私の強気な部分をことごとく打ち砕く癖に。
優しくて、弱い部分も全て包み込んでくれる・・・だから、勝てない。
「桐生・・・あ、のよ・・・」
「なんだ?」
「ずっと、傍に・・・いて、くれ」
「逃がさねぇよ。お前が逃げたいって言ってもな」
「・・・・あぁ」
「愛してるぜ、あけ。お前は一生・・・俺のものだ」
桐生に翻弄され続けるなら、私は。
それでもいいかなって思うんだ。
彼になら、狂わされても・・・。
いや、狂わされたい。
壊れるまで、名前を呼んで。
「あけ・・・ッ」
「はぁ、あぁっ・・・!かず、まぁっ・・・!」
「壊してやるよ。だから、俺だけに、声を聴かせろッ・・・!」
壊れるまで。
壊れても、ずっと。
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