いらっしゃいませ!
名前変更所
祇園は夜でも、賑やかだ。
男たちが騒ぎを起こし、女と戯れ、金で遊ぶ。
これが、お金の町――――――――祇園。
「・・・・」
遊女として働く女性も多い中、祇園の夜に一人、あけは星を眺めていた。
腰に差してある二刀の刀が、彼女を普通の人間じゃないと教えている。
それもそうだ。彼女は祇園では珍しい「なんでも屋」をしているのだから。
しかも彼女の腕は、そんじゃそこらの男よりは立つ。
あけは身軽な動きで屋根の上に飛び乗ると、息を吐きながら刀を抜いた。
「桐生・・・」
桐生という男とは、彼が祇園に来たときからの仲である。 最初は気が合うということだけで遊んでいたのだが、次第に彼の仕事を手伝うようになっていた。
宮本武蔵のこと。遊女のお遥のこと。吉野のこと。
それが“なんでも屋”として手伝っているのか、それとも“自分自身”として手伝いたいのか、次第に分からなくなっていた。
「はぁ・・・」
何でも屋というからには、汚い仕事もたくさんしてきた。
だからこそ、こんなことは滅多にないと思っていたのに。
桐生・・・いや、武蔵。
彼のことで頭がいっぱいになる。彼のことが絡むと、他の仕事が狂って行く。
まぁでも願いなんて、もう壊れてしまった後なんだけど。
「吉野を、身請けしたんだな・・・アイツ」
あけは不貞腐れた顔をしながら、抜いた刀の手入れを始めた。
気が合うと言いながらきっと、一目惚れしていたんだろうと自分に苦笑する。
「・・・・かなわねぇって、ことか」
手入れをした刀が、月明かりに照らされて輝きを放つ。
そしてゆっくりその刀を置くと、後ろから感じた気配に眉をひそめた。
あけの後ろに立つ、一人の男。
振り返らなくてもその正体を知っていたあけは、振り返りざまに口を開いた。
後ろの男も、気づかれているのを分かっていたとばかりに刀を下す。
「よぉ、何の用だ?・・・桐生」
「お前こそ、こんな所でぼんやりしてるのは珍しいじゃねぇか」
「・・・ほっとけ」
桐生から決着の時が来たと聞かされていたあけは、桐生が会いに来てくれるとは思わず、少し驚いていた。
隣に座る桐生の顔を、見ることは出来ない。
どんな表情をしているのかは気になったが、目を合わせたら自分が壊れそうな気がして、合わせることが出来なかった。
「・・・いつ、行くんだ?」
「夜が明ける前に、出ようと思う」
「もうすぐじゃねぇか。どうして私のところなんかに来たんだよ」
最後の別れを告げる相手に、自分はふさわしくないはずだ。
あけは手に持っていた袋から飴を取り出すと、桐生の方に向かって放り投げた。
「落ち着くぜ。食えよ」
「お前にしては、気が利くじゃねぇか」
「んだとこら!」
「おっと」
桐生の軽口にあけが手を上げる。
もちろんそんな攻撃が当たるわけもなく、桐生は笑いながらあけの手を受け止めた。
昔のタラシだったころの桐生からは想像できなかった、剣士としての表情。
思わず目を合わせてしまいそうになったあけは、桐生と手を合わせたまま、誤魔化すように空を見上げた。
手から伝わってくる温もりが、もどかしくも恥ずかしい。
いつもなら握られた手を離すあけも、今日だけは何故か放すことが出来なかった。
放してほしくない。でも、放さなきゃいけないと思う自分がいる。
桐生も黙り込んだまま、手を放そうとはしなかった。
「・・・吉野だっけ?アイツのこと身請けしたんだろ?」
あけの質問に、桐生はまったく返事を返そうとしない。
構わずあけは話を続け、気を紛らわすように話を続けた。
「綺麗なやつだったよなー。まさか遊び人のお前が、身請けするなんて」
「・・・・」
「まったく、見せつけてくれるよなぁ。羨ましいぜ」
「・・・あけ」
「女って良いよな・・・私なんかもう、女を捨てたようなもんだ」
「あけ!」
いつもは「お前」だとか「アンタ」としか呼ばない桐生が、話を続けるあけに名前を叫んだ。
驚いたあけは話を止め、無言でそっと手を放そうとする。
しかし、それを桐生は許さなかった。
放そうとした手は無理やり掴まれ、あけの身体は桐生の方へと引き寄せられる。
驚いてバランスを崩してしまったあけは、そのまま桐生の腕の中に飛び込んだ。
「お、おい、何すんだっ!」
「うるせぇ。黙ってろ」
「・・・お、おまえ・・・」
桐生の鋭い命令口調に、言い返すことが出来ない。
気迫に押されて動けないあけを見て、桐生は満足そうな笑みを浮かべた。
「桐生・・・?」
掴んでいた手を無理やり広げられ、その上に何かを置かれる。
あけは桐生と手の上の物を交互に見ながら、頭の上に?を浮かべた。
手の上に乗せられていたのは、綺麗な青色の鈴。
それは桐生が刀に着けていたものとは違う、少し小さめの鈴だった。
「こ、これ・・・は・・・?」
「お前に、持ってて欲しいんだ」
桐生の脇差じゃないほうの刀に、あけにあげた青い鈴が付けられていた。
どうして、こんなことを?
お揃いの鈴を渡すなんて、何の意味が?
嬉しいを通り越して混乱に陥ったあけを、桐生が優しく抱きしめる。
「・・・持ってて、くれるな?」
「どういうことだよ。どうして、それを、私に・・・」
これを吉野にあげるなら、まだ分かる。
だがあけは、鈴の意味を聞くことが出来なかった。
怖かったのだ、聞くことが。
桐生も口を閉ざしたまま、何も伝えようとしない。
「・・・・」
やがて空に、夜明けの光が差し込み始めた。
それを見た桐生が、ゆっくりとあけの耳元に顔を近づける。
「――――――――」
もう行くのか?といつも通りに口を開くつもりだったあけは、囁かれた言葉に口を開くことが出来なかった。
歩いていく彼の背中を、止めることも。
あけは静かにその背中を見守ると、渡された鈴に優しい口付けを落とした。
今日も祇園の町は変わらない。
あの日別れを交わした場所で、あけはぼんやり空を見つめていた。
チリリン。チリリン・・・。
風に吹かれ、刀に付けた鈴が綺麗な音を鳴らす。
あけはその音を満足そうに聞きながら、またのんびりと空を見上げた。
「・・・好きだ」
(立ち去り際に囁かれた言葉を、鈴の音と共にずっと覚えてる)
男たちが騒ぎを起こし、女と戯れ、金で遊ぶ。
これが、お金の町――――――――祇園。
「・・・・」
遊女として働く女性も多い中、祇園の夜に一人、あけは星を眺めていた。
腰に差してある二刀の刀が、彼女を普通の人間じゃないと教えている。
それもそうだ。彼女は祇園では珍しい「なんでも屋」をしているのだから。
しかも彼女の腕は、そんじゃそこらの男よりは立つ。
あけは身軽な動きで屋根の上に飛び乗ると、息を吐きながら刀を抜いた。
「桐生・・・」
桐生という男とは、彼が祇園に来たときからの仲である。 最初は気が合うということだけで遊んでいたのだが、次第に彼の仕事を手伝うようになっていた。
宮本武蔵のこと。遊女のお遥のこと。吉野のこと。
それが“なんでも屋”として手伝っているのか、それとも“自分自身”として手伝いたいのか、次第に分からなくなっていた。
「はぁ・・・」
何でも屋というからには、汚い仕事もたくさんしてきた。
だからこそ、こんなことは滅多にないと思っていたのに。
桐生・・・いや、武蔵。
彼のことで頭がいっぱいになる。彼のことが絡むと、他の仕事が狂って行く。
まぁでも願いなんて、もう壊れてしまった後なんだけど。
「吉野を、身請けしたんだな・・・アイツ」
あけは不貞腐れた顔をしながら、抜いた刀の手入れを始めた。
気が合うと言いながらきっと、一目惚れしていたんだろうと自分に苦笑する。
「・・・・かなわねぇって、ことか」
手入れをした刀が、月明かりに照らされて輝きを放つ。
そしてゆっくりその刀を置くと、後ろから感じた気配に眉をひそめた。
あけの後ろに立つ、一人の男。
振り返らなくてもその正体を知っていたあけは、振り返りざまに口を開いた。
後ろの男も、気づかれているのを分かっていたとばかりに刀を下す。
「よぉ、何の用だ?・・・桐生」
「お前こそ、こんな所でぼんやりしてるのは珍しいじゃねぇか」
「・・・ほっとけ」
桐生から決着の時が来たと聞かされていたあけは、桐生が会いに来てくれるとは思わず、少し驚いていた。
隣に座る桐生の顔を、見ることは出来ない。
どんな表情をしているのかは気になったが、目を合わせたら自分が壊れそうな気がして、合わせることが出来なかった。
「・・・いつ、行くんだ?」
「夜が明ける前に、出ようと思う」
「もうすぐじゃねぇか。どうして私のところなんかに来たんだよ」
最後の別れを告げる相手に、自分はふさわしくないはずだ。
あけは手に持っていた袋から飴を取り出すと、桐生の方に向かって放り投げた。
「落ち着くぜ。食えよ」
「お前にしては、気が利くじゃねぇか」
「んだとこら!」
「おっと」
桐生の軽口にあけが手を上げる。
もちろんそんな攻撃が当たるわけもなく、桐生は笑いながらあけの手を受け止めた。
昔のタラシだったころの桐生からは想像できなかった、剣士としての表情。
思わず目を合わせてしまいそうになったあけは、桐生と手を合わせたまま、誤魔化すように空を見上げた。
手から伝わってくる温もりが、もどかしくも恥ずかしい。
いつもなら握られた手を離すあけも、今日だけは何故か放すことが出来なかった。
放してほしくない。でも、放さなきゃいけないと思う自分がいる。
桐生も黙り込んだまま、手を放そうとはしなかった。
「・・・吉野だっけ?アイツのこと身請けしたんだろ?」
あけの質問に、桐生はまったく返事を返そうとしない。
構わずあけは話を続け、気を紛らわすように話を続けた。
「綺麗なやつだったよなー。まさか遊び人のお前が、身請けするなんて」
「・・・・」
「まったく、見せつけてくれるよなぁ。羨ましいぜ」
「・・・あけ」
「女って良いよな・・・私なんかもう、女を捨てたようなもんだ」
「あけ!」
いつもは「お前」だとか「アンタ」としか呼ばない桐生が、話を続けるあけに名前を叫んだ。
驚いたあけは話を止め、無言でそっと手を放そうとする。
しかし、それを桐生は許さなかった。
放そうとした手は無理やり掴まれ、あけの身体は桐生の方へと引き寄せられる。
驚いてバランスを崩してしまったあけは、そのまま桐生の腕の中に飛び込んだ。
「お、おい、何すんだっ!」
「うるせぇ。黙ってろ」
「・・・お、おまえ・・・」
桐生の鋭い命令口調に、言い返すことが出来ない。
気迫に押されて動けないあけを見て、桐生は満足そうな笑みを浮かべた。
「桐生・・・?」
掴んでいた手を無理やり広げられ、その上に何かを置かれる。
あけは桐生と手の上の物を交互に見ながら、頭の上に?を浮かべた。
手の上に乗せられていたのは、綺麗な青色の鈴。
それは桐生が刀に着けていたものとは違う、少し小さめの鈴だった。
「こ、これ・・・は・・・?」
「お前に、持ってて欲しいんだ」
桐生の脇差じゃないほうの刀に、あけにあげた青い鈴が付けられていた。
どうして、こんなことを?
お揃いの鈴を渡すなんて、何の意味が?
嬉しいを通り越して混乱に陥ったあけを、桐生が優しく抱きしめる。
「・・・持ってて、くれるな?」
「どういうことだよ。どうして、それを、私に・・・」
これを吉野にあげるなら、まだ分かる。
だがあけは、鈴の意味を聞くことが出来なかった。
怖かったのだ、聞くことが。
桐生も口を閉ざしたまま、何も伝えようとしない。
「・・・・」
やがて空に、夜明けの光が差し込み始めた。
それを見た桐生が、ゆっくりとあけの耳元に顔を近づける。
「――――――――」
もう行くのか?といつも通りに口を開くつもりだったあけは、囁かれた言葉に口を開くことが出来なかった。
歩いていく彼の背中を、止めることも。
あけは静かにその背中を見守ると、渡された鈴に優しい口付けを落とした。
今日も祇園の町は変わらない。
あの日別れを交わした場所で、あけはぼんやり空を見つめていた。
チリリン。チリリン・・・。
風に吹かれ、刀に付けた鈴が綺麗な音を鳴らす。
あけはその音を満足そうに聞きながら、またのんびりと空を見上げた。
「・・・好きだ」
(立ち去り際に囁かれた言葉を、鈴の音と共にずっと覚えてる)
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