Erdbeere ~苺~ 鈴の音 忍者ブログ
2024.11│ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
いらっしゃいませ!
名前変更所
2024年11月15日 (Fri)
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2011年11月20日 (Sun)
桐生さん/切甘/見参軸のお話

拍手


祇園は夜でも、賑やかだ。
男たちが騒ぎを起こし、女と戯れ、金で遊ぶ。

これが、お金の町――――――――祇園。


「・・・・」


遊女として働く女性も多い中、祇園の夜に一人、あけは星を眺めていた。
腰に差してある二刀の刀が、彼女を普通の人間じゃないと教えている。

それもそうだ。彼女は祇園では珍しい「なんでも屋」をしているのだから。

しかも彼女の腕は、そんじゃそこらの男よりは立つ。
あけは身軽な動きで屋根の上に飛び乗ると、息を吐きながら刀を抜いた。


「桐生・・・」


桐生という男とは、彼が祇園に来たときからの仲である。 最初は気が合うということだけで遊んでいたのだが、次第に彼の仕事を手伝うようになっていた。

宮本武蔵のこと。遊女のお遥のこと。吉野のこと。
それが“なんでも屋”として手伝っているのか、それとも“自分自身”として手伝いたいのか、次第に分からなくなっていた。


「はぁ・・・」


何でも屋というからには、汚い仕事もたくさんしてきた。
だからこそ、こんなことは滅多にないと思っていたのに。

桐生・・・いや、武蔵。
彼のことで頭がいっぱいになる。彼のことが絡むと、他の仕事が狂って行く。


まぁでも願いなんて、もう壊れてしまった後なんだけど。


「吉野を、身請けしたんだな・・・アイツ」


あけは不貞腐れた顔をしながら、抜いた刀の手入れを始めた。
気が合うと言いながらきっと、一目惚れしていたんだろうと自分に苦笑する。


「・・・・かなわねぇって、ことか」


手入れをした刀が、月明かりに照らされて輝きを放つ。
そしてゆっくりその刀を置くと、後ろから感じた気配に眉をひそめた。

あけの後ろに立つ、一人の男。
振り返らなくてもその正体を知っていたあけは、振り返りざまに口を開いた。
後ろの男も、気づかれているのを分かっていたとばかりに刀を下す。


「よぉ、何の用だ?・・・桐生」
「お前こそ、こんな所でぼんやりしてるのは珍しいじゃねぇか」
「・・・ほっとけ」


桐生から決着の時が来たと聞かされていたあけは、桐生が会いに来てくれるとは思わず、少し驚いていた。

隣に座る桐生の顔を、見ることは出来ない。
どんな表情をしているのかは気になったが、目を合わせたら自分が壊れそうな気がして、合わせることが出来なかった。


「・・・いつ、行くんだ?」
「夜が明ける前に、出ようと思う」
「もうすぐじゃねぇか。どうして私のところなんかに来たんだよ」


最後の別れを告げる相手に、自分はふさわしくないはずだ。
あけは手に持っていた袋から飴を取り出すと、桐生の方に向かって放り投げた。


「落ち着くぜ。食えよ」
「お前にしては、気が利くじゃねぇか」
「んだとこら!」
「おっと」


桐生の軽口にあけが手を上げる。
もちろんそんな攻撃が当たるわけもなく、桐生は笑いながらあけの手を受け止めた。

昔のタラシだったころの桐生からは想像できなかった、剣士としての表情。

思わず目を合わせてしまいそうになったあけは、桐生と手を合わせたまま、誤魔化すように空を見上げた。


手から伝わってくる温もりが、もどかしくも恥ずかしい。
いつもなら握られた手を離すあけも、今日だけは何故か放すことが出来なかった。

放してほしくない。でも、放さなきゃいけないと思う自分がいる。
桐生も黙り込んだまま、手を放そうとはしなかった。


「・・・吉野だっけ?アイツのこと身請けしたんだろ?」


あけの質問に、桐生はまったく返事を返そうとしない。
構わずあけは話を続け、気を紛らわすように話を続けた。


「綺麗なやつだったよなー。まさか遊び人のお前が、身請けするなんて」
「・・・・」
「まったく、見せつけてくれるよなぁ。羨ましいぜ」
「・・・あけ
「女って良いよな・・・私なんかもう、女を捨てたようなもんだ」
あけ!」


いつもは「お前」だとか「アンタ」としか呼ばない桐生が、話を続けるあけに名前を叫んだ。
驚いたあけは話を止め、無言でそっと手を放そうとする。

しかし、それを桐生は許さなかった。
放そうとした手は無理やり掴まれ、あけの身体は桐生の方へと引き寄せられる。
驚いてバランスを崩してしまったあけは、そのまま桐生の腕の中に飛び込んだ。


「お、おい、何すんだっ!」
「うるせぇ。黙ってろ」
「・・・お、おまえ・・・」


桐生の鋭い命令口調に、言い返すことが出来ない。
気迫に押されて動けないあけを見て、桐生は満足そうな笑みを浮かべた。


「桐生・・・?」


掴んでいた手を無理やり広げられ、その上に何かを置かれる。
あけは桐生と手の上の物を交互に見ながら、頭の上に?を浮かべた。

手の上に乗せられていたのは、綺麗な青色の鈴。
それは桐生が刀に着けていたものとは違う、少し小さめの鈴だった。


「こ、これ・・・は・・・?」
「お前に、持ってて欲しいんだ」


桐生の脇差じゃないほうの刀に、あけにあげた青い鈴が付けられていた。

どうして、こんなことを?
お揃いの鈴を渡すなんて、何の意味が?

嬉しいを通り越して混乱に陥ったあけを、桐生が優しく抱きしめる。


「・・・持ってて、くれるな?」
「どういうことだよ。どうして、それを、私に・・・」


これを吉野にあげるなら、まだ分かる。
だがあけは、鈴の意味を聞くことが出来なかった。

怖かったのだ、聞くことが。
桐生も口を閉ざしたまま、何も伝えようとしない。


「・・・・」


やがて空に、夜明けの光が差し込み始めた。
それを見た桐生が、ゆっくりとあけの耳元に顔を近づける。


「――――――――」


もう行くのか?といつも通りに口を開くつもりだったあけは、囁かれた言葉に口を開くことが出来なかった。

歩いていく彼の背中を、止めることも。
あけは静かにその背中を見守ると、渡された鈴に優しい口付けを落とした。


















今日も祇園の町は変わらない。
あの日別れを交わした場所で、あけはぼんやり空を見つめていた。


チリリン。チリリン・・・。


風に吹かれ、刀に付けた鈴が綺麗な音を鳴らす。
あけはその音を満足そうに聞きながら、またのんびりと空を見上げた。



















「・・・好きだ」
(立ち去り際に囁かれた言葉を、鈴の音と共にずっと覚えてる)
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
←No.35No.33No.32No.31No.29No.28No.27No.25No.24No.23No.22
サイト紹介

※転載禁止
 公式とは無関係
 晒し迷惑行為等あり次第閉鎖
 検索避け済

◆管理人
 きつつき
◆サイト傾向
 ギャグ甘
 裏系グロ系は注意書放置
◆取り扱い
 夢小説
 ・龍如(桐生・峯・オール)
 ・海賊(ゾロ)
 ・DB(ベジータ・ピッコロ)
 ・テイルズ
 ・気まぐれ

◆Thanks!
見に来てくださってありがとうございます。拍手、コメント読ませていただいております。
現在お熱なジャンルに関しては、リクエスト等あれば優先的に反映することが多いのでよろしければ拍手コメント等いただけるとやる気出ます。
(龍如/オール・海賊/剣豪)