Erdbeere ~苺~ 4章(2) 始まりの音 忍者ブログ
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2024年11月15日 (Fri)
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2012年12月25日 (Tue)
4章(2)/ヒロイン視点

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招待状が無いと入れない雀荘。
入口に立っている男に、偶然貰った招待状を見せつけ、私たちは中に入った。

中に入ると聞こえてくる、麻雀の牌の音。
心地よいカチャカチャという音が、私たちの耳を擽る。
そして私は躊躇いなく奥の席に近づくと、情報屋だと聞いていた男に話しかけた。


「おい。レートはいくつだ?」


ちゃんちゃんこを着た男。こいつが情報屋だ。
黒川から色々聞いておいてよかったぜ、ほんと。

桐生は私が話を進めるのを、後ろで静かに見つめている。
話しかけられた男は私の方を向き直り、麻雀を打ちながら返事を返した。


「いつもどのぐらいで打ってんのや?」
「アンタに任せる」


これが情報を聞き出すための手順のようなもの。
男は不敵に笑い、普段ならあり得ないレートを提示した。


「4千万だ。勝ちゃぁ、大阪の城が買えるぐらいのレートや」
「・・・分かった」
「・・・なるほど。ただの女やないってわけか。何が聞きたいんや?」
「とある弾丸の出所、かな。お前なら分かるだろ」
「・・・ほう」


麻雀を打ったまま聞く男に、桐生が弾丸を差し出す。
コロンと転がった弾丸を目で追った男は、少し見た後にその弾丸を手に取った。

見覚えがある、といった顔だ。
私はその場にあった椅子を引っ張り、桐生をそこへ座らせた。

お前が座れと言わんばかりの目線を向けられたが、私は黙って話を聞くのが苦手なため、無理やりにでも桐生を座らせる。


「っと・・・その前に、情報料もろおか」
「んあ?いくら?」
「10万や」
「・・・その金額に見合うだけの情報くれなきゃ、あとで取り返すからな」


懐から10万取り出し、そいつに対して放り投げた。
男はお金を手に取って満足げに頷くと、すぐに私たちの方へ弾丸を見せつける。

ったく、10万なんて無駄に高い金取りやがって。
本当に納得いかない情報価値だったら、ぶん殴ってやらねぇと。
私がそんな汚いことを考えているとも知らず、男は弾丸の出所について話し始めた。


「これは近江、高島会や」
「高島・・・?」
「そうや・・・この弾丸、大陸からの密輸銃でしか使用できへん特殊なもんや。今、関西でこのルートから武器を調達しとるんは近江高島会しかない」


高島、か。
あの盃の場所に居た、眼鏡掛けた野郎だな。

でもアイツ、聞こえてた限りでは良い奴だった気がしたんだが。
寺田とは兄弟分だったって言ってたし。
桐生も納得出来ないのか、男に疑問を投げかける。


「高島が他の奴らに流していたという可能性は?」
「ないな。あの高島っちゅうやっちゃ、そないな危ない橋は渡らんのや」
「・・・だがどうしてそこまで分かっていて、警察は動かないんだ」


私は黙って話を聞き続けた。
もちろん、頭の中で話を整理しながら。

銃を撃ったのは高島会だとしても、どうもおかしい。
危ない橋は分からないんだろ?だったらどうしてワザワザ足がつくような銃で私たちを狙った?

何か、目的があるとしか思えない。

ワザと私たちに気付かせるため?
いやだとしても、なんで気付かせたいんだ?
一体、何が。


「それはなんでか知りまへん。ただ・・・」
「ただ・・・?」
「おっと!ここから先は言えまへんわ。ワシが話せんのはここまでや・・・」


その言葉に、私はぐいっと身を乗り出した。

話の続きが気になる。
コイツの話し方を見ると、高島の裏を知っているような口ぶりだ。

そこまで、全部知りたい。
怪しいものは徹底的に知っておかなければ、いつ私たちが潰されるか分からない。


「高島の裏・・・その続きを、教えてくれねぇか?」
「別料金や。それにちぃっとばかし値が張んで」
「あー、やっぱそうくんのか・・・。いくらだよ」
「30や」
「30・・・か・・・」


金はある。
情報屋として稼いできたお金を、きちんと持ってきてあるからな。

でもあんまりバンバン使いたいものでもない。
そこで私はふと黒川からもらった情報のことを思い出し、その男に呟いた。
黒川の情報が正しければ、こいつは江崎っていう情報屋。


「アーモンド・・・」
「・・・・なんやて」
「アンタ、アーモンドのレート・・・知りたいんじゃねぇの?」


そう、黒川が教えてくれた情報。
この江崎という男が悪い噂の絶えない情報屋であることと同時に、アーモンドというレートを知りたがっていたということ。

それを咄嗟に思い出した私は、手に入れておいた情報をチラつかせる作戦に出た。


「ん?どうなんだ?」
「チッ・・・・アンタ、ただの姉ちゃんやないな」
「それはどうかな。んで?いらねぇの?」
「わかったわ。交換条件で教えたる」


そんなに知りたかったのかよ。
結局アーモンドが何の隠語かはわからなかったが、私は手に入れておいたレート情報を江崎に渡した。


「・・・高島ってやつは、東都大卒で官僚とつながっとるらしい」


インテリヤクザっぽいって思ってたけど、本当にそうだったのか。
後ろを見ると桐生が渋い顔でその話を聞いていた。

ま、そうだよな。高島の裏を知れたところで疑問は解決しねぇもんな。
どうして私たちを狙うようなマネをしたか、っていう疑問が。


「・・・桐生。誰も信用できねぇ、な・・・これじゃ」
「あぁ・・・。だが、早いうちに分かってよかった」
「ま、そーだな」


騙され続けているよりは、信用出来ない方がマシだ。
江崎が何やら電話し始めたのを見て、私は静かに弾丸をポケットに仕舞った。

さて、何からやってやろう。
一番は大悟たちを追いかけることだが、このまま関西組が黙っているとも思えない。


「とりあえず、行くか」
「そうだな・・・世話になったな」


一応欲しい情報は得られたので、帰るために席を立つ。
すると急に江崎が電話を切り、私たちに向かって「待てや」と声を上げた。

・・・・なんだ?

周りの空気が、妙におかしい。
私は咄嗟に身構えると、小声で桐生に注意を促した。


「・・・・なんで止める」
「いやぁ・・・ちょっと、なぁ・・・?」
「・・・・」
「桐生一馬さん、あけさん、アンタらなぁ・・・1億円になってしもたわ~!」
「何・・・?」
「懸賞金や!悪ぅ思わんといてな・・・!」


嫌な予感、的中ってとこか。
今まで普通に麻雀を打ってた奴らが立ち上がるのを感じて、桐生の背中に身を預けた。

皆、目が殺気立っている。
そりゃそうだ。私たちの首に1億が掛かってるんだから。

でも、私は落ち着いていた。

こんな奴らに負けはしないという自信と、背中にある大きな温もりに対する安心感のおかげだ。


「1億円か・・・随分と安く見られたものだな」
「ほんっと。私たち二人分でそれって安すぎだろ」
「あぁもちろん、二人合わせて1億やないで?あけさん、アンタにもきちんと1億円、掛かってとんやで」
「はぁ・・・・?・・・・へぇ、私が桐生と同等の価値ってことか?それは光栄だなぁ・・・・」


私にまで、1億円?
実質、私にそんな価値などあるわけがない。

桐生に関する価値はいくらでもある。
東城会の元4代目。龍司がもっとも敵対視している男。そして盃を交わそうとした男。

その首を討てば、近江連合での跡目争いをトップで抜けることが出来るだろう。

でも、どうして。それなら私なんていらないはず。


「死んでもらうで!!!」
「ッ・・・・!」
あけ・・・無茶して傷開くんじゃねぇぞ」
「・・・あぁ、分かってるって」


考え事をしている間に、江崎達がそれぞれの武器を掴んで私たちに向かってきていた。
どいつもこいつも金に目が眩んで、正常とはいえないほどの乱暴な戦い方をしてくる。

そんな戦い方で、いや、こんな奴らを使って私たちが倒せるわけねぇじゃねぇか。
一体誰が懸賞金なんてかけたんだ?
イライラしながら相手の乱暴な攻撃を捌き、次々と平伏せさせていく。


「さっさと首、渡してもろおか!!」
「渡すわけ、ねぇだろうが・・・」


手加減なんて出来ない。
手加減してたら、今の私じゃ殺されっちまう。

それほど傷の痛みが激しさを増し、私の動きを鈍らせていた。
肩の傷を押さえつつ、襲ってきた男を蹴り上げる。


「おらぁっ!!」
「ぐふっ!?」


色々考えながら攻撃を捌き、最小限の動きで男たちを平伏せさせた。
だが、体力の限界はもちろんある。
特に痛みによって削られた体力は、思った以上に私の判断力を遅らせた。

襲ってくる拳をどう避けるか迷い、一瞬隙を生んでしまう。
そこに殴り掛かってきた男に腕を取られた私は、避けられないことを覚悟して目を瞑った。

でも、衝撃は来ない。

代わりに来た衝撃は暖かく優しいもので、私は目を瞑ったままそれが誰かを知ることが出来た。


「無理するなって、聞こえなかったのか?」
「わりぃ、ちょっと・・・」
「・・・痛いんだろ。素直に俺に守られてろ」


そう言うと桐生は私を抱き寄せ、襲い掛かってきた男達を片手で薙ぎ倒していく。
背後から襲ってくる奴らにヒヤヒヤして声を上げるが、あっけなく桐生の足蹴りに沈んだ。

私も戦うと行って飛び出したいが、私を抱き寄せる力は一切緩まない。
あーもう、分かったよ。大人しくしてれば良いんだろ。
無理しても怒られるだけだということが分かってきたため、大人しくしていることにする。


「桐生・・・守られてて、いいか?」
「フッ・・・初めからそう言え」
「なんや?イチャイチャしとるんやないで、この・・・がっ!?」
「どうした?・・・お前らの相手は、俺だ」
「こんの・・・!!」


相変わらず、桐生の喧嘩の腕は達人級だった。
私が武術を“学ぶ”ということからした努力でさえ、こいつには関係ない。

見れば身に付き、咄嗟の判断は本能のまま。
桐生は一切私を離すことなく、抱き寄せたまま戦いを続けた。


「・・・・つ、強いいい・・・・」


気が付けば周りは倒れている人間だけとなり、雀荘が一瞬静かになる。
でもそれも束の間。

次はこっちの番だとばかりに桐生が江崎の襟元を持ち上げ、ドスの利いた声を上げた。


「俺たちに懸賞金をかけたのは・・・誰だ」
「・・・し、知らん!!」


こうなったら意地の張り合い。
桐生は掴んだ江崎を麻雀卓に近づけると、一気に頭を卓にぶつけた。

ガンッという鈍い音と共に響く、江崎のくぐもった悲鳴。
江崎は慌てて桐生を止め、正直に口を開いた。


「せ、千石組や・・・千石組が・・・お前達に・・・・」
「千石組・・・千石とは、あの千石か」
「あぁ・・・そうや・・・お前は、跡目争いのゴールなんや・・・・」


千石組、か。
部屋の外で聞いていただけだからあれだが、千石組は話し合いの中で、一番挑発に近い態度をとっていたところだ。

ま、ただの若造って感じだったけどな。
龍司と同じように、野望を持っているのは確かな人間だった。
いやでもそれは分かる。分かるけど、なんでそれに私まで入ってるんだ?


「おい、江崎」
「・・・・なんや」
「桐生はまだ分かる。でも・・・なんでただの情報屋風情に、桐生と同じ値段かけてんだ?」
「さぁな・・・。それは分からん。ただワシらは言われただけや。アンタも桐生と同等の価値があるぐらい、使い道がある・・・・ってな」


その言い方が癪に障ったのか、桐生はもう一度江崎の頭を卓に叩き付けた。
そして意識を失った江崎を投げ捨て、私の方を向き直る。


「・・・行くぞ」
「りょーかい」


元気に返事したのは良いものの、傷の痛みで足元がふらついた。
桐生にバレないよう何とか平然を装うが、そんなのも桐生には通じないんだろう。

桐生は無言で私の腕を取ると、そのまま引き寄せ―――抱きかかえた。
お姫様抱っこといわれる状態のままで外に出ようとする桐生を、私は咄嗟に止めにかかる。


「待っ・・・!」
「文句を言えば放り投げるぞ」
「・・・・はい」


本気だった。
っていうか本気だ。

1年前に出会ったとき、文句を言って投げ捨てられたのを思い出して私は口を閉ざす。
静かになったことに満足したのか、桐生は私を軽々と持ち上げて雀荘を後にした。





























帰り道、やっぱり騒いで投げ捨てられるまであと数秒。
(だって恥ずかしいんだって!!)
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