いらっしゃいませ!
名前変更所
いつだってこの町は賑やかだ。
人とヤクザで溢れてて、下手をすればホストもガラが悪い。
ま、そんなこと俺には大した問題じゃねぇんだけどな。
俺は強さを手に入れた。
んでもってイケメンだ。世の中のジャストストライクの位置にいる男だ。
そこら辺の男ヤクザの男なんざ、俺に敵う相手じゃねぇ。
「こ、こいつ・・・・!」
「ったく、弱いのに絡んでくるんじゃねぇっての」
「がはっ!!」
絡んできた男をぶっ飛ばし、ため息を吐きながら髪をかき上げた。
男たちは皆怯えながら俺から逃げていく。
ほんと、ばっかじゃねぇの。
そんな弱々しく逃げるなら、最初から絡んでくるなよな。
ああ・・・ほんと、むかつくぜ。
何も目的を持つことなく、ぶらぶらと歩きまわる。
絡まれるだけ。目的なく彷徨うだけの日々。
女っ気があれば少しは楽しいんだけどな。
悔しいほど俺の周りには女がこねぇ。
いや、それは俺が悪いんじゃねぇ!いい女がいないってのもまた理由の一つだ。
「・・・・はぁ」
そして今日も、何事もなかったかのように1日が終わる。
そう思いながらコンビニの前を通りかかった時、俺は一つの騒ぎを見つけた。
騒ぎの中心にいるのは小柄のスーツの男―――いや、
「女、か?」
複数のヤクザに囲まれている奴は、男物のスーツに身を包んだ女だった。
角度によっては男にも見えるが、胸元に膨らみが見えるから間違いはねぇだろう。
それにしても、なんだ?こんな時間に。
いや、こんな時間だからこそか。
時計の針が夜中の十二時を回る頃。ヤクザ共が騒ぐ時間だ。
「なぁなぁ姉ちゃん。偉い男前だねぇ」
「・・・だからなんだよ」
「俺たちと遊ばない?俺たち、君みたいな子好みなんだよ!」
「しらねぇよ。消えろ」
「いいねいいね!言うねー!しびれちゃうなぁ・・・!」
周りの人たちがどんどんその集団を避けて歩く。
普段なら無視して歩くんだが、あの中心にいる人間は女だ。
ここで助ければ、俺の株も上がるんじゃねぇのか?
そんな気持ちで集団に近づいた俺は、瞬時にその行為がいらないことだったかを理解することになる。
「なぁ、ねえちゃ・・・」
「ああもう!!うるせぇな!私は待ち合わせしてんだよ!!邪魔すんな!!」
「ぐあぁっ!?」
「な・・・っ!」
近づいた俺の目の前に、女に蹴られた男が転がった。
もちろんそんなことをすれば、一瞬にして喧嘩が始まる。
だが女はそれも恐れず、ただ挑発的な笑みを浮かべて男たちを煽った。
煽られた男たちが女に襲い掛かるが、誰一人として攻撃を加えられずに倒れていく。
最小限の動きで相手の攻撃を押さえ込む女の戦い方は、もはや喧嘩では無かった。
まるで誰かを守るために得たような、そんな戦い方だ。
何故分かるかって?んなもん、俺が見ればわかるんだよ。
最小限の動きで相手の攻撃を捌き、鍛練された足技で相手の動きを封じる。
その動きの全てが、誰かと一緒に戦うことを前提とされた動きというのは間違い。
「こ、このアマァ・・・!!」
「っと・・・。後ろから襲ってくるなら、もっと気配を隠せ・・・よ!!」
「ガハッ・・・・!」
5~6人居た男たちが、無残に転がる光景。
その中で立っているのは、俺とその女だけだった。
女は何事もなかったかのように服を正し、その場を立ち去ろうとする。
だが俺は、その女を自然と引き留めていた。
「おい、待て!」
「ん?・・・なんだお前。黙ってみてるかと思えば・・・さっきの奴らの仲間か?」
「んなわけねぇだろ。俺をあんな雑魚と一緒にするんじゃねぇよ」
それだけ聞けば、勘違いされる言葉でもあっただろう。
だが女は笑みを浮かべると、分かっていたと頷いた。
「あぁ。お前はそういうやつには見えねぇし・・・そうなんだろうな」
「お前・・・・」
なんだ、この女?
まるで心を見られているかのような、そんな気分だ。
ただのヤクザと変わりない強さを持った女。
特別美人ってわけでもねぇし、可愛いってわけでもねぇ。
なのに何故か俺は、その女から目が離せなくなっていた。
こんな強い目を持った女、初めてみたかもしれねぇ・・・いや、初めてだ。
変な安心感、いや、なんつーのか、惹かれてしまう。
「おい?話しかけておいて何も言わねぇってどういうことだよ?帰るぞ?」
「ま、待ってくれよ。いや、ま、なんつーか・・・」
「なんだよ?」
え、どうしたんだ、俺。
まさかこの女に、一目惚れしたってのか?
いやいやでも、この女、本当に只者じゃねぇ感じだぜ?
こんな女に惹かれるなんて、俺、どうしちまったんだよ。
でもこの女、そこら辺の女とは違う何か・・・魅力を、感じる。
「おーいー?聞こえてんのかー!?」
「あ、あぁ、わりぃ」
「私、急いでるんだよ。待たせてるやつがいるから、1回帰らねぇと・・・」
「いやほら、俺とメシでもどうかなー、なんてよ」
「は?お前もナンパ野郎だったのかよ」
「ちげぇよ!さっきの喧嘩見てて、お前の戦い方に少し興味が湧いただけだよ、姉ちゃん」
「あ、そ。んじゃ」
「俺の名前、古牧宗介っつんだ。お前の技・・・少しだが、古牧のじじぃの技入ってんだろ」
「・・・・」
試しに言ってみただけだったのだが、どうやらビンゴだったらしい。
女は歩き出そうとしていた足を止め、俺の方を向き直った。
いやでも、ヤマ勘ってわけじゃねぇぜ?
あのじいさんが直接教えてたってわけじゃなさそうだが、確かに女の技には古牧流の技が入っていた。
避けるときも、捌き打ちする時も、足技というアレンジが加えられてたはいたが、原理は古牧流とほぼ一緒だ。
女は俺の方を睨みつけると、めんどくさそうにため息を吐いた。
「あー、まぁ、習ったわけじゃねぇけど、見たことあるぐらい・・・かな」
「・・・まぁ、どうだっていいんだよそんなこと。良いから少し俺に付き合ってくれ。お前が強くなった理由を、少しだけで良いから聞きたいだけっつうか・・・」
「んー?んー・・・まぁ、まんざら他人ってわけじゃねぇってことか・・・しょうがねぇなぁ」
「へぇ、案外物分り早いじゃん?あのおっさんとは違うねぇ、姉ちゃん」
「ん?おっさん?」
「ま、いいじゃん。こっちで話そう」
なんで俺、こんなことしてんだ?
これじゃ口実がいくら真面目なものでも、結局ナンパと一緒じゃねぇか!
いやでも、こいつも来てくれてるしな。
いつもの空き地に女を連れてきた俺は、壁に背を預けて女の方を見た。
「んで、姉ちゃんはなんでそんなに強ぇんだ?ぶっちゃけ、古牧のじじぃの技を見てる状況ってのが、まず只者じゃねぇよな」
踏み入った質問。
何かしら繋がりのある人間とはいえ、面識としては赤の他人だ。
もちろん、女は何も答えようとしなかった。
・・・やっぱり、気になる。
こんな感情を抱いたのは、初めてだ。
なんつーか、一緒に居たくなるっつーか。
すげぇ良い目してるんだよ。真っ直ぐで、綺麗な。
こいつなら俺を真っ直ぐ見て、きっと、いつまでも傍に居てくれる。
妙な安心感を抱かせる女。なんなんだろうな、こいつは。
「ジロジロみんな」
「え、あ、わりぃ」
「ったく、お前全部がいきなりすぎるだろ?どうしたんだよ。なんか古牧流使うのに不都合でもあんのか?」
「そういうわけじゃねぇよ。ただ、お前が気になっただけだ」
「は?やっぱナンパじゃねぇか」
「あー・・・あぁもうそれでいい!なぁ、姉ちゃん。俺と付き合ってくれ!」
「はぁっ!?」
これが一目惚れ、ってやつなんだな。
この俺が、イケメンでモテ・・・てはねぇけど、とにかくパーフェクトな俺が初めて自分から口説くんだ。
自分を信じろ。直感だ。
この女はぜってぇ良い女だ。
だから俺はこの女を逃がしたくない。そう思った。
「いや、お前だいじょぶか?ちょっとテンパりすぎだろ。つかなんで私だ?」
「直感だ」
「いや理由になってねぇって!」
「照れるなって!そりゃ俺みたいなイケメンで強い奴に告白されたらテンパるだろうけど・・・」
「てんぱってんのはお前だろ!少しは落ち着け!つかそんなことのためにここまで連れてきたのか?私人待たせてるっつってんだろ・・・?」
女がドスの利いた声を出し、俺が伸ばした手を掴みあげる。
突然のことに俺も反射的に反応してしまい、捻り上げられた手を軸に女の鳩尾を蹴り上げた。
「がっ・・・!?な、てめぇ・・・!!」
「と、突然襲ってくるからだろ?・・・決めた。俺がお前に勝ったら付き合うっつーことで!」
「いや意味わから・・・ぬあっ!?」
俺は容赦なく拳を固め、女に向かって攻撃を繰り出す。
正直、どうやって女に気持ちを伝えればいいとか、しらねぇんだよな、俺。
こんなことばっかやってたからか。
女なんていつか良い女が向こうからくる。ぶっちゃけそう思ってた。
俺には古牧流しかねぇ。
だからこそこの力で、俺は女に気持ちを伝えるという考えしか・・・。
「おいおい!どんなガキだよお前!こんな告白の仕方あるかっ!?」
「う、うるせーな!つべこべ言わずにお前も来いよ!!」
「おいおい・・・。私人待たせてるって言って・・・っぐ・・・!」
古牧流の俺に、古牧流の捌きは効かない。
俺はあっという間に女の弱点を見抜き、そこに一発軽い足払いをかけた。
瞬間、女の体がガクッと崩れる。
そこにすかさず覆いかぶさった所で、一つの声が掛かった。
「お前・・・何してんだ?」
「な・・・おっさん・・・」
「あ?うえっ、きりゅ・・・鈴木」
「姉ちゃん、まさか、このおっさんと知り合いなのか・・・?」
俺に声を掛けたのは、古牧流を使うおっさん。
修行してても分かる強さからして、こいつも只者じゃねぇ。
ってことは、だ。
こいつがこの女と知り合いだってことは、もしかして古牧流は・・・。
「まさか姉ちゃん、こいつの技を見て古牧流覚えたのか?」
「ん?・・・ま、そういうことだ」
「おい待て。勝手にそこで話を進めるな」
「なんだよおっさん。おっさんは黙って・・・っ!?」
一瞬だった。
気付けば俺はおっさんに腕を掴まれ、力いっぱい地面に叩き付けられていた。
何すんだ!?と怒鳴りつけようにも、いつのもおっさんと様子が違って言い返せない。
俺が何しようと興味なさげだったおっさんがなんで急に―――と思っていると、その謎も一瞬で解決することになった。
「んだよ鈴木。ぶっ飛ばすことねぇだろ」
「うるせぇ。お前もあとでお仕置きだ。覚えておけ」
「んなっ・・・!?私は勝手にこいつに話しかけられて、急に殴り掛かられた被害者なんだぞ・・・!!」
「お前の警戒心の無さが悪いんだ。・・・覚悟、しとけよ」
「ッ・・・・。あーあー、わるぅござんしたー!ったく、明日仕事が休みだからって盛りすぎだろ。どうせ何もなくてもそのつもりだったんだろ?」
「わかってるじゃねぇか」
目の前で行われている会話。
サラッと行われているが、それは紛れもなく恋人同士を思わせるものだ。
俺は一気に立ち上がり、おっさんにビシッと指を突きつける。
「なんでだよ!?」
「な、なんだいきなり」
「なんでおっさんがそんな良い女と付き合ってんだよ!」
「え。私とか全然良い女じゃねぇから、やめとけ」
「うるせぇ!おっさん、俺と勝負しろ!」
「うるさいって失礼な・・・!」
「いつもより良い目してるじゃねぇか・・・いいぜ。俺も、お前には少し借りを返さなくちゃいけなくなったみてぇだからな」
「いや待てき・・・鈴木。私は別に襲われてたっていっても物理的な意味だぞ?別に性的な意味で襲われたわけじゃねぇんだから、そんな・・・」
「「黙ってろ!!」」
「はー?もうなんなんだよお前ら・・・・」
俺の一目惚れ、諦めてたまるか!!
その一心で本気で挑んだ俺は、次の瞬間には意識を失っていた。
「あーあ。本気で殴るこたねぇだろ・・・」
「このぐらい当たり前だ。貴重な時間を潰されたんだからな」
「怒るなって。悪かったよ」
桐生が怒っている理由。
それは今日、あけの誕生日だったからだ。
“0時過ぎたらすぐ、連絡を入れる。”
そう言って結局連絡をしてこなかったあけを探しに出かけ、そして探しに来た先であれを目撃したというわけだ。
空き地に転がった宗介を気に掛けるあけを、桐生が気に食わなさそう睨む。
「睨むなよ!電話しようとしたときにヤクザに絡まれて、んでそのあとアイツに連れてかれたから掛ける暇がなかった・・・ってほんとごめんって!お仕置きはおとなしく受けるから、な?」
「潔いじゃねぇか」
「んな顔で睨まれたら潔くなるって・・・」
夜の街を二人、不釣合いな影が並んだ。
桐生はあけの腰を抱くように引き寄せ、アパートへの裏道を歩き進める。
極道としての道を封じて、自分を偽って生きている桐生。
その桐生にとって自分をさらけ出せる場所が、あけなのだ。
だからあけに対しては容赦なく接してしまう。本人たちもそれを分かっていた。
きっとこの後、寝かせてもらえねぇんだろうな。
そう思いつつあけは微笑み、桐生の腕に自分の腕を絡めた。
「でも、嬉しかったかな」
「何がだ?」
「宗介、だっけ?あいつのこと、本気で殴ってた・・・こと」
「・・・どうしてだ」
「んー、いやほらだってさ。あんまり桐生、そういうことみせねぇじゃん。ちょっと特別扱いって感じが、して、さ」
「フッ・・・ずっとそうやって、素直でいてくれればいいんだがな」
「・・・うっせ」
はちゃめちゃな誕生日の始まり。
でもそれはある意味、このつらい日常の中で一番幸せな始まり方でもあったのかもしれない。
その頃宗介は、たった一人になった空き地で拳を強く握りしめ、桐生への復讐を誓っていた。
いつかあの女を奪い取ってやると。
まさか自分の行動のおかげで二人の愛が強くなっているとも、知らずに。
おい、おっさん!!今日はもう修行ねぇぞ!なんでもいい、勝負しろ!
(おいなんで立会人に私呼んでんだ。っておいこら話聞け!勝手に勝負はじめんな!!)
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★海賊 ハート泥棒
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