Erdbeere ~苺~ 8章 策謀 忍者ブログ
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2011年12月08日 (Thu)
第8章/ヒロイン視点

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急いで賽の河原へ向かうと、そこは見るも無残な光景へと成り果てていた。
私は呆然と立ち尽くす桐生の傍に駆け寄り、今の状況を尋ねる。


「どうなってんだよ、これ」
「わからねぇ・・・」
「どっかが襲ってきたのか?酷すぎる・・・」


平和だった河原は、瓦礫の山と化した。
ホームレス達は怪我を負い、悲痛な叫びが響く。
なんて酷いんだ。こんなに弱い奴らを痛めつけるなんて。

苦痛の表情を浮かべるホームレスに、持っていた薬を分け与える。
今の私に出来ることは、それぐらいだ。


「ほら、これ使え。残ったら他の奴の傷にもつかってやってくれ」
「あ・・・は、はい・・・」


ホームレスは私が取り出した怪しい薬を見て、一瞬顔を引き攣らせた。
色が悪いのは重々承知だが、効果は確かなため押し付ける。

私は正規の薬剤師とは違うからな。
裏で取引されているものを使うことが多いから、見た目は本当に微妙だ。
でもその分効果も強い――――――その点もあって、悪い薬を作ることの方が多いんだが。


「行くぞ、あけ。伊達さん達に話を聞こう」
「あぁ。分かった」


桐生に急かされ、私はすぐに花屋達の居る小屋へと向かった。
遥が寝ていたはずの小屋の中には、怪我を負った伊達さんの姿と、苦笑を浮かべる花屋の姿がある。

どうやら、伊達さんが遥を守ろうとして怪我をしたらしい。
頭に巻かれた包帯。そして痛々しい血の跡。

二人が無事だっただけでも良かったと、安心する暇も与えずに花屋が口を開く。


「おい、あけ
「・・・なんだ?」
「遥を攫ったのはギャングの奴らだ」
「ギャング?・・・何色だ」


話を聞いて、私はさっと手帳を取り出した。
神室町には赤・白・青の、3色のギャンググループがある。

場所は私が知っている。だから色さえ分かれば・・・。


「いや、それが・・・」
「どうした?」
「今回はいっぺんに襲ってきやがったんだ」
「はぁ?全グループってことかよ・・・」


ヤクザの仕事を引き受けるギャング達は、グループによって仲が悪いはずだ。
簡単なことじゃ、手を組むはずがない。

今のこの状況では、河原のシステムも駄目になっているだろう。
システムは頼らない方向で、手帳からギャングの居場所を探し出す。
赤・白・青。どの色の情報も手帳にばっちりあったはずだ。


「シラミ潰しにいくしかねぇってことか」
「あぁ。待ってろ。今ギャングの情報を書き出してるから」
あけ、お前・・・・随分品ぞろえが良いんだな」
「なめちゃいけねぇよ、伊達さん。こいつぁ俺なんかより凄腕だ」
「う、うるせぇ!黙ってろ!集中できねぇだろっ」


花屋に褒められると、嬉しいよりも恥ずかしい気持ちが強くなる。
私は必死に動揺する気持ちを抑え、持っていたペンを動かした。

彼らが依然たむろってた場所。
アジトに使っていた場所。
良く使っていたバーやキャバクラ。

それらを丁寧に抜き出し、別の白い紙へと書き写していく。
そしてある程度移し終わった後、私はすぐにそのメモを桐生に渡した。


「こんな感じだ。最初はどこに行く?」
「・・・さすがは情報屋だな。これならすぐに探し出せそうだ」
「・・・・っ!」


微かに緩んだ桐生の表情を見て、由美さんから言われた言葉が甦る。

“貴方みたいな人に想われて、一馬も幸せね”

あの一言が、私の事を狂わせたに違いない。
心臓が、自分自身が、可笑しくなりそうになる。


「・・・?あけ?」
「うっさい!ほら、何処から行くか決めるぞ!」
「あ?あぁ・・・ならまずは、青のギャングから行こう」
「ん、分かった」


青のギャングは、ここのすぐ近くをたまり場としている集団だ。
近場から潰していく作戦に、私は大きく頷いた。
すぐに行動へと移る桐生の背中を追いかけ、伊達さん達に軽く手を振る。


「さて、と。こっちだ」


河原のすぐ近くの路地に、青の奴らは良く集まっていた。
集まっていたといっても皆ではなく、下っ端の奴らだけ。

おそらく今も、下っ端の奴らしかいないだろう。
何か情報だけでも抜き出せたら、それでいい。
私は桐生を案内しながらとある路地に入り、そして目当ての人物を見つけて思わず笑みを浮かべた。

自動販売機の前に座り、ギャアギャアと騒ぎながら煙草を吸う人影。
間違いない。あいつらだ。


「よーお、お前ら」
「・・・・っ!お、おまえは・・・!」


私の声に振り返った彼らの視線は、桐生に向くことなく私だけを捉えていた。
オドオドした様子で、持っていた煙草を地面に叩きつける。

そして私の傍まで来ると、皆一斉に頭を下げた。
突然の光景に、桐生が眉を顰める。
こんなことをされる心当たりがない―――――といえば嘘になるが、この光景に私自身もため息を吐いた。


「お疲れ様です、姉貴!!」
「いや、あのなお前ら・・・その姉貴ってのヤメロって・・・」
「いや!姉貴は姉貴です!」
「お前・・・こいつらと何かあったのか?」
「・・・何かあったっつーか。昔ちょっと、な」


ギャング達の反応を疑問に思う桐生に対し、昔こいつらとあったことをサラッと簡単に話す。

昔、危ない薬系の製作を任されたこと。
でも料金を払わずに脅して薬を取られそうになったため、組織のボスをシバキ倒したことなど。

その話を聞いた桐生は、納得とばかりに深く頷く。


「あぁ・・・なるほどな」
「約束を守らない奴は嫌いだからさ。ま、ってことで青の奴らは私に任せろ」


本来なら、殴り倒してでも情報を手に入れる予定だった。
だがこの状況を利用すれば、無駄な喧嘩をしなくても済みそうだ。

どうせ、こいつらは下っ端の一部。
ボスと会うまでは無駄な喧嘩を避け、いち早く事を片付けたい。
私は頭を下げる男の一人にゆっくりと近づき、耳元で静かに口を開いた。


「遥はどこだ」
「ッ・・・!」
「隠そうとするな。知ってることを全部話せ」


それは静かに見えるだけの、脅し。
殺気を込め、断るという選択肢を無くす。

男達はすぐに殺気に押され、口を開き始めた。
私に捕まれている男以外は皆、私の殺気に押されて身を引いている。


「お、俺らは下っ端なんで、あんまり詳しいことは・・・」
「じゃあ、知ってそうな奴らは?」
「・・・し、白の連中なら知ってるかもしれないっす・・・!」
「そうか。ありがとな」


白の連中、か。
私は男から手を放すと、すぐに桐生を連れてその場を離れた。

アイツらは確か、チャンピオン街に居たはずだ。
桐生に奴らの場所を伝えた私は、小走りに走っていく桐生を見て笑みを浮かべた。


「急げ、あけ
「わかってるって」


ほんとこいつ、遥のことになると前が見えなくなるんだな。
走っていく桐生の背中を追いながら、私は次の事を考えた。

次に会う白の連中とは面識がない。
それ故に、先ほどの奴らのように話し合いでは済まないだろう。
ギャングの連中は人数が多いため、長期戦に備えてポケットを探る。


「~♪」


人より体術が優れているとはいえ、桐生の様には強くないのが私の弱みだ。
そのため、私は自分の足技の他にも“武器”を持ち歩いている。

親指よりも小さめの瓶に、たぷんと揺れる紫色の液体。

少ない量だが、これを肌に触れさせるだけで相手は痛みに悶え苦しむ。
そんな劇薬を扱う私を見て、前を走っていた桐生が表情を歪めた。


「気味悪ぃな・・・」
「あったりめーだろ。劇薬なんだからな」
「お前でもそれ、遥にもあげてなかったか?」
「あれは色が悪いだけで、ちゃんとした傷薬だ。安心しろ」
「・・・そうか」


・・・全然納得されてないような気がする。物凄く。

ムカついて何か言い返そうと思ったけど、時間が無いのでやめておいた。
見えてきたチャンピオン街に、自然と気が引き締まる。


しばらく歩くと、白の下っ端らしい男達がたまっているのが見えてきた。
チャンピオン街は元々、神室町の中でもあまり良い場所ではない。
細い路地にたむろする集団・・・・間違いは、ないだろう。


「おい、お前」
「あぁん?」


戸惑いも無く男に声を掛けた桐生は、立ち上がった男を無言で睨み付けた。
男達がたむろっていた奥側に、少し広めの空き地が見える。

なるほど。あそこにリーダーがいるってことか。
そうなるとこいつらは、たむろっているというよりは見張り。
私は容赦無く男の一人を蹴り飛ばし、奥に案内するよう脅すことにした。


「グハッ・・・!て、てめぇ、何をっ・・・!」
「奥にリーダーがいるんだろ?案内しろよ」
「だ、誰がてめぇらなんかに・・・」
「だってよ、桐生。どうする?」


男の頭を踏み付けながら、振り返って続きを促す。
目が合った桐生は静かに頷くと、私が踏み付けていた男を頭だけ掴んでグイッと持ち上げた。

頭を掴まれた状態で引きずられる男は、聞いてるだけで顔を歪めたくなるような悲鳴を上げてもがく。
だが、今の残酷な桐生を止める術は無かった。
ぶっちゃけ私も、止めるつもりなんて無い。


「がっ、ああぁあぁっ!」
「別にいい。お前が案内しなくてもな・・・勝手に連れてってもらう」
「ぐっ・・・!」
「ご愁傷さまっと・・・」


完全に頭に血が上っている桐生を、私は何も言わずに追いかけた。
細い路地を通って空き地に出たところで、桐生が掴んでいた男を投げ捨てる。
投げられた男は、リーダー格と思われる男の足元に吹き飛ばされ、気絶した。


――――――これが、喧嘩の始まりの合図だ。


男達は私達の事を問い詰めることなく、突然襲い掛かって来た。
リーダーは武器を持っていないが、他の奴らは皆それぞれに武器を持っている。

バットやら何やら。まったく物騒な奴らだな、本当に。


「桐生、お前にはリーダーを任せた」
「・・・大丈夫なのか?あの人数を一人で・・・」
「おいおい。なめんなよ?」


ニヤリと笑って先ほど持っていた薬を取り出せば、桐生が納得したようにリーダーに向かって走って行った。
それを追いかけようとした連中を、片っ端から足技で転がしていく。

空気が読めない奴は大嫌いだ。
桐生とリーダーがサシで戦えるように、ここは私が引きつけなければ。


「おいおい、まさか女が俺達を一人で相手にするわけじゃねぇよなぁ?」
「・・・女だからってバカにしてると、痛い目見るぜ?」
「へぇ・・・おい、お前ら。女だからって容赦はいらねぇ!ぶっ殺してお楽しみといこうぜ!」
「「「「おう!」」」」


何がお楽しみだよ。女をそういう目で見やがって。
一気に火がついた私は、殴りかかってくる男達を手加減なしに平伏せさせた。

飛びかかってきた男の腹を膝で蹴り上げ、バランスが崩れた足元を蹴りで払う。
たとえ同時に襲い掛かってきても、何一つとして変わらない。

後ろから襲い掛かって来た男を踵落としで地面に叩きつけ、他の奴らも同じように倒れた男の上に積み重ねていった。


「はぁっ・・・はぁっ・・・こんなもんかよ?白の連中ってのは」
「黙れ!このアマァ!!」
「おいおい。その言い方、酷いんじゃねぇの?」


挑発には挑発を。暴力には暴力を。
単純な仕返し理論だけど、この世界では当たり前のことだ。

当たり前のことなんだけどね。
ここまで人数が多いと、さすがの私も疲れてくる。
段々めんどくさくなって、口数が減れば、相手が調子に乗ってくるのは当たり前のことだった。


「あれれ?どうしたんですかねぇ?疲れてきちゃった?」
「・・・ざっけんな・・・」
「強がっちゃって!まぁ、強がりなのも別にいいけどね」
「ッ!」


一瞬の気の緩みに、容赦などない。
お腹に走った強い衝撃に私は咳き込み、悔し紛れに殴ったであろう男を睨み上げた。


「ケホッ・・・!」
「どうやら、もう終わりみたいだな?好きにさせてもらうぜぇ?」
「触るな、ゴミが・・・!」
「あぁ!?なんだって!?」


キレた男が、私の胸ぐらを掴んで持ち上げる。
それでも私は動揺することなく、相手を挑発するように笑みを浮かべた。

やっぱり、取り出しやすい場所に移しておいて良かった。
スーツのポケットにさり気なく手を入れ、男達の気を挑発で引きながら中身の物を取り出す。


「何度だって言ってやるよ!ゴミがッ!!」
「てめぇ・・・!いい度胸だ。お楽しみの前に、思う存分痛めつけてやるよ!」
「出来るものなら、な!」


私は男の腹を思いっきり蹴飛ばし、そのまま転がるように男から離れた。
代わりに放り投げたのは、私が作った劇薬の瓶。
男達は小さいそれに気づくことなく私の方へ近づき、そしてその瓶を踏みつぶした。

パチン、と。

破裂音に似た、瓶の割れる音が響き渡る。
正直、今回持ってきた瓶のほとんどが“試作品”だ。

何が起こるか分からないので、目を瞑って口と鼻も塞ぐ。


「おい、この女何を・・・」
「ッ・・・!!!」
「お、おい!?どうした!おい!」
「が、あぁぁぁっ!いてぇえぇぇっ!鼻がっ、鼻がぁぁあっ!」


男達の反応を見て、私はすぐにその場を離れた。
離れてから呼吸を整えても、ピリピリとした痛みが鼻に走る。
どうやら、粘膜系を刺激する薬だったようだ。

痛みにもがく男達を見ながら、ずるずると後ずさる。
すると急に、大きな背中と鉢合わせになった。


「桐生・・・そっちは?」
「今片付いた。お前は・・・聞く必要もねぇみたいだな」


桐生の表情からすると、白の連中もはずれだったのだろう。
そうなると残りは、赤の連中――――――ブラッディ・アイのみ。

そうと決まれば行くしかない。場所も分かってることだし。

もがき苦しむ男達を無視して通り過ぎたようとした瞬間、桐生が小さくうめき声を上げたのを、私は聞き逃さなかった。


「どうした?桐生」
「ッ・・・!お、お前ッ・・・!平気、なのかっ・・・?」
「ん?何がだ?・・・あー、お前もしかして」


なるほどな、あれのせいか。
鼻と目を痛そうに押さえる桐生に対し、私はシュッと透明な液体を吹き掛けた。


「大丈夫か?悪いな・・・私が使った武器のせいだ」
あけ、お前。本当に平気なのか?」
「大丈夫だけど?」
「・・・なるほどな。抗体が出来てるってわけか」


私はずっと薬を作り続けてるから、こういうのがまったく分からない。
桐生が表情を和らげるのを見て、私は深いため息を吐いた。

これからはきちんと、影響の範囲も考えて薬を作った方が良さそうだ。
薬の効果をメモに取りつつ、桐生に次の情報を与える。


「えっと、ブラッディ・アイだったか?赤の奴らだな」
「あぁ」
「そいつらは、いつもデボラっていう店を使ってる。行くぜ!」


デボラに向かっている最中、桐生が伊達さんと電話しているのが見えた。
結構深刻な話をしているようだったが、その話はまた後で聞くことにする。

遥が何とかって聞こえるし、遥に関係する話のようだ。
何にせよまず、遥を早く見つけ出さないと行けない。
急ぐ私をもっと急かすように、ポツポツと雨が降り始めた。


「つめてぇ・・・」


冷たい雨が、勢いを増して私の身体を叩きつける。
雨が元々苦手な私は、濡れるのが嫌で足を速めた。

そのせいで、足を滑らせてしまうなんて、思わずに。


「うわっ!?」
「おい!」


足を滑らせた私を、桐生がお姫様抱っこで助けてくれた。
いや、助けてくれたのは嬉しいんだけど・・・。
周りから見ても恥ずかしい状況に、私はすぐさま逃げ出そうとする。

・・・が、しかし。

桐生の手は、がっしりと私の身体を掴んでいて放れない。
慌てふためく私を無視して、桐生はそのままデボラに向かって走り出した。


「おおぉぉおぉおい!?何してんだこら!下ろせ!」
「うるさい。黙ってろ」
「何でだッ!お、おい!馬鹿ッ!恥ずかしいだろ!」
「フン。こんなことで恥ずかしがってるようじゃ、まだまだ餓鬼だな」
「んだと!?」


睨み付けようにも、顔が近すぎてまともに見ることが出来ない。
恥ずかしくなって目を逸らせば、少し桐生が笑ったような気がした。

こ、こいつ、分かっててやってやがる!
苛立ちとは裏腹に、仕返しが出来ない今の状態を恨む。


「ッ~~~・・・!」
「どうした?急に静かになったなぁ」
「うっせぇよ!さっさと行け!このハゲ!」
「・・・ほう」


殺気に似た嫌な予感が、身体中を走った。
言い過ぎたと思って謝罪を口にしようとするが、もう既に遅く。


「あ、ちょ、まて!きりゅ・・・」
「・・・・」


ひょいっと身体が浮いたかと思うと、勢いよく店の方へ投げ捨てられた。
冷たい感触と走る痛み。そして桐生の殺気の冷たさ。

走る痛みに加え、周りからの視線が痛くて耐えられなかった私は、そのまま通り過ぎようとする桐生にすぐさま謝罪を口にした。

























「すみません、もう言いません!言わないからこの状況で無視だけはやめてくださいぃぃいいい!」
(私の必死の謝罪に、桐生は今までにない楽しそうな笑みを浮かべて、もう一度私を抱きかかえた)
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(龍如/オール・海賊/剣豪)