Erdbeere ~苺~ 狂気が狂気を生む瞬間 忍者ブログ
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2012年12月25日 (Tue)
桐生&龍司/切甘/狂気/※ヒロイン視点

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響く銃声に身体が震える。
こんなの、リアルな世界にあって良いことじゃないはずだって、身体が訴えていた。

でも現実には、それが見えている。
私に対して牙を向き、襲おうとする化け物―――ゾンビの姿が。
噛まれたら最後という恐怖の中、私は必死に銃を抜き、ゾンビの頭を撃ちぬいた。


「は、っ・・・は・・・ぁ・・・!」


疲労。
ただの喧嘩じゃねぇんだ、これは。

化け物に食われないためのサバイバル。


「ガァァ・・・!」
「まだ、生き残ってやがんのか・・・!」


いつ銃弾が尽きるか分からない。
服いっぱいに詰め込んで来てはいるが、それすら信用出来ない。

いや、もう何も信用しちゃいけないんだ。
自分さえも、いつ自分で無くなるか分からない。

赤く滴る血。

噛まれた後の腕。

そう、私ももう少ししたらゾンビになる。
あの化け物の仲間になるんだ。
だから信用できる今のうちに、意識がある今のうちに、私は彼のもとへ行かなければいけなかった。


「桐生・・・・」


桐生の元へ。
愛するあの人の手で、最後を。

結局、最後の最後まで私は女々しかったな。
最後ぐらいド派手に死んでやろうとかおもってる時期があったのに、すっかり桐生にほだされちまって。


「桐生・・・!」
「・・・!?あけ、どうしたんだ・・・?」
「なんや?・・・・あけ、どないしたんや、その傷は!!」


目の前に見つけた桐生と龍司の身体に、私は縋りついた。
何も語らずに銃を捨て、二人の目の前にバッと腕を広げる。


「殺してくれ」


言わなくても、分かったんだろう。
私がどうしてこんな行動に出ているのか。

この傷跡がなんなのか、を。


「殺してくれ。私が、一馬を、愛しておける・・・うちに」


私が私で無くなるのは嫌だ。
桐生を、永遠に愛していたい。

ずっと、何があっても。
誰かの代わりとして使われている自分でも良いんだ。

一瞬でも良いから、私を愛してくれた彼に。


「お願い・・・だ。ずっと、一馬を愛していたいんだ。化け物になって、お前が分からなくなるなんて、私は・・・・」


壊れてしまいそうなほど、怖い。
死ぬことより、その方が怖かった。

私が目を瞑って腕を下げると、カチャリと銃を構える音が響いた。
嗚呼、桐生、泣いているのか?お前。
銃を構える音と共に響いた声が、震えているのを感じて微笑む。


「・・・ほんと、うに・・・良いんだな・・・」


泣いてくれるなんて、嬉しいよ桐生。
最後まで憎まれ口しか叩かなかった私を、愛してくれていたんだな。

それだけで、充分だよ。


「愛してる、一馬」
「・・・っ俺もだ・・・だから・・・先に、逝ってて、くれ・・・必ず迎えに行く・・・・」
「あぁ・・・・」


目を、開いた。
私の方に銃を向ける桐生の表情が、今まで見たことないほど悲しみ歪んでいた。

・・・・嬉しい。
その表情をさせれるのは、私だけだと、そう思わせてくれ。
次の瞬間には死を覚悟して目を閉じた私の耳に、鋭い音が響いた。


「・・・・!何しやがる、龍司」
「だめや。許さへんで」
「なぜだ。・・・あけが、そう望んでいるんだぞ」
「アンタの女やとしても、ワシが惚れた女でもあるんや。・・・どんな状況でも、殺すことは許さへん」
「龍司・・・お願いだ・・・。私はもう、助からないんだ・・・」


分かる。
ドロドロと、何かが流れ込んでくるのが。

私が私じゃなくなっていく。

嫌だ。嫌だ。壊れたくない。


「お願い・・・!!!」


桐生の銃声は響かぬまま、やがで二人は小さな声で話し始めた。
そして何かを決めたのか、銃を下して私の方に近づいてくる。


「・・・?二人、とも・・・どうし・・・」


ガッ、と。
音を立てて首を掴まれた。

苦、しい。
ギリギリと音を立てて首を絞めているのが桐生だということが分かると、私は自然と身体の力を緩めた。


「死んでも、お前は俺のものだ」
「かず、ま・・・」
「だから綺麗なままで・・・お前を殺す」
「・・・あり、が、と・・・・」


なんだっていい。
この人間としての何かが湧きあがってくる前になら。

どんな殺され方だって。

桐生。お前に殺されるなら良いんだ。


「あい、し・・・て・・・・」
「・・・・」
「・・・・・」


意識が、消えていく。
最後に見えたのは桐生の泣き顔と、狂気に満ちた龍司の表情。

なんでだろう。

何故かその表情が、少し、怖くも思えた。




























「行ってくるよ、あけ


そう私の耳に囁き、桐生は外に出かけて行った。

私は生きている。
でも動かすことも出来ないし、あの湧き上がるどす黒いなにかも感じない。

何もかも、感じない。


「・・・・・」


彼らは私を綺麗な状態で殺し、そして綺麗な状態で私の身体だけを殺した。
ゾンビにかまれた部分から近いところ、全部を切り取って。

その部分を、何か新しいもので付け加えたのだろう。
私の身体は綺麗なままだった。
でも狂気に満ちた彼らの表情に、私の心は壊れてしまった。


「・・・・どう、して」


まるで人形のように私を扱う彼ら。
そこまで、愛してくれていたのか?

でも、こんな愛し方、間違ってるに決まってる。

一度死にかけた人間を、ここまでして。

なんで。
どうして。
桐生、どうしてお前はこんなことを・・・・。


『一生俺だけのものだ、あけ


狂気に満ちた瞳。
死んだと思っていた私が目を開けた先に映ったそれは、もう桐生としての表情を失った男だった。


『お前は俺の唯一の帰る場所なんだ。俺を置いていくなんて・・・許さねぇぜ』


ああ、そこまで愛してくれてるのか?
ありがとう、桐生。

でもおかしいよ。
まるで、もう、人形のように。
桐生。お願いだ桐生。昔の桐生に戻って。

私を、早く、殺して。

桐生。


「・・・・」


今日も私は何も言わず、ただ佇み、愛の言葉をささやく桐生を見つめる。
偽りの身体は綺麗だけど動かない。

私はずっとこのまま、人形として、彼の愛玩として生き続けるのだろう。

自分で死ぬことも出来ず。
私はただ、愛されるだけ。






























狂気の街が、狂気を生む。
(愛する者を再び失うぐらいなら、永遠に保存してしまおう。人形として、そう、永遠に)
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